ブナ探索山行 第2回
筑波山の北側の登山道を歩いた。
筑波山神社から登る南側の登山道は杉の大木や照葉樹林が多く、荘厳なイメージがあるが、北側はブナやシデ、カエデなどの落葉樹の森となっている。南側と北側とで植生が異なるのは高尾山と同じで、さらにどちらの山とも近世以前に信仰の山として樹林の伐採が禁じられていた経緯を持つ。
そして低標高であるのにブナがある。高尾山と筑波山、何かしら共通点の多い両山である。
今年は開花した筑波山のブナ
ブナの開花・結実は5,6年の周期をとることが多い。昨年は東京の高尾山、箱根、新潟の山など各地でブナの開花が見られたので、今年は全国的に開花のあまりない年と思っていた。筑波山の昨年がどうだったかはわからないが、今年は、林冠で芽吹いていたブナのほとんどが開花していた。これは思ってもみなかったことだ。
男体山のブナ芽吹きは雄花を伴う [拡大]
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男体山一帯はブナが多いが、芽吹いているのは花芽のある林冠部分のみだけで、木の枝全体が開葉するのはもう少し先のようだ。ブナ以外の高木はほとんど芽吹いていない。
御幸ヶ原から自然観察路に入る。途中にあった登りの踏み跡をたどってみた。直径1mはあろうかというブナ巨木が何本もあり、筑波山はこれほどブナの多い山だったのかと驚く。
このあたりも同様に花をつけて芽吹いていた。今年の筑波山のブナは山中が一斉開花のようである。
先週見てきた新潟のブナ林ではほとんど開花していなかった。ブナの開花・結実の同調現象は同じ山域の範囲内だけのものなのか、ある程度地方をまたいで見られるものなのか、わかっていないことが多いが、少なくとも筑波山のブナは新潟と同調していないようである。
御幸ヶ原から女体山にかけての稜線にもブナは多い。それも樹齢300年は超えていそうな巨樹ばかりで、やはり雄花をいっぱいつけていた。
この一帯はほとんど園地化されているにもかかわらず、伐採を逃れてよく残っているものだ。ただし、稚樹や幼樹は全く見当たらない。温暖・乾燥化が進みブナの生育ができないことも理由のひとつだろうが、これだけ踏み固められてしまってはせっかく芽が出ても伸びないのではないか。
ダイナミックに枝を空へ伸ばす [拡大]
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登山道には「筑波山のブナを大切にしましょう」との看板があちこちに立っている。まだ本格的な新緑を迎えていない今の時期は、ブナなどの樹林に注目して歩いている人はほとんどいない。観光客だけではなく、登山の格好をした人でも同じで、花をつけたヤマザクラやツツジを見ては足を止めて写真を撮っている。皆の注目しているのは展望と花である。
男体山のブナが芽吹いて花をつけたことに気づいた人は、この日果たしてどれだけいただろうか。
最終氷期以降の温暖化進行で、太平洋側の平野や低山はカシ、シイ、アオキなどの照葉樹林が優占樹種となったと言われる。したがって両方の山とも、南側の照葉樹の森が本来の姿といえる。北斜面はおそらくいつかの時代に人の手が入ったのだろう。
自然林という言葉は北側の広葉樹の森ではなく、南側のほうに使われるべきだと思う。
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2019年4月28日(日) 探索
ルート:男ノ川-坊主山-自然研究路-男体山-御幸ヶ原-女体山下-筑波高原キャンプ場-男ノ川
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