下山路から桃の里を見下ろす
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例年、4月第3週あたりに甲府盆地は桃の花で彩られるそうだ。山の上からピンク色の絨毯を眺めてみたく、春日居町の兜山に登った。
無人駅の春日居町駅で下りる。桃の里を辿る道は、家と家との間に小川がせせらぎ、どこか懐かしい匂いがする。桃は満開だ。
ただ、天気は晴れてはいるもののもやがかかり、正面の兜山は霞んでいる。それにしても兜山とはまさにその名の通り。兜そっくりの形をしている。
帰りに寄る予定の岩下温泉の横を通り、舗装車道は緩やかな登りへ。桃の花もぐんと多くなる。幅広の農道を横切り、夕狩沢古戦場の説明版を見て、林道に入っていく。芽吹きから淡い新緑に移り始めた雑木林が目に優しい。
工場のところから少し行くと堰堤が見えてくる。登山道入り口は右側に付いていて、そこをさらに少し入っていくと指導標。ここから右の山道を登り出す。なお正面に進む道は、東屋と駐車場のあるもうひとつの登山口に至ると思われる。
スミレの咲く雑木林の山道はなかなかの急登。大きな石がゴロゴロと現れてくるとさらに傾斜は増す。
ここは「岩場コース」と呼ばれ、もうひとつの登山口に駐車場などが整備されるまではこのコースが一番多く登られていたようだ。今日はまだ登山者に会っていない。
若干傾斜は緩むが平坦になることはなく、そのまま直登気味に高度を稼ぐ。
木の間から望む甲府盆地は、いつのまにかはるか下になっていた。しかしやはり春霞の影響で、くっきりした展望は望むべくもない。
鎖のかかった岩場にさしかかる。登りなら使うほどもない鎖ではあるが、かなりの急傾斜であるので下りは少し緊張するだろう。やはりこういうコースは登りにとるほうがりこうだ。
鮮やかなミツバツツジの下に立つと、すぐ横が岩棚の展望地になっていた。
芽吹きの山肌、それにゴルフ場が眼下に大きい。プレイをしている人の姿まで見える。しかしその先のピンクの絨毯は、言われれば何となくわかる、そういった程度でしか見えない。山頂から下って来る人が数人いた。
展望地を後にし、さらに登る。ここから山頂までは意外と距離がある。
たどり着いた兜山頂上は雑木林の中で展望はない。山梨百名山を示す標柱があるのみだ。
頂上から3分ほどのところに展望地がある。さっきの岩棚の展望地と同じような眺めだが、やはり若干高度感が違う。
桃畑は相変わらず見えないが、周囲の山々も春霞でまったく見えていない。富士山も展望図があって初めて位置がわかるくらいだ。しかし、ここは天気さえよければ、富士山と御坂山塊、甲府盆地となかなか素晴らしい展望が得られそうな場所ではある。
山頂に戻り、さらに北に進む。新しく出来た登山道を分け、990mピークを目指す。この山塊では兜山は最高点ではなく、今から行く990m地点が一番標高のあるところだ。そこに至るまでは、自然林の豊かな気持ちよい道が続く。
山梨県中央部の山々は植林が少ないのがいい。
990mピークは展望も乏しく、特に特徴のない岩の突端であった。ここからはもう下山である。
随所で、ビニールシートで保護された登山ガイドマップが、指導標代わりに設置されている。そのため現在位置はわかりやすい。
マメザクラが咲く中、コルを過ぎ、岩堂峠への道を分けると林道に下り立つ。
ここからは林道歩きで、半舗装と砂利道が交互に続く。新登山道に入る分岐が現れる。さらに下るともう1回新登山口を分け、東屋と駐車場のある場所に至る。
駐車場にはかなりの数の車、そして多くの登山者。もう11時半なのだが、この時間からかなりの人が兜山を登るようだ。
車道に出て、やがてさっき頂上から見えていたゴルフ場の縁を回り込むように下る。普段ならつまらない車道歩きなのだが今回は違う。視界をさえぎるものが失せると、目の前に甲府盆地が一面に広がる。山頂では霞んでいた眺めも、ここまで下るとかなりはっきり見えてくる。
桃源郷を歩く
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桃の花
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菜の花と桃の花
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小川沿いに岩下温泉へ
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高度を下げていくにつれ、ピンク色はどんどんクリアになっていく。歩いている道自体も、桃畑の中を割って入るようにつけられていて、鮮やかな桃の花がすぐ近くで見れる。
岩下温泉
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廊下から源泉が覗く
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やがて菜の花の黄色も交わり、色彩豊かな春山の風景が展開する。
これで富士山や南アルプスが遠望出来たら最高であろう。
走湯神社の横を過ぎると傾斜はなくなり、盆地の一番低いところに下りる。ここからは川沿いに歩いて、朝見ていた岩下温泉に向かうことにする。
近くで雷の音が聞こえ始めた。やがてポツポツと雨も降り出す。さっきから、気温が高い割には肌寒い感じがしていた。この感覚はたしかに雷が来るパターンであった。
すんなり岩下温泉に着けばよかったが、途中で道がわからなくなり1時間ほど余計に歩いてしまった。
岩下温泉は甲州で最古の温泉とのこと。日帰り温泉は旧館にあるのだが、これがまた雰囲気のある、年代を感じさせる造りの建物なのである。
内湯のほかに28度の大きな源泉浴槽があって、これが廊下のすぐ下にあるのだ。戸もないし、男女の仕切りもない。旅館というより公衆浴場だ。お風呂を中心に造られた建物なのである。
この奇妙な雰囲気の温泉はとても気に入った。山頂からくっきりとした展望が得られるときに、是非とも再訪したいものだ。
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