20日ぶりの山となる。20日も空くと季節が進み、高いところは山肌の色も変わっているだろう。久しぶりに東京周辺の山でもと思ったが、土日とも天気予報が悪いようなので、お日様を求めて今回も長野県まで足を伸ばした。
蓼科山の南方にある八子ヶ峰(やしがみね)は、ゆったりした高原状の山で、八ヶ岳などの眺めもいいという。蓼科山の登山口でもあるスズラン峠から登るなら、ほんの1時間程度の山になる。それではあっけないと思い、蓼科湖畔のプール平からしっかりと登ることにする。
しかもそれでもまだ軽めに思えたので、隣りの霧ヶ峰も欲張ってしまうことにした。白樺湖を挟む両峰は、登山口間をバスで行き来できる。このプランは、東京からのアプローチに電車バス利用でも時間的に無理はなく、最後までどうしようか迷っていたが、やはり朝方の天気の良い時間に登りたいため、車で行くことにした。
八子ヶ峰の稜線からは、八子ヶ峰山頂部と車山が重なるように望まれる
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車利用と決めても、どこに停めてどこを歩くか、車と路線バスを併用すると色々なルートの選択肢がある。結局プール平に停めたが、備忘録として他の案もここに記しておく。
- 茅野運動公園に駐車し、茅野駅または近くのバス停まで歩く(10分ほど)。プール平で下車し、二山を登った後、バスで茅野駅または下諏訪駅に戻る。下諏訪駅からは電車で茅野駅へ
- ビーナスライン沿いの花蒔公園に停める。公園前バス停からバスでプール平へ。霧ヶ峰下山後はバスでインターチェンジバス停。花蒔公園まで徒歩10分弱
- プール平まで車で行ってしまう。2座登った後は蓼科高原ラウンドバスで1時間、プール平へ(この案を採用)
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諏訪ICで高速を降り、ビーナスラインへ。プール平を通り過ぎてしまい、20分ほどロスする。久しぶりだったのであたりの様子をあまり覚えてなかった。蓼科温泉のある駐車場に入ると、ようやく記憶が蘇った。
プール平から車道を2分、親湯(しんゆ)入口から林道に入る。信玄棒道への登り口を右に分けると、すぐに親湯の建物が見えた。
親湯温泉は信玄の隠し湯として知られており、プール平という地名も、昔ここにプールのような広い露天風呂があったことからついたようだ。
建物の奥の川を渡り、山道へ。蓼科山の登山口の標識はあるが、八子ヶ峰の表示はない。伊藤左千夫の歌碑の方向に進み、すぐに蓼科山方面の登山道と分かれる(
棒道分岐)。林道を横断して低い笹原につけられた道を登っていく。再び林道に出て、しばらく歩くとはじめて八子ヶ峰を示す指導標と出会う。
カラマツとミズナラの深い森をなおも登っていく。トラバース気味の山腹道をひと登りすると尾根の背に出た。依然として樹林帯だが、反対側からの風が通って涼しく、気持ちがいい。登山道の傾斜は増し、岩っぽいヤセ尾根に変わると少しの距離の間樹林の背が低くなって、背後に南八ヶ岳の稜線が覗いた。
再びミズナラの林を歩き、
1811m点付近で左から登山道を合わせる。「東急リゾート」と標識にはあり、鉄道系リゾート会社提供のハイキングコースのようである。
右手の稜線を行くともう、急な登りはなさそう。やがて前方が開けて蓼科山と北横岳の、見事に形の違う2つの山が目の前に現れた。さらに左方向に、芝地の斜面に三角屋根の山荘が見えてきた。低い木々は早くも色づき始めている。蓼科山にどんどん近づき、展望もさらに広がる。三角屋根までは見た以上に距離があったようでなかなか着かない。
スズラン峠からの道が合流し、低い笹の斜面をひと登りで三角屋根、
ヒュッテアルビレオに到着する。中に人はいるのかわからない。振り返ると雲海から南アルプスや中央アルプスの高峰群が姿を現していた。しかし雲海高度が高く、山々はすぐに雲の中に没してしまいそうだ。
