~陽光に輝く北アルプスの峰々~
中房温泉-燕岳-大天井岳- 常念岳-一ノ沢 |
梅雨がなかなか明けない。しびれを切らして、今年の夏山計画は見切り発車した。 立山の山小屋の主人に聞いたことがある。梅雨の末期は下層雲が広がり、下界では荒れるが3000m級の山の上では晴れていることもあると。淡い期待を抱いて出かけた。 これで7月25日は、3年連続して北アルプス山行のスタート日となった。
●どしゃ降りの合戦尾根 新宿を発ったあずさが八王子駅に近くなると、ほどなくして急停車。新宿駅で人身事故があったらしい。 松本駅で名古屋方面からのしなの号に乗り換え、50分遅れで穂高駅に着く。乗ろうと思っていた中房温泉行きの乗合バスは行ってしまった。 タクシーで中房温泉に向かう。運転手さんとも今年の長梅雨のことが話題になる。稲の出来具合が気にかかるそうだ。
山に近づくにつれて青空の割合が少なくなり、登山口で下車すると、早くもポツポツと来てしまった。 ここは北アルプス登山の入門コースとして知られている。登る人、下りる人とも多い。燕岳と言えば、地元の学校登山で有名だ。タクシーの運転手さんによると学校登山は平日、それも登山者で賑わう夏の前に済ませてしまうそうだ。それ故、雨のことが多いという。 初めての山登りが燕岳とはうらやましいものだが、最初から大雨に打たれてしまうと、いっぺんに登山がきらいになってしまうだろう。 この日も大勢の中学生が下りて来た。好天の登山が出来ただろうか。100名くらいの団体で下りて来るので、通過待ちに時間を費やす。 そのうち雨は本降りになった。第二ベンチで雨具を上下着ける。傾斜はさらに増し、昨年のブナ立尾根と同程度の急登と感じる。 ザーザー降りになった。急な登山道はたちまちのうちに泥流が流れ出すようになる。樹林帯の道だが、この雨では木の枝葉も傘の役目を果たしてくれない。先に進むのがためらわれるほどの降りである。しかし、自分もその他の人も、黙々と登り詰める。
大雨でもガスはそれ程出ていなく、意外にも周囲の眺めが利く。後方に有明山あたりだろうか、なかなか堂々とした山並みも見える。 やがて合戦小屋に着く。ここは売店のみで宿泊施設はない。テント設営は出来るので場合によってはここで張るか、とも考えたが、この大雨の中の設営も気が進まない。やはり先に行くことにした。 樹高が低くなり、上部へ伸びる尾根がはっきり見え出す。天気がよければ燕山荘が見えるそうだが、なかなか視界に入って来ない。 ●茜色の空と輝く峰々 気持ち、雨足が弱まってきたようだ。しかしなおも、泥流の山道を黙々と進む。 あたりは高山の雰囲気となりアキノキリンソウ、チングルマ、シナノキンバイなどが咲く。突然頭上にテント場、そして燕山荘(えんざんそう)が現れる。 この大雨、急登の中重いザックでよく登り着いた。自分で自分を褒めてあげたいが、山登りを知らない人が見たら、何とまあ物好きなと思うだろう。 眺めのいいテント場だったが、雨と低温を理由に、情けないが小屋泊にする。燕山荘はやはりこの天気でキャンセルが多かったのだろうか、意外なほど空いていて3畳ほどに仕切られた小部屋を一人で使えた。従業員の女の子も親切で、一人の客なのに部屋と自炊場などを案内してくれた。もちろん繁忙日でないということもあるのだろうが、気に入った小屋のひとつになった。 夕方、雨が止み山荘の周囲は、山のドラマが繰り広げられた。 安曇野の一面の雲海に大きくかかる虹、直線虹。立山の中腹に1筋の赤い雲。水晶岳の後ろに日が沈む。その後の何とも例えようのない色の夕焼け。深まり行く闇の中、どっしりと構えた槍ヶ岳の姿も印象的だ。 大雨が大気の汚れをすっかり払い落とし、加賀の白山まで見える胸のすくような展望。土砂降りの中を登ってきたかいがあった。お釣りが来るほどである。 「今おれたち、すごいものを見ているんだなあ」高校生たちが思い思いに感動の言葉を口にしている。燕山荘の従業員の人も皆見とれていた。 |