今年の紅葉山行は、山形県の2座に登った。駒ヶ岳は米沢市と高畠町との市境に位置し、さらに豪士山への縦走路は福島県との県境となっている。
そして朝日連峰の俊峰、祝瓶山である。どちらも中腹のブナを中心とした紅葉が期待できる。
山形県へのアクセスは今回、東北中央自動車道を利用する。以前は朝日連峰へ行くとき、山形自動車道で北側から回り込んでアプローチしていたので時間がかかった。東北中央自動車道の開通で、福島県から山形県南部へ直接入れるようになった。しかも福島のジャンクションから米沢のインターまで無料区間である。
東京の自宅から、駒ヶ岳の登山口まで4時間30分(それでも長いが)。前日車中泊なしで早朝発で行くことにした。
ブナ色に紅葉した駒ヶ岳
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東北自動車道で埼玉、栃木、福島と北上する。阿武隈川流域は台風の被災地もあって通過するのも気が引ける。
福島ジャンクションから大笹生、そこから東北中央自動車道だ。米沢までは上り下りとも1車線で、ドライブインもないが、高速としての利用価値は高い。以前から計画されていた高速道ということだが、東日本大震災後の復興支援で、地元のインフラ整備の必要性が高まったことが開通を後押ししたそうだ。
米沢中央インターで下り、県道を走って高畠町へ。駒ヶ岳はほかの同名の山と区別するために、便宜上「高畠駒ヶ岳」とも呼ばれている。尾根続きの豪士山を結んで縦走路がつくられている。
全国的に知られた山ではもちろんなく、山形県の人でも、高畠町以外の人は知らないような山かもしれない。昨年船形山に登った時、山形駅近くの登山ショップ(大型店)の店長さんと避難小屋で同宿したが、「駒ヶ岳に登りたい」と言ったら、山の存在を知らなかった。
自分が駒ヶ岳に注目したのは、もちろんブナが見どころの山だからである。
高畠町に入ると、空の広いのどかな町並みが広がっていた。豪士山登山口に駐車場があるとのことだが、杉林に入ったところで林道が未舗装となり、轍が大きくえぐられていた。四駆、またはジープでないと通行が困難に見えた。
草むらに車1台分くらいの駐車スペースがあったので、登山口よりかなり手前になるが、ここに車を停めることにした。歩き始めると、林道はあちこちで溝が深くなっており、運転をあきらめて正解だったと思った。
道には「この先マツタケ保護につき入山禁ず」との看板が。左手の山は私有地でこのあたりのことを言っているのだろう。本宮キャンプ場を過ぎ、豪士山登山口は沢が流れていた。車高の高い四駆車が1台停まっている。このようなオフロード車ならここまで入れるだろう。
下山予定の豪士山方向と分かれ、さらに林道を歩き駒ヶ岳登山口に至る。沢を何度かまたいでいく道で、草深い。水量は、普段より幾分多めなのかもしれないが、倒木などはなく踏み跡を見失うことはないものの、あまり人が入っていないように見える。
「西信濃沢登山口」の標柱から緩やかに登りはじめ、周囲は落葉樹となる。地面にホオノキの大きな葉が敷き詰められていた。次第にブナが増えてくる。東北の山と言っても、このあたりの標高ではまだ緑がほとんどだ。それでもところどころでカエデやウルシの赤を見る。
ブナの森にはサワグルミやシナノキも見られる。ブナの葉は手のひらサイズ、やはり大きい。ブナ以外も木の葉はみな、太平洋側で見る同種の木より大きい気がする。樹木だけではない、林床に咲く花も花の葉も、日本海側のものはみな大きい。
小さな沼があった。WEBの「やまがた百名山」の登山ガイドによると、この沼は11月から春先にかけてしか見られないそうだ。
その先で方向が南に折れ、稜線上となる。ここからは低灌木のヤセ尾根となって見通しがいい。左手に大きく見られるようになったのは目指す駒ヶ岳である。山肌は茶のブナ色となっていた。
