~日本海を眺める笹原とブナ林の山~ 白神岳登山口駅-マテ山-白神岳 -大峰岳-崩山-十二湖 |
●朝焼けの山頂から笹原の稜線へ 翌朝、最初に外に出た人が「朝焼け!」と叫ぶ。その声に合わせて皆が起き出す。ガスも取れ、宿泊者揃って山頂で日の出を待つ。
昨日は全く見えなかった岩木山の秀麗な姿が、東方向にシルエットで大きく眺められる。背後の空は朝焼けで赤らんでいる。 そして少し右に視線を変えると、眼下に広大なブナの森が広がっている。この一帯が世界遺産に登録されたブナ林の核心部であるが、そう言われて初めてなるほどと思うくらいだ。いつも見ている山の姿と比べて、特に異なるようにも見えない。 太陽はそのブナの森の方向、はるかかなたに顔を出す。荘厳な山の朝のドラマを皆で見続ける。 今朝はいつもと比べて少し遅めの7時前に出発する。左に日本海、右に岩木山、向白神岳などの山並みを眺めながら笹深い稜線を進む。 昨日通った大峰分岐へ。ここから大峰岳方面の縦走路に入って行くと、笹が一段と多くなり勢いを増す。いくつか小さい突起を越して行くが、道が笹に隠されている上に道そのものもでこぼこしていて一定しない。 ピークからの下りでは何度も尻もちをつく。焼石岳で初めて東北の山の道の険しさを実感した、あの時のことを思い出した。 踏み跡はしっかり付いていて迷うような場所もないが、なにしろ身長を越すほどの笹(ネマガリダケ)の丈である。「(ヤブを)こぐ」というのはまさにこういう感じなのだろう。展望がいいので本当に海の中を泳いでいるようである。 やせ尾根の稜線の上を、登山道は右側に寄ったり左側(海側)をなぞったりしながら付いている。の、海側沿いに寄るとそうでもないが、右側に付くとは急な崖で切り立っている部分も多く、そういったところで道が笹に隠されていると、踏み抜きしないかと緊張する。 1122m峰を越すとようやくブナの樹林帯に入るようになり、笹も幾分少なくなる。しかしそれでも時々、笹をこぐ箇所もあるこのような感じの道が大峰岳を付近まで続いている。 大峰岳まで1kmほどの所で960mピーク。休憩していると女性の2人組が追いついて来た.「登山口まで7.5km」との道標に「まだまだ長いですね」と言う。
その後もアップダウンが多い稜線を進む。海をたまに見るせいか、「津軽海峡冬景色」をつい口ずさんでいる。ご当地ソングとしては少し距離が離れているが、やや下り気味の道になると、曲のテンポと足の運びが何故かしっくりくる。 振り返ると白神岳が思いの他格好よくそびえている。前方にはたまに大きなピークが見えるのだが、なかなか大峰岳であってくれない。何度もピーク越えをし、木の階段の前に来る。140の木段を登り切ると大峰岳頂上であった。樹林に囲まれて展望は芳しくない。 このへんから笹は少なくなる。所々で世界遺産地域の説明版がかかっており、現在地が赤丸で示されていてわかりやすい。それによるとこのへんで世界遺産のエリアからは離れて行くようだ。 なおもアップダウンをこなしていくと木のベンチのあるピークに着く。そこから1分ほどで崩山の頂上だ。久しぶりに展望が開け、海が望める場所だ。 崩山からはようやく下りに入って行く。ブナ林は密度が濃い。このへんはブナばかりが目立ち、広葉樹や針葉樹の混合林だった前日の登りとは対照的だ。それにしても、豊かなブナの木の間越しに海が見えるというのはやはり、あまりお目にかかれない眺めである。 ●ブナ林を下り十二湖、不老ふ死温泉へ
静かなブナの森の下りが続く。下のほうから1人登って来る。今日初めて人とすれ違う。やはりあまり利用されてない縦走路なのだろう。そういえばさっき追いついて来た女性たちはどうしたろうか。 途端、左側が大きく開けた。ロープ柵で仕切られている先は、崩れて断崖絶壁状態になっている。ここが大崩だ。眼下にブナの樹林帯、そして湖がいくつも見える。 この地は1700年頃の地震によって崩壊し、流れ落ちた土砂によって川がせき止められいくつもの湖が誕生したと言う。湖は33あるが、ここから見えるのは12個とのことなので十二湖と名付けられたそうだ。 崩落は今も進んでいるようで、ロープを隔ててボロボロと土が落ちて行くのが見える。このへんにはキオン、ダイモンジソウ、トリカブトなどの秋の花が豊富である。 はっきりとした下りになる。しかしここからが意外と長く、下っても下っても下りがある感じだ。本当に1200m程度の山なのかと不思議に感じる。 ようやく平坦になり、水場の前に出る。もう少しで登山口に下りれるのだがここで軽く食事をする。 鶏頭場ノ池、青池のある登山口はそこからものの10分あまりであった。登山者の入山をカウントするという精密機械が取り付けられている。 池の前に下りると観光客がいっぱいだ。青池は不思議な青色をした小さい池で、このへんの名所になっている。青いのだが水は透明で神秘さが漂っている。 湖畔を歩いて10分ほどで、「挑戦館」という売店のある十二湖駐車場に着く。バスもここから発車するが、避難小屋で一緒だった人とたまたま出会い、十二湖駅までその方の車に乗せてもらえた。
さて、東京への帰路も夜行バスとなる。発車にはまだまだ時間があるので、黄金崎の「不老ふ死温泉」に行ってみることにした。海岸の露天風呂で知られていて、最近JR東北新幹線の宣伝用のポスターに使われている。 逆方向の五能線に乗って艫作(へなし)駅で下りる。この岬は白神岳からもよく見えていた。駅から送迎バスで5分ほど、立派な建物の不老ふ死温泉であった。(旧館もあり) 昨日は海抜1200mから海を見て、今は0mの露天風呂から同じ海を見ている。かもめが磯辺で戯れ、遠くには漁船が見える。 水平線の遥か遠くに見える陸地よようなものは朝鮮半島だろうか。 帰りはホテルの車でウェスパ椿山駅へ行く。やはり売り出し中だからであろうか、ホテルの人はこんな立ち寄り客にさえも配車をしてくれた。荷物のザックも預かってくれて親切だった。高そうだがいつかは泊まってみたい所である。 車の中から、日本海に沈む夕日を見た。夕焼けは濃いピンク色をしていた。 |