南アルプスは2009年の甲斐駒以来である。南部の山となるともっと久々となる。このエリアは交通の手段が限られアクセスに長時間を要するので、通常では1日余計に計画することになる。
今回は前日夜に、車で5時間かけて山麓の駐車場まで行くという強行日程とした。
小聖岳から聖岳を目指す(2日目)
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御殿場ジャンクションから新東名高速に入る。自分のカーナビに新東名は登録されていない。新東名はまるでカーレースのように皆ビュンビュン飛ばしているので恐い。時速100キロではノロノロ運転となる。それでも南ア南部へのアプローチはこの高速の開通により少し楽になったようだ。
新静岡インターで下り、北の山地に向かって夜の田舎道をひた走る。麓の平地を行く道路は時間帯規制があり今の時間は通行不可。しかも前日の台風の影響が残りまだ復旧していないという。口坂本温泉~大日峠を経由する細い山道で行くしかない。予想していたこととは言え、かなり大変な峠越えとなった。道が舗装されているのが救いだ。
畑薙第二ダムに下りてからも湖岸の道が長い。インターを下りて70キロの道を結局2時間10分かかって、沼平駐車場に到着したのは夜の12時過ぎであった。
真っ暗な中、駐車場はすでに満杯だ。手前の原っぱに停めてこの日は車中泊する。
朝起きると、その原っぱも車でいっぱいになっていた。畑薙ダムは先の台風18号による、茶色く濁った湖面が痛々しい。
沼平駐車場には車止めのゲートがあり、ここから先は一般車は通れないので、井川観光のバスに乗っていく。この一帯には東海フォレストという企業が、赤石~椹島方面への足として送迎バスを走らせているが、企業関連の宿泊施設に泊まる人向けのものだ。
一方、井川の送迎バスはそれよりも南半分のエリア、すなわち今回登る聖岳・茶臼岳の山小屋と連携しておりその登山口まで運んでくれる。東海フォレストのバスと同じように、乗車時に山小屋の宿泊料金の前払いが必要かと思われたが、そんなことはなく普通に無料で乗れた。テント泊でもこのバスは使えそうだ。
ただし、地元白樺荘の宿泊者優先のようなので、当日では乗れないことがある。予約していったほうがいいだろう(自分も今回予約していた)。
この日も1台のマイクロバスでは乗り切らず、ミニバンが増便となった。
バスは、何とまあこんなところを無事に走るものだ、と思うほどデコボコの砂利道である。バスが横転しないか不安だった。沼平から1時間弱、聖沢登山口に着く。
初めから樹林帯の急登となる。今日はテントではなく素泊まりでの山小屋利用、荷物は軽いが夏の時期から体力は落ちており軽快さはない。周囲が落葉樹で明るくなると、傾斜は少し緩くなった。尾根を乗っ越して鉄製の橋や吊橋をいくつか渡る。吊橋はやや揺れるが、あさっての下山ルートで通過する畑薙大吊橋はこんなものではないだろう。
聖沢吊橋を渡ったところで少し休憩する。行き交う人は皆同じバスの乗客である。さっき会ったばかりなのにこんにちはと言うのもどうかと思い、挨拶は会釈程度になる。
聖沢の先からは再び、ジグザグの急登に。今度は長い。いくら登っても暗い樹林が続いて終わりが見えない。ひたすら我慢を重ねて何とか尾根の肩に上がる。わずかだが廃材のようなものが置かれているのでここが架線小屋跡であろう。「聖平小屋まで160分」の標柱が立っていた。
シラビソなど亜高山帯の木が増えると、空気がひんやりとしてきて、山が深くなったのを感じる。急な登りが復活するが先ほどのようなきつさはない。はっきりした尾根に上がった。反対側はるか上に、聖岳の頂上部が高い。そして聖岳から派生していると思われる深い谷が足元に見下ろせる。滝の音も聞こえる。ここは地図上の乗越という場所だろう。
高山植物保護の腕章をつけた人がいた。ここからは急なところはないが、山腹のトラバースが続きまだ2時間近くかかると言う。
