久しぶりに桃の花を見に、山梨県の山へ足を運ぶ。
ワインで有名な山梨県は桃や梨など他のフルーツも豊富である。中央線の勝沼ぶどう郷駅や春日居町駅周辺、また中央自動車道の釈迦堂、一宮御坂インター付近は桃畑が多く、一番いいときには一帯がピンク色に染まりまさに桃源郷となる。
今年は暖かさの影響もあり、標高の低いところは3月下旬ですでに満開近くになっているようだ。
山梨学院大学付属中・高校前から八人山を望む。左は月見山
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中央自動車道で八王子あたりまで来ると、細かな雨が落ち始めていた。天気予報は芳しくなかったのだが降るとは思っていなかった。
おそらく、笹子トンネルを抜けた西側はもう少し天気がいいだろう。ただ、山梨県中西部の天気予報は「晴れ朝晩曇り」となっていて少し天気が心配なのである。
この「晴れ朝晩曇り」という予報、実は晴れ予報の中でもお日様とは一番縁遠いパターンである。ほかに「晴れ」「晴れ時々曇り」「晴れ夕方から曇り」「晴れ昼過ぎから曇り」「晴れ昼前から昼過ぎ曇り」など、好天を表す予報は様々あるのだが、晴れ朝晩曇りは一番下のレベルである。おみくじで言えば末吉みたいなものだ。
山に登る人は朝早くから行動するため、朝が曇りの予報はあまりうれしくない。ただ、この予報で本当に朝晩に曇って、日中は晴れるのかと言うとそうでもない。単に湿度の高い朝晩は雲が広がりやすい、という程度問題だけであって、そのへん予報屋さんは「アバウト」なのである。下手をしたら歩いている間はずっと曇りということもある。晴れ朝晩曇りは一番消極的な晴れ予報で、経験則的には、曇り時々晴れよりも晴れる時間が少ないように思う。
気象庁の天気予報の出し方には決まった傾向のようなものがあり、それを分析していくとけっこう面白い。(天気ではなく、あくまで天気予報の分析である)いずれそのへんをこのサイトでまとめてみたいと思っている。
笹子トンネルをくぐっても、雨は降ってないもののどんよりとした曇りだった。今のところ天気予報は当たっている。一宮御坂インターで下り、国道を走って駅伝で有名な山梨学院大学の駐車場に着く。ここの駐車場は広く、一般に開放されているようなので使わせてもらった。すぐ隣りに中央線酒折駅、駅の先に今日登る予定の月見山、八人山と思われる山が見えている。
5年前に石和温泉の大蔵経寺(だいぞうきょうじ)山に登った際、登山道で八人山への分岐を見ていたので、今回八人山側から登って大蔵経寺山とつないで歩いてみようと考えた。自然林に囲まれた穏やかな尾根道は、春に歩くのにいい。
酒折駅の下をくぐって民家の間の道を行くと酒折宮という神社に行き当たる。ここは連歌発祥の地として有名だそうだ。神社の人が出てきていたので、しおりをもらった。ソメイヨシノが満開になっている。
道は緩い坂道で、山梨学院付属中・高校の校舎の横を通ると不老園という梅園の前に出たが、扉は閉まっていた。今年は梅が早く咲き終わってしまったので、すでに閉園としたそうだ。標識に従い遊歩道を登っていく。ちょっとした高台に出ると、連歌の碑というのがあった。大きな岩が積み重なっており、これは昔の遺跡でもあるのか。岩の上に立つと木の枝越しではあるが町並みが広く見渡せた。
山道はここから始まる。部分的に踏み跡程度のところもあるが、少し山慣れた人ならそれほど問題もない、雑木林の快適な道である。戦没者の慰霊碑が突如現れた。
標高が低いこともあろうが、低木はかなり芽吹きが始まっている。月見山・八人山・伴部山は酒折三山と呼ばれるようで、酒折駅を起点に周回できる。あまり知られた登山コースではないが、取り付きやすく落葉樹が多いので新緑や紅葉時にいいだろう。足元にはスミレもちらほら見え始め、桃の花も咲いていた。
緩い傾斜の道を行くと左手のピークを大きく巻くように鞍部に至った。おそらく巻いたピークが月見山なのだろう。ピークに至る踏み跡がわからなかったので、戻るように適当なところを登り返して月見山山頂に立つ。
南北に広い山頂で、南に少し行くと三角点があり、また「鏡台山」という山名を示す板切れが石に乗っかっていた。
麓からこの山を眺めると稜線がちょうど鏡台のへこみのようにたわんでいて、そこから月が昇るのが見られたという。月見山、鏡台山という2つの名前はそういうことから来たものらしい。
鞍部から先は少しばかり歩きにくい急登となる。石がゴロゴロした踏み跡が続く。いくつかの小さなコブを越えていくと右からもう1本の尾根が合わさり、その少し先が八人山のピークだった。
山名板があるが展望はない。先ほどの右からの尾根はおそらく伴部山に続くものだろう。山頂はアカマツのほか、自然林に囲まれ居心地がいい。この奇妙な名前の山は特に深い謂れというものはなく、単に八人が共同所有していた山というだけのようだ。