八子ヶ峰の頂稜部は標高1800m台の平原が続いている。ヒュッテからは一本道で、右手に蓼科山を仰ぎながら西に進む。八子ヶ峰
東峰を示す標柱があったが、山頂らしくなくただ伸びやかな草原の延長である。
八子ヶ峰の本峰は東峰より標高は低いようで、緩やかなピークを2つほど越えると霧ヶ峰と重なるように姿を現した。草原にはハクサンフウロ、ウメバチソウ、アキノキリンソウ、ヤマラッキョウなどが咲いているがさすがに花のピークは過ぎている。マツムシソウもまだ見られるが、季節の早い今年はやはり8月中に一番いい時期を迎えていたようだ。
リフト乗り場の先、八子ヶ峰の山頂に着く。ここもあまり山頂らしさはないが、適度な広さがありゆっくり休憩できる。目の前の霧ヶ峰はじめ、眺めもいい。しかし頭上にはいつ現れたか、大きな雲が太陽を隠し始めていた。南、中央アルプスもすでに雲の中である。
この先の稜線は東急リゾートのハイキングコースが伸びており、白樺湖方面の下山路へは少しだけ戻る。少し分かりにくいが、スキーゲレンデに続く幅広の道をとりあえず行けばよさそうだ。やがて登山道に戻るが、登りのコースに比べあまり歩かれてなさそうに見え、ところどころ笹で道が隠されている。傾斜はなだらかて歩きやすい。白樺湖の湖面も見える。
高校の林間学校風の団体が、軽装で大勢登ってくる。そもそも今の時代に林間学校なんてあるのだろうか、わからない。単なる旅行だろうか。
少し急げは早いバスに乗れて、次の霧ヶ峰をじっくり歩くことができそうだ。しかし道がスキーゲレンデの上に出たところで、方向を間違えてしまう。ロイヤルヒルスキー場のレストハウスに降り立つ頃にはもう間に合わないのを悟り、当初予定のバスを目指すことにした。
車道を下りていき、一箇所ショートカットの山道に入る。銭岩というのがあり、昔ここを掘り出したら小銭がザクザクと出てきたそうだ。
別荘や洒落た店が立ち並ぶこのへんはもう、山歩きの終点というよりも完全に観光地である。
登山地図では南白樺湖バス停がゴールになっているが、降り着いたのはグランド前というバス停だった。乗る予定のバスまで30分以上あるので、湖畔で休憩する。
白樺湖は1945年に造られた人造湖で、それほど大きな湖ではなく、対岸のホテルがよく見える。ホテルの庭にある木々はもう驚くくらいに黄葉が進んでおり、その建物の背後は穏やかな起伏の丘になっていて、登山道も見えた。おそらく霧ヶ峰に至る道だろう。今日はあの道ではなく、バスで車山の肩か、その先の登山口まで上がってしまう予定だ。
来たバスにはハイキングや観光客が20名ほど乗っていた。車山高原まで上がると空模様はやや持ち直し、青空が見えてきた。
リフトで山頂まで行ける車山高原では、どちらかと言うと家族連れやサンダル、Tシャツ、短パン、スカート姿の観光客が多く下車していった。ハイキングの人は次の車山肩から歩くのがほとんどだ。自分もそのつもりだったが、天気がどんどんよくなってきたので、この先の霧ヶ峰インターチェンジ(バス停)まで行くことにした。
蓼科山麓から続く山岳道路「ビーナスライン」は、霧ヶ峰を舐めるようにぐるっと張り巡らされていて、どこも展望満点である。前回の志賀草津道路も、車を降りたらすぐに山に登れてしまう道だったが、今回はさらに近いところに山がある。
その霧ヶ峰インターチェンジで下車する。インターチェンジと言っても高速道路ではなく、単に車道の交差点があるだけだ。標高はすでに1700mを軽く超えているのに、ドライブインの建物に並んでガソリンスタンドまであるのが奇妙である。
付近には観光客の他、ライダー族も群れていた。また、美ヶ原へさらにドライブする車も多いようである。霧ヶ峰には観光も含め、実は今回が初訪である。先週の横手山もそうだったが、こういうアウトドアドライブ文化が、日本の中部山岳には思った以上に根づいていることに気づかされた。
遠くに見えている車山の気象レーダー目指し、だだっ広い平原に入る。遊歩道化された道は人がいっぱい。一帯は高山植物などの自然探勝コースになっていて、幾つかのルートがある。適当に道を選び進む。傾斜はあるようでない、ほとんどなだらかな道だ。
