2005年8月27日(土)~8月29日(月) |
狭い車内ではほとんど眠れなかった。そのためか、明神あたりで意識がもうろうとして来る。明らかに寝不足だ。 これでは体が持たないと思い、徳沢のベンチでひとまず睡眠をとることにした。せっかく早朝発したのにもったいないが、今は体力の回復が第一と思った。 横になって2時間が過ぎた。太陽も高くなり、青空と暑さが戻っている。よく眠れたようで、徳沢の猿にたたき起こされる夢を見たくらいだ。水を汲み、徳沢園の奥にある長塀山登山口に入っていく。
最初から樹林帯の急登。しかし頭もはっきりし気持ちいい。木陰が日差しを適度にさえぎってくれて快適だ。 道は至るところに踏み跡、というより裸地化した場所が出来ていて、進路にいちいち迷ってしまう。木の根も露出している。しかし歩きにくいほどではない。とは言え、単調な長い急登がまだまだ続く。 やはりここ長塀尾根は下山によく使われるコースで、登りとしては横尾からのもののほうが一般的のようだ。 いったんなだらかになりかけるが、すぐまた急登。再度傾斜が緩まると、小広い平坦地に出る。通称「広場」と呼ばれているところで、標高2000m付近と思われる。 ほっと一息つき、休んでいると猿がすぐ上の斜面をのしのしと歩いていく。人間には目もくれない。自分以外にも、ちらほらと登る人を見かけるようになる。 平坦な道もそう長く続かず、じきに再び登りとなる。振り返ればコメツガの樹林越しに山々の稜線が見え隠れするが、展望を楽しめる場所は全く無い。 「標高2000m」の標識を見る。先ほどの平坦地が2000mで、以後ずいぶん登っているのでこの表示はおかしい。おそらく2200mあたりだろう。 方向が左に向くようになると頭上がいくぶん開けてくる。木々の高さが少し低くなってきている。次のピークが長塀山か、と何度も繰り返す。 池塘を見て平坦な場所を過ぎると、ようやく待ちに待った三角点標石。長塀山頂上は依然として樹林の中だ。しかしここまで登って来て、ひと仕事終えた充実感がある。 展望の稜線まであと小1時間。若干の上り下りがあり再び池を見る。ハクサンフウロ、トリカブト、オヤマリンドウ、アキノキリンソウ、ミヤマコゴメグサなど、晩夏から秋の花が周囲を彩る。やっと調子も乗ってくる。 そして視線を上げればウラジロナナカマドはもう、真っ赤な実を付け始めている。
さらにもう一回り大きめの池、妖精の池だ。針葉樹に囲まれた静寂の境。遠くに1年ぶりの北アルプスの稜線が覗いている。 高度を上げ、切り開きに穂高あたりだろうか、岩峰群の眺めも得られてくる。針葉樹林からダケカンバ帯に入るがすぐに森林限界となる。一気に展望が開け、ハイマツの稜線に出る。目の前にわだかまる台地が、もう蝶ヶ岳最高点(長塀ノ頭)だ。 蝶ヶ岳はまさに、森林限界から出たすぐの所にある。しかし展望は絶大で、目の前に槍・穂高の稜線が何と言っても素晴らしい。これまでの苦労が一気に報われる。 そして、すぐ下の蝶ヶ岳ヒュッテから延々と続いているハイマツの稜線が何とも伸びやかだ。反対の安曇野側はすでに真っ白、北の常念岳方面もガスに隠れ気味だが、そちら方面の展望は明日以降の楽しみにとっておこう。今日は槍・穂の眺めだけで十分である。 夏の終わりを告げる涼しい風が気持ちよく、しばらく頂上でくつろぐ。 ヒュッテで受付を済ませてすぐ隣りのテント場に向かう。入口を開けると槍が見える様にテントを張る。 「瞑想の丘」で、缶ビールを片手に槍・穂高を眺めながらのんびりと時を過ごす。梓川を挟んで屹立する北アの主役は息をのむほどに端正で美しく、1日中見ていても飽きないくらいだ。 蝶ヶ岳は燕岳とともに北アルプス入門の山と言われる。最初の北ア山行でこんな眺望を目の当たりにすれば、山のとりこになること請け合いである。 この日の夜は星空となったが風がかなり強く吹いた。 |