昨年ブナの山として登って好印象を得た群馬県の「奥利根水源の森」に今年も登りたく、冬季閉鎖されていた車道が開通したので出かけた。しかし標高1400mのキャンプ場はいまだ冬から早春の姿で雪も多量に残っており、目の前の小山さえも登ることができなかった。
歩くのは早々に諦め、用意していた別のプランでいく。どちらにしても翌日は新潟の山に登る予定だったので、今日のうちから新潟に入ってしまう。おととし紅葉の時期に登った天水山に登ることにした。
ブナの根明けはだいぶ進んだ [ 拡大 ]
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奥利根水源の森を後にし、関越を再び北上する。塩沢石打ICで下り、十二峠を越えていく。十日町へは先月に続き今年2回目だ。
周囲の山と集落は春爛漫から新緑の季節へ。田んぼには稲が植えられ、緑も濃くなっていた。また浅春の空気が漂う1か月前に比べ、こんなにも変わるのかと驚く。
松之山温泉を通り大厳寺高原へ。下の様子では雪なんかあるのかと思っていたが、標高を上げていくと道脇に見られるようになった。細い林道で山奥深く分け入っていく。路面が雪に覆われていたので、手前で駐車する。「天水越のブナ林」入り口のところで、案内の標柱が倒れていた。
ここから歩くことにし、いったん出発したが、路面に覆われていた雪はよく見たらそれほどでもなさそう。注意すれば車は通過できそうだ。この先もほとんど雪はなかったので。引き返して車で行けるところまで行くことにする。
天水山・松之山登山口の手前30mのところ。道は多量の雪で塞がれ、今度こそ車は無理。再び車を停めて歩き出す。
トイレのある松之山登山口周辺は、林道の表面を含めまだ50㎝以上の雪に覆われていた。ついさっきまでは緑濃い風景、しかし標高1000mもないところにまだこんなに雪があるのだ。さすが豪雪の地である。
天水山は1年半ぶり。またしてもお昼からの登山となった。おととしの秋登った時は、登山口から1時間もかからないような山に、すばらしいブナの原生林を中心とした深い自然が詰め込まれており、とても強い印象を受けた。ブナ100リストの中でもイチ押しの山のひとつである。
今日は芽吹きの森の雰囲気ではもはやないが、新緑のこの時期もよさそうだ。
ただ、この時期の天水山の登山計画は意外と難しい。雪溶けがかなり遅く、アプローチの車道(国道403号)は5月中下旬まで冬季閉鎖されている。一方、標高は1000mをちょっと超えた低山のため、夏は暑そうだ。春の登山適期をうまくつかむのは難しく、そのため登る人は少ない。この日も、ヘルメットを被った現地調査風の人や、バードウォッチングでカメラを構えた人を数人見たのみだった。必然と秋の紅葉時期に登山者が集中する。
山に入っていく方向も雪が被っていて道が見えない。GPSと前回の記憶を頼りに、雪の下に聞こえる沢の音を聞きながら登っていく。
やがて、見覚えのあるブナの大木がお出迎え。根明けのブナであるが、もうずいぶん雪は溶けていた。土の出たところにはオウレンの白花、そしてブナの発芽が見られる。
急斜面につけられた道は、見えたり見えなかったり。ブナは相変わらずすばらしい。樹齢100年~200年程度のそう老樹でないものが揃っており、そういった年齢層のブナが醸し出す、凛とした雰囲気があたりを支配している。登山口からすぐ近いのに静かなブナ林である。
GPSを見ながら、変な方向に行ってしまわないように注意して登っていくと、水の流れの先に標柱が立っていた。稜線はまだであり、なおも緩い斜面を登っていく。一面の雪で方向がよくわからない。藪を避けながら適当に登っていき、稜線に上がった場所は正規の登山道からはかなり東寄りだった。
稜線は今までとは打って変わって、雪が全くない。反対側は長野県に面した急崖で、南側なので雪溶けも早いのだろう。新緑に包まれた道の林床にはオオイワカガミが群落を作っていた。
天水山へは、やせ気味の稜線を緩やかに上がっていく。ブナの大木が増え、直径70㎝超のものも出てきた。最後はちょっと急な登りで天水山山頂に到着する。ブナに囲まれた静かな地で、黒姫山方面が切り開かれている。信越トレイルの起点である説明板がある。山頂にも雪はなく、地面は乾いていた。
お昼過ぎからの歩き出しだが行程は短かったのでまだ時間的に余裕はある。双耳峰の片方となる西ノ峰まで往復する。短い距離だがここも深い森でブナは見ごたえがある。他にオオカメノキの白い花やタムシバ、ユキグニミツバツツジがよく咲く。
緩やかな地形には残雪がある。ブナを含めた稜線上の低灌木は、冬はこの深い雪の下に匍匐して生活している。春、雪溶けに合わせてむっくりと起き出してくるので、これらの木はいまだ冬芽のものが多く、周囲の高木とはかなり遅れて芽吹いてくる。マンサクなどは今ごろ花をつけているものもある。
これらの若い木もいずれは成長して、雪に倒されることもなく周りの高木と同化するのだろう。
稜線を下り、先ほどの分岐点まで戻る。1043mの小ピークを往復してから下山することにした。
下りしな目にしたブナの根明けは、さっきと比べサイズが大きくなったような気がする。気温の高さゆえ、目に見えて雪溶けが進んでいるようである。
林道に下り立つ。これを歩いて隣りの山伏山まで足を延ばしたかったが、林道は雪が積もっているのでまたの機会とした。山伏山もブナがすばらしいと言う。
駐車地点に戻って山を下る。ついに山中で一人の人とも出会わなかった。天気よく、新緑でさわやかな山なのに、これはもったいない。松之山温泉の日帰り施設「美の山」で入浴し、今日泊まる十日町駅近くまで戻る。