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朝の気温は10度を下回ったようだ。奥秩父山塊越しに日の出を見る。3日連続して日の出を見られるのも珍しい。 そして時間の経過とともに素晴らしい天気となる。北岳で同じくテントを張っていた高校生に聞いてみると、やはりかなり冷えたようだ。 農鳥小屋は、朝食の時間を日の出前に合わせてくれるようで、この日は4時半過ぎに大方の登山者は出発した。自分もそれに合わせて西農鳥岳を登り始める。山の斜面が朝日で赤く染まっている。 西農鳥岳へは高度差が250mほどあるが、今日は荷物も軽くなったし、それほどきつさを感じず登れる。塩見岳、荒川岳など南ア南部の峰々が姿を現す。 途中で雷鳥の親子を見る。ひなが5,6羽、親の後をついて斜面を歩いている。 雷鳥は北アルプス登山を始めた6年前から3年くらいは毎回のように見ていたのに、ここ数年は全くお目にかかれていなかった。これも自然環境が少しずつ破壊されている表れかなとも思っていたのだが、今回は久しぶりに見ることが出来た。
登り着いたピークから少し東進すると西農鳥岳の頂上(3050m)となる。登山道は頂上を巻いているのだが、自分はその巻き道に気づかなかったおかげでピークに至れた。 山名標識はない。農鳥岳が間近に見える。見て面白いくらいに平らな頂上越しに、雲を被った富士山が見えている。 農鳥岳へはいったん鞍部に下り、西側の山腹をトラバース気味に上がっていく。それにしても白峰三山は思った以上に岩稜を歩く場所が多く、決して初心者向きのコースではない。農鳥小屋では登山初心者もけっこう宿泊していたのだが問題なく下れたのだろうか。
振り返ると間ノ岳、北岳の雄姿。その先に八ヶ岳。農鳥岳頂上(3026m)に登り着くと、雲の取れた富士山も全貌を現し、360度の大展望が広がった。どこを見ても山、山、山である。 涼風も気持ちよく、南ア山行最終日にきて、初めて夏山を実感出来る。 大門沢下降点へ向けて下山を始める。農鳥岳の東面を南下する。相変わらず東~南面の展望は素晴らしく富士山を道連れに高度を下げる。左の頬が日焼けしそうである 。 ハクサンイチゲ、シナノコンバイ、チングルマ、ナナカマドなど高山植物の群落が現れる。単種の花が固まって咲いている、このあたりの植生は北アルプスに似ている。南アルプスの花畑はどちらかというと、いろんな花が混在して咲いている印象が強い。 黄色い方向指示柱の立つ、大門沢下降点に着く。ここで南アルプスの展望の稜線ともお別れである。 ここを下る人はみな名残惜しそうにハイマツの斜面を下っていく。中には広河内岳をピストンしてから下る人もいるようだ。 日差しのまだ強い中、ハイマツ帯から潅木帯~樹林帯と植生の変わる中をどんどん下って行く。針葉樹に入る頃は傾斜もきつくなり、足任せに下るようにはいかなくなる。 樹林が切れ、大門沢の流れが見えるようになる。2つの沢の流れがハート型を形作っている。沢の上に横たわる稜線にはまだ青空が覗いている。 大門沢小屋を経て、道はなおも長い樹林帯の下りが続く。3000mの稜線から800mまで一気に下るのだから、やはり長丁場である。そして気温も10度から30度へ。大げさに言えば別世界を行き来する感覚である。農鳥小屋から奈良田への下りはそういう意味でちょっと不思議な体験が出来るコースだ。 その長い行程もそろそろ終わりが近づいてきた。沢の高巻きの道から吊り橋を3つ渡る。高度感があってちょっと恐い。 ほどなくして林道に下りる。奈良田発電所からさらに車道歩きのはずだったが、運良く広河原からの村営バスがやって来た。歩きは打ち切って車中の人となる。おかげで奈良田の温泉にも入る時間が出来た。 奈良田からは身延駅までのバスに乗り継ぐ。大きなザックを担いだ高校生、大学生が座席の大半を占めている。日本の山にもまだまだ若さがみなぎっている。 バスが市街地に出るまでの1時間半、周囲にはまだまだ山並みが続く。南アルプスの山は本当に奥深い。 |