休憩の後左手に進む。山の雰囲気はガラッと変わる。何箇所かで湧き水が出て、吊橋、桟橋を渡りながらの水平道が続いた。路肩が崩れているのが多いのは、先日の台風の影響もあるのか。
眺めのいいガレ場の斜面に出て、今日初めて周囲の山々が見えた。日当たりのよい場所ではトリカブトやノコンギクがよく咲いている。
尾根を回り込んで、岩角の滝見場に出る。眼前に形の違う2つの滝が見られ壮観だ。先客がいたので長居せずに歩を進める。緩い登り下りを経て、今度は遭難碑のある展望台、こちらのほうが眺めが広い。聖岳の東側の尾根も高い位置に見えている。その上には澄み切った秋空が大きい。こういう天気の日に山を歩くのは久しぶりだ。
見下ろすところに流れていた沢がだんだんと近づき、吊橋などで何度か渡り返す。鬱蒼とした針葉樹林も背が低くなって周囲が明るくなってきた。登山道がこぎれいに整備されてきて、小屋が近いことを感じさせる。なおもなだらかな道を行くとテント場があり、赤い屋根の聖平小屋に到着した。
小屋泊は久しぶりだ。室内はきれいで好感が持てる。素泊まりの場合は隣りの冬季小屋が寝床となる。ただ小屋の造りは本棟とほとんど変わらない。ウェルカムサービスとしてフルーツポンチが食べられるのはうれしい。山ではぜいたくすぎるスイーツだ。
給水施設も小屋の玄関にあり、自炊する人には好都合である。ここまでの登山道もそうだったが、南アルプスはある程度標高が高いところでも沢が流れ、水を得ることにあまり苦労しないのがいい。テント生活にはうってつけの場所なのだが、幕営したのはまだ数回しかない。縦走コースの標高差が大きく、テントを担いでの移動が大変な山域でもある。
なおこの聖平のテント場も、見たところ平坦でよく整地されており、眺めもよいのでお薦めである。
明日の天気予報があまりよくないので、今のうちに展望のいいところを歩いておきたい。ここまでかなりの標高を登ってきたのだが、一休みした後もう少し歩くことにした。
小屋の少し南側、茶臼岳方面への縦走路にある2383m点をとりあえず目指す。自分の持っているエアリアマップ(2001年版)には、「ガレ場で聖岳の眺めがいい」とある。ここからせいぜい100mあまりの標高差なので楽勝だろう。
樹林帯の尾根をぐいぐいと登っていくが、いっこうにガレ場の展望地に出ない。と言うか、もっと高度を上げないとガレ場なんてなさそうだ。
おかしいと思い、もうひとつのアルペンガイドの地図を確認したら、ガレ場の標高表示が2561mとなっていた。2383mというのはエアリアマップの誤植であった。
標高数字が間違っている地図なんて信じられないが、市販の地図にはけっこうこの手の間違いが多いのである。たぶん最新版のエアリアマップは修正されているであろう。
引き返すのも悔しいので2561m地点まで登ることにした。頑張った甲斐あって、やがて岩のゴツゴツした森林限界上に出る。ハイマツも現れる。聖岳の大きな山体が一望できた。
また進行方向には、草紅葉で色づき始めた南岳や上河内岳も眺められた。すぐにガスで隠されてしまったが。明日歩くコースのよい予習ができた。
聖平小屋に戻り、回りの人と山の話をしながら過ごす。明日は聖岳に登らず、光岳まで縦走する人がいた。朝同じバスに乗っていた人だ。
光岳に登る場合、聖経由にしても飯田市側からの易老渡の登山口からアプローチしたほうが近いのだが、台風で道が崩れ通行不能になったので、仕方なく畑薙側から登ってきたそうだ。
畑薙側も台風直撃直後は、椹島近くが崩落して送迎バスが運行中止になったが、2台のバスを運用して徒歩で歩きつないでもらうことで、1日で運行は復旧した。やはり東海フォレストなど企業の観光資源であるため、他のエリアに比べて災害への対応は早い。
いずれにしても、聖平から光小屋まではかなりのロングコースになる。南アルプス南部を歩く人はとんでもなく健脚が多い(なお光小屋はすでに小屋閉めしており、期間外開放となっている)。
中秋の日を過ぎた2200mの夜はさすがに冷えてきた。靴下を重ね履きして6時過ぎ、ちょっと早い就寝とする。