3日目の朝、今日の宿泊者も昨日以上に出発が早い。小屋閉めの日とあって、朝食が4時と早いこともあろう。
またしても、自分が出発する5時過ぎにはほとんど誰もいなくなっていた。
茶臼岳直下から望む富士山とご来光
|
東の空には雲が多い。しかし天気はよさそうである。茶臼小屋前から富士山も見える。大判カメラを構えた人がいた。
10分ほどで稜線に立つ。ヘッドランプを消す時間は昨日より早い。ゆったりした稜線を歩いて、ハイマツと潅木の中の登りになる。今日は始めから展望の道である。
振り向くと、富士山のすぐ左側の空が赤くなっていた。雲が多く日の出の瞬間は見られそうもないが、どうやら太陽は富士山の真後ろ、あるいはやや左から出てきそう。歩くのをやめてしばし見入る。
やがてじわじわと明るさが増し、富士山のちょうど真上、横縞の雲の間から朝日の線が届いた。9月23日は茶臼岳でダイヤモンド富士が見られる。記憶に留めておこう。
同じく小屋往復の一組のグループと行き交う。他に登山者はいなかった。光岳に向けて早発ちしたか、聖への縦走。あるいは昨日のうちに茶臼岳は登ってしまい今日は下山のみ、という人ばかりだったようだ。
今回出会った人はみな先を急ぎすぎる。深い山域なので、1日くらいは楽な日を設けたほうがいいと思うのだが。
茶臼岳山頂は目と鼻の先だった。細長く狭い山頂だが展望は秀逸。今回登った中では一番居心地のいい山だ。
光岳に向かう稜線、まだ距離はあるが今までのようなきついところはなさそう。そしてここは深南部の山の好展望台である。加加森山、池口岳、黒法師山、大無間山、小無間山、鋸歯、今までこのサイトで一度も書いたことのない名前の山ばかりだ。
15年登り続けた自分でも、まだ未踏の山域が日本にはまだいっぱいある。
もちろん上河内岳から聖、赤石、兎岳の高峰群も手にとるよう。太陽が低層雲から完全に脱すると、あたりは一気に明るく暖かくなった。
聖岳も昨日見たような輝く緑色を放ち始める。今日の南アルプスも1日、好天に恵まれそうだ。
茶臼小屋に戻ると、中は見事にもぬけの殻。小屋の人も早々に下山した模様。小屋閉めの日なんてこんなものなのだろう。残されたのは、テント撤収中の一人と、自分だけだった。
ただし宿泊用の2階は施錠されておらず、冬季小屋として開放される。水場も使用可能だ。紅葉のピークはもう少し先だから、自炊用具とシュラフを担いでの10月の南アルプスもいいかもしれない。
楽な行程の1日ではあるが、茶臼小屋からの下山路は標高差もあってなかなか厳しいようだ。小屋からしばらくは緩やかな尾根を下っていくが、やがてジグザグの急降下が長い間続くようになる。小屋の人が書いたと思われるユーモラスな指導標が気の紛れにはなるが、ここはできれば登りに取りたくないコースである。
大無間~小無間の稜線見えるベンチを過ぎるとやがて、右手に沢の音がどんどん大きくなってくる。見えてきた横窪沢小屋は、茶臼小屋と同じような造りだ。ここもすでに閉められている。
ほとんど自分しかいない登山道かと思ったが、登山者も下山者もそこそこいる。もっとも登山者というより、トレイルランの人ばかりだ。テント泊と思われる大きなザックを背負って、砂埃りを立てながら駆け下りていくのはかなり危ない。
横窪沢を渡って対岸に登り返したところが横窪峠。以降は緩急織り交ぜた下りが続く。中ノ段で「畑薙大吊橋」を示す標識を初めて見る。下山地も近いか。しかし木の間から覗く山並みは幾重にも深く刻まれていて、改めて山奥の山奥を歩いていることを実感させられる。
吊橋を渡り再び沢が現れる、ウソッコ沢小屋は無人小屋で、ここで初めて他の下山者(歩く人)に出会う。セキヤノアキチョウジやカメバヒキオコシが群落で咲いている。
ここから先はウソッコ沢に沿った登山道が続く。急坂はなくなるが沢沿いの道は荒れて崩れているところもあり気が抜けない。
吊橋が4箇所もある。その吊橋、渡るにつれどんどん長くなっていく。最後の畑薙大吊橋が182mもあるのでその予告編だろうか。もっとも4本の一番長いので20m程度なのだが。
4本目で右岸に渡ると、標高1000mから登山道は長い登りに転ずる。杉林に入り、山腹の長く緩い登りが続く。尾根を行き切ったところにベンチがあり「ヤレヤレ峠」と書かれていた。最後になってこんなに登らされるとは思わず、文字通りヤレヤレである。
でもようやく畑薙ダムの湖面を眼下に捉えられ、もう一息のところまで来た。涼風を受けしばらく休憩する。
道は支尾根を外れて急激な下りに転ずる。下り着いたところが畑薙大吊橋のたもとであった。
最後の難所、と言うわけではないけれど、とにかくこの橋は長い。今までの短い吊橋が木の板の上を歩くものが多かったが、さすがにここは鉄製である。5分ほどで対岸に渡る。振り返ると後から登山者が渡ってきた。吊橋は、人が渡っているのを見るのも楽しい。
あとは昨日バスで通った林道を戻るのみだ。3日間、深く雄大な南アルプス南部を歩き通して晴れ晴れした気分で沼平駐車場に戻る。時刻はお昼を過ぎたばかり。意外と早く下ってこれた。
3連休の最終日で高速の渋滞が気になるが、通り道なので白樺荘の温泉に立ち寄っていく。館内は南アルプス登山を終えた登山者で大いに賑わっていた。どうやらあるぺん号の参加者もここに立ち寄っていたようである。
ツルツル感溢れるとてもいいお湯だ。露天風呂からは茶臼岳を正面に見られる。
一昨日の峠越えの細道をあまり運転したくなかったので、国道362号を行くことにした。しかしこちらも大きく山越えをするルートで、最後になってダメ押しでまた山に登ってしまった気分である。
茶畑の斜面の間を通って静岡市街へ下る。東名高速は御殿場ジャンクションから大渋滞になり、帰宅は20時を過ぎた。