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今年は梅雨明け後も不安定な天気で、中部地方は雷雨の日が続く。夏休みに入ったが、昨年の笠ケ岳のようなことは避けたくてなかなか出発する気になれない。 しかしいつまでもためらっているわけにはいかないので、30日の夕方、甲府に向けて出発した。 ビジネスホテルに前泊し、翌日3時半過ぎに暗い中を甲府駅のバスターミナルに向かう。すでに30名ほどの列が出来ている。 4時発の広河原行きバスは2台運行となったが、それでも数人の立ち客が出た。
夜叉神峠にはゲートが設置されていて、ここからは一般車は入れない。バスが高度を上げていくと、地平線に真っ赤な日の出を見ることが出来た。 そして真っ青な空。北岳・間ノ岳もくっきり見えている。今日を出発日としてよかった。 広河原バス停から歩き出す。なお、従来の「大樺沢出合」バス停はなくなり、北岳登山や北沢峠行きの村営バス接続は、ここ広河原が起点となった。 時刻はまだ6時を過ぎたあたりなので、吐く息も白い。
北岳を見上げながら吊り橋を渡り、少しばかりの急登ののち、御池コースを分けてしばらく登ると大樺沢沿いの登山道となる。 樹林から脱し、日差し強い河原に出る。青空の下、目指す稜線もはっきり見える。草付の斜面はミヤマハナシノブ、ホタルブクロ、クガイソウと色鮮やかな花によって彩られている。気温もぐんぐんあがり汗が噴き出す。 普段なら、アルプス山行の直前に短いテント泊をやってザックの重さに体を慣らせておくのだが、ことしはそういう機会が無く、いわばぶっつけ本番のテント泊装備である。 そのため、背中のザックはほんの2泊分の食料しかないにもかかわらず、今まで経験したことのないような重量感だ。おまけに最近、腰痛が再発し始めている。 大樺沢二俣へ。正面に北岳バットレスが大きい。大勢の登山者が休んでいる。沢の水はそう冷たくはない。 左俣を登り八本歯のコルに登る人、右俣経由で肩の小屋を目指す人と、だいたい半々くらいである。自分は右俣の草地の斜面を登り出す。 じきにダケカンバ帯に入りいくぶん日差しはさえぎられるが、急登が続きすでにバテ気味。ザックを下ろして何度も休む。前後に同じように、大きなザックを担いで疲れている人を多く見かける。 いつの間にか湧いてきたガスにより、上部は視界が効かなくなってしまっている。今の時期の南アルプスは、早い時間にガスが出てくるというが本当だ。しかし先ほどからの酷暑から解放されてほっとする。 樹林帯から草原の斜面に何度か出る。クルマユリやシナノキンバイなど、盛夏の花が咲き競う。しかし思ったほど花の密集度は高くない。
何度も長い休憩を取り、じっくりと高度をかせぐ。ようやく砂のザラザラした稜線に出る。稜線は幾分ガスが晴れていて、北岳の肩に続く尾根ははっきりと見えている。そして正面に仙丈ケ岳がどっしりと構える。 また、小太郎尾根の先に雲間から時々甲斐駒も姿を現す。 青空はないものの、北岳の肩までは快適な雲上の稜線伝いとなる。岩尾根を経て、北岳の肩に到着。長くつらい行程だった。 肩の小屋でテントの申し込みをするが、テント場はガスっていて視界が悪い。正面に見えるはずの鳳凰山方面の展望もゼロだ。 水場へは100m下ることになる。この100mとは距離ではなく高度差のことであり、かなり大変な下りとなる。水は小屋でも有料で売っている。しかしせっかくテントで来たのだからと、疲れた体をひきずりながら、30分かけて水場を往復した。 テントに入り、さすがに疲れきって寝入る。やがてテントをたたく雨の音、そして雷鳴も。ラジオを聞くと長野県全域に大雨注意報が出ているようだ。このところ、テントを張った日は決まって雷雨となる。 甲斐駒方面に大きな落雷の音がした。しかしそれを境に雷雨は収まり始める。 夕暮れ。仙丈ケ岳方面は晴れ上がり真っ赤な夕焼け、そして落日を見る。今日のうちに北岳に登っておきたかったが、夕闇迫り時間切れとなった。 |