アキノキリンソウ、ヤマラッキョウ、マツムシソウ、ハクサンフウロなど八子ヶ峰でも見られた花を再び見る。加えてハンゴンソウ、ヨツバヒヨドリ、ウスユキソウも。初夏の花の時期は過ぎたがまだたくさんの花が見られる。マツムシソウは八子ヶ峰よりもこっちのほうが多く残っているようだ。
大体が開けた草原を行くが、ときどき背の低い樹林帯に入る。案内板によると、元々沢筋の岩石地で水分が適度にあるところには、こうした小さな自生の林(樹叢・じゅそう)が出来やすいそうだ。
やや下って、車山肩に着く。登山道と言えないほどの立派な道となる。ハイカーの多くはここから登るようだが、他にもドライブがてら「ちょっと登ってみようか」風の人もいる。むしろザックなど背負ってない人のほうが多い。
ビーナスラインを眼下に、展望は相変わらずよい。それにしてもこの山上草原はとてつもなく広く、いったいどこまで続いているのか想像がつかない。霧ヶ峰は、昔はカヤ取りの場として使われていたそうである。
よく登っている八ヶ岳からは至近の距離で見えているはずなのだが、不思議とほとんど記憶に残っていない。蓼科山などは特徴ある形なので、よく覚えているのだが。
空は再び雲が多くなり、八島湿原から美ヶ原方面は眺めが悪くなっていた。今日、白樺湖から早い時間のバスに乗れたなら、その便は八島湿原バス停を通るので、そこから蝶々深山を経由して霧ヶ峰まで歩いてくるコースも捨てがたいのである。
最後はほとんど傾斜のない道で、気象観測所の立つ車山山頂にいた。広々としており、四囲は360度開けている。あいにく雲が増えて目の前の八ヶ岳や中央アルプス、南アルプスは上半分が見えず、北から西方向は完全に閉ざされてしまった。ただ眼下の眺めは素晴らしく、ビーナスラインがずっと下麓の方まで伸びており、信州側の平野も一望できる。
また、編笠山の優美な斜面の上には富士山が、こちらは雲海から頭だけ出していた。
山頂の奥には車山神社、その先にはリフトから上がってくる階段があって、行楽姿の人が続々と登ってきていた。(登山用ではない)杖をつく年配の方や、小さな子供連れなど、様々な人がやってきている。
八ヶ岳側に腰を下ろして休憩する。雲は次第に上がっていき、南アルプスや八ヶ岳も少しずつだが見える範囲が広がってきている。ここは晴れているとかなりいい展望台になりそうだ。
車山高原に下山する。プール平に戻るためのバスは車山高原が始発となる。リフト乗り場から、依然として遊歩道的な道を下っていく。
車山肩付近にも見られたが、道の両側にはずっと電気柵が張り巡らされている。マツムシソウなど高山植物は足元にもたくさん見られるが、もちろん電気柵の内側の方が花の数はずっと多い。
2つ目のリフト発着所を過ぎ、さらに下っていくと分岐があって、左はそのまま白樺湖に降りる道になっていた。午前中、湖畔から見えた登山道のようである。車山高原バス停は右折してすぐだが、直進方向にも踏み跡があるので寄り道してみる。5分ほどで小さなピークに出ると、雲が取れた八ヶ岳が目の前に大きく見上げられた。眼下には白樺湖や町並みも。ここもいい展望台で、バス待ちの時間つぶしによさそうだ。
レストハウスや遊戯施設のある車山高原に下山し、今日の山行は終わりになる。二つの山を合わせても時間的には大して歩いていないのだが、中身のあるいい山巡りができた。
やってきたのはかわいいボンネットバスで、最初の乗客は自分ひとりだったが、蓼科山登山口でどっと乗ってきた。この蓼科高原ラウンドバスは、蓼科高原と霧ヶ峰高原を結んでいて、こういうバスは他になく利用価値が高い。おまけに北八ヶ岳のロープウェイ駅にも立ち寄るのでけっこう時間がかかるのだが、まあそれはしょうがない。
プール平に戻り、すぐそばにある蓼科温泉共同浴場で汗を流す。外観が少し新しくなったが、中の様子とお湯の質は以前と変わらない。番台風の受付も昔のままで懐かしい。
プール平近くの信州そばを食べてから、東京に帰る。