緩く下って、いったん穏やかな広い尾根に出る。ある程度標高を上げても芽吹き盛んで、ミヤマウグイスカズラやミツバツツジの咲き始めもあった。3月でこれほど萌黄色の林を歩くのもあまりない。
このあたりから地形図上では山道を示す破線が描かれている。そのせいか、踏み跡も少しはっきりしてきたようだ。
標識のある場所に着く。三ツ石分岐というところで、おそらく677m点の少し先辺りだろう。右に下る方向が三ツ石を示しているが踏み跡は薄い。正面には大蔵経寺山からの稜線が伸びている。その稜線に合流する箇所は標高950mくらいなので、計算上はまだ標高差が300m近くあるのだが、すぐ目の上のあたりに見えているのが不思議だ。
三ツ石分岐からは急登が続く。いったん尾根の肩に上がった後さらなる急登。さすがに樹林も冬の姿となり、手を使う場所も現れる。コースタイム上は1時間足らずの所を300m近くも登るので、これくらいはあるだろう。
すぐ近くに見えていた稜線だが、登ってもなかなか近づかない。むしろ遠ざかっている気がする。300mの高度差を実感した。
ようやく斜度が緩んで大蔵経寺山と深草観音方面を結ぶ稜線に合流した。「鳥獣保護区」の赤い看板が目印である。簡単な活字の標識もあった。ここを鞍掛峠と呼ぶ文献もある。
951mピークは合流点から東に数10m進んだところにあった。ここが今回の最高点である。まだ冬木立の自然林の稜線だが、雲を割って薄日が届き、どことなくぬくもりも感じられる。
大蔵経寺山へは、いくつかの緩やかな起伏を経て、だんだんと高度を下げていく。途中で「深草山」などと書かれた奇妙な標石が道の真ん中に埋まっていた。左へ下っていく尾根道を分け、ダンコウバイやキブシ咲く明るい林を下る。813m分岐で尾根は二手に別れ、ここは左へ行く。時折り西(右)側の眺めが開け、町並みが見下ろせる。
チョウジザクラがあちこちに咲く。今回の行程で初めて、こぎれいな指導標に行き当たる。左は長谷寺に下る道のようだ。そのままさして登り返しもないままに、三角点標のある大蔵経寺山に着いた。背後は今日初めて見た人工林だが、南側は自然林で木の枝を透かして町並みが見える。展望こそないが、静かな雰囲気でいい山である。
山神宮のコースをおばさんが一人、登って来た。今日山中で出会ったのは、八人山付近で1人、それとこの女性のみである。
今日はその山神宮への道を下る。地形図には登山道の線は書かれていないが、下のほうに神社の印があるのでそこを目指すのだろう。遊びのない急坂が続くこのルートは石がゴロゴロしていて、登りはかなりきつそうである。下りだとずっと同じ方向に下っていくので、悪く言えば単調、良く言えばみるみる高度が下がっていくのがわかるので面白い、そんなコースである。
ちょっと横道にそれることも全くなく、石和あたりの町並みがどんどん大きくなってくる。学校の体育会系の部活だろうか、若者の元気な掛け声がここまで聞こえてくる。
いったん林道に出るが、そのまま直進して尾根通しに下る。木々の芽吹きも復活し、標高300~400mくらいになるともはや淡い新緑模様の山となっていた。
山神宮の境内に下り着く。お賽銭を投げ入れ、階段の道を一気に下っていく。なお、山神宮から林道を下っていくルートも考えられる。石和温泉駅に下るならそのほうがいいだろう。今日は下山後酒折駅まで歩くので、できるだけ西側寄りにルートをとりたい。
イノシシ除けのフェンスを開けて下り立ったのが果樹園の斜面だった。あたり一面白い花が咲いているが、ブドウだろうか、梨だろうか。この果樹園は南に面していて眺めが良く、天気のいい日は富士山や南アルプスの眺めが得られるかもしれない。今日の空は厚い雲に覆われていて残念である。
登山口に下り立つと山神宮の里宮が立っていて、すぐ隣りに小さなゲートボール場があった。方向を西に変え、あとは舗装道路を歩いて酒折駅へ戻るのみだ。
正面に見える伴部山や八人山と思われるピークを目指し歩く。青梅街道から1本入った住宅地の道はお寺も多く、敷地内の庭の桜は満開だ。先ほどの果樹園で見られた白い花の木は道沿いにも多く植えられている。道路工事の監視をしている人に聞いてみたが、はっきりした答えは得られなかった(後で調べてみたらどうもブドウ畑だったようである)。
青梅街道に出て踏み切りを渡り、車を停めていた山梨学院大学に戻る。
山中ではあまり桃の花は見れなかったが、笛吹市を車で周回して桃の花畑を見に行くことにする。
ももの里温泉付近もかなり咲いていたが、少し標高が高いところはまだまだのようだ。少し戻って春日居町あたりまで行くと、今がちょうど見頃となっていた。以前、兜山に登ったときに見た鮮やかなピンク色の絨毯にはちょっと及ばないものの、これだけ咲いていれば十分だ。
芽吹きの森と桃と桜。季節は春本番である。