西風が強く、日も差さないので暗いのが残念だが、今がまさに紅葉の見ごろとなっている。あのブナ色の中に入るとどんな景色が展開するのだろうか。
尾根の角に上がったところが969m点。標識にはご丁寧にも「969mピーク」と書かれている。ここも眺めがいい。ゴヨウマツと思われる木が点在している。
この先駒ヶ岳までは、岩の間をすり抜けていくヤセ尾根がしばらく続いた。
いったん下って駒ヶ岳への登り返しとなる。やはりブナが増えてきた。圧巻である。紅葉もちょうどいい。ブナの多い山と聞いていたが想像以上だった。
駒ヶ岳山頂に達する。展望は乏しく空も鉛色なので、小休憩後先に進むことにした。
圧巻のブナ林はさらに続く。登山ガイドには「ブナ原生林」とあるが、高い木や老樹がなく樹高や太さが揃っているので、一度伐られたあと天然更新したものだろう。
焼枯というピークに立つ。ここが高畠町最高峰だそうだ。標高は駒ヶ岳とほとんど変わらない。右手に広がる山地は福島県側である。大きな山体は七ツ森というピークだろう。この山域は、北に朝日、西に飯豊、他に吾妻連峰などもよく見えるはずだが、今日は標高の高い部分はみな雲をかぶっている。
紅葉のきれいさに気分が高まっているが、これで天気が良かったらまた違った錦絵巻の山が、目の前に展開していただろう。
登山道はやや草深くなる。定期的な刈払いは豪士山のほうで実施されているようで、駒ヶ岳を結ぶ縦走路はそれほど歩かれていないのか、刈払いもそうしょっちゅう行われていないのだろう。
それでも歩きにくいというほどのものではなく、時々開ける展望と紅葉を楽しみながら、北方向へ歩を進める。
ススキの原を前景に、紅葉の山が正面に頭をもたげてきた。ひかば越えという鞍部で、豪士山への登りはここから始まる。風がよく通って涼しい。このあたりから少しずつ青空が覗くようになり、空気もカラッとしてきた。少し高原状にもなっており、ヨツバヒヨドリやノコンギク(かヨメナ)が咲き残っており、アキグミの赤い実がたくさんついていた。
豪士山への登りとなる。背後の展望が開け、駒ヶ岳と969m点が双耳峰のように見える。西側から回り込んでたどり着いたところが豪士山山頂。広くて展望も素晴らしい。しかし飯豊、朝日、吾妻は依然として雲の中。これら高山の眺めは明日の楽しみとする。
豪士山周辺の登山道は年に2回刈払いが行われ、地元の小学生も登ってくるとあって、半ば遊歩道化している部分もあった。それでも豪士峠からの下山路は水場付近の道が細く、歩行に慎重を要する。
このあたりもブナが発達し、大木もあった。その後は距離は長いが穏やかな下りが続く。左手に紅葉に染められた駒ヶ岳が高くそびえていた。バックに青空も見えている。
尾根の名前となっている花の肩は露岩で開けている。アカマツの生える登山道になってきた。隣りはマツタケの採れる山と看板に書かれていたのを思い出した。
高畠町の山はマツタケがよく採れるらしく、郷土料理や土産品として売られているようだ。ここ駒ヶ岳も採れるのだろうか。しかしそれらしきものはない。こんな誰も登るような山で、マツタケがすぐ見つかるようなことはあり得ないとは思うが、アカマツを見かけると反射的に根元を探してしまう。
朝直進した豪士山登山口に下ってこれた。充実した縦走路だった。明日のメイン山行を前に、足慣らしのハイキングの山と思ったが全くそんな風でもなく、ここを主目的に山形に来てもいいくらいだ。
車のある所まで少し余計に歩かなければならなかったため、歩行時間も6時間を超えた。駐車地に来ると自分の車の隣に重機が停まっており、駐車スペースを少し広げてくれていた。
そういえば、今日は山中では誰一人として会わなかった。紅葉のいい日曜の山で誰にも会わないとは、信じられない。百名山でなくても、こんな珠玉の山が東北にはごろごろある。
明日もまた登りがい満点の山である。日帰り温泉はパスして、全泊地の長井市へ入る。