この秋は紅葉の進み具合がどこも早いようだ。谷川岳など比較的近いところでも十分楽しめそうだが、今回は東北地方へ足を運ぶ。
山で紅葉を見るなら東北だと、以前は足しげく通っていたのに、車を使うようになってからは、近場ばかり行くようになってしまって、福島県より北の山へはごぶさたしていた。
信仰の山として長い歴史を誇る月山(がっさん)は、夏の時期には今でも白装束姿の行者さんが山を行き交うそうだ。そして高山植物の多さでも有名、さらに9月下旬から始まる紅葉のすばらしさも多くの人を惹きつけている。自分にとっては今回が初登である。
月山には念仏ヶ原というところにいい避難小屋があるということなので、当初はそこに泊まることも考えていたのだが、今回は土日の前後に休みを取れなかったため、日帰りで歩くことにする。
登路は北側の弥陀ヶ原からのコースで行く。なるだけたくさん歩きたいので、下りはリフトを使わずに麓の志津温泉まで歩くルートにした。
弥陀ヶ原の草紅葉
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新宿から夜行高速バス「夕陽号」で第一ホテル鶴岡へ。そこから少し歩いて、鶴岡駅前で路線バスを待つ。
30分後にやって来たバスは行き先が「羽黒山頂」になっていた。月山八合目には乗り継ぎで行くのかな、と思い乗り込む。紅葉シーズンでバスも混むかと思ったら全然だった。
素朴な町並みを縫ってバスは山間へ。羽黒山登山口のある羽黒センターを過ぎ、バスは標高を上げていく。羽黒山頂バス停でバスはトイレ休憩となり、行き先が「月山」に変わった。短い時間の間で羽黒山の奥まで行ってみる。杉木立の荘厳な佇まいだった。
バスは月山に向かって上っていく。森林限界を越え、青空の中にもう鳥海山が見えるようになった。月山八合目に到着。そこはもう展望の地で、草紅葉の斜面の先には月山の山頂も少しだけ頭を見せているようだ。
レストハウスの横手から登山道に入る。広々とした黄金色の草原につけられた木道を上がっていくと、十字路となった。月山に向かうのを先延ばしして、弥陀ヶ原の木道を少し歩いてみる。
弥陀ヶ原は木道の遊歩道を周回できるようになっているので、月山に登らずとも、レストハウスに荷物を預け(無料)、草紅葉の中を散策する人も多い。周回コースを少し歩くと、池塘を前景に草紅葉鮮やかな撮影スポットがあった。
分岐まで戻り、再び月山に向かって歩き出す。樹林はなく、一面の笹原にミネカエデやナナカマドの赤がパッチワークのように点在している。ただし両側の笹の背が高く、360度の展望ではない。それでも少し傾斜のある坂に出ると、背後には常に鳥海山の姿が現れ、庄内平野と日本海の限りない眺めが広がる。
弥陀ヶ原の木道が終わった後は、ずっと石畳の道が続いている。そのうち少しばかり岩がゴツゴツしてきた。真っ赤な紅葉と雲海越しに、東に見える大きな山塊は、はじめ蔵王かと思ったが葉山だった。葉山はこんな立派な山だったのか。
笹が低くなり、眺めが開けた中を進むようになる。緑の山肌に赤を中心とした紅葉がきれいだ。そういえば今日見た緑は千島笹ばかりで、ハイマツがない。東北のこの標高の山なら当然あるはずと思っていた。登山ガイドには生育しているとの記載もあるが、たぶんそれも限られた範囲なのだろう。
このあたりは風が強く、ヒューヒューと音を立てて吹きすさぶこともある。ただ天気は快晴で、こんないい天気の下で山を歩くのはいつ以来のことか。
やがて白い建物が見えてきた。仏生池小屋の裏手から再び緩い坂を上がっていく。オモワシ山と呼ばれるピークを東側から巻き、岩っぽいちょっとした急坂には「行者返し」という標柱が立っていた。名前ほど大変な登りではなく、よいしょと乗り越えるとさらに展望は広がる。目の前には尾根状の盛り上がりと、その終点に月山山頂と思われるピークが見えてきた。
その尾根に上がると、湯殿山方面の西側の山並みも見え始め、独立峰ならではのパノラマ展望となった。信仰の山らしく随所で石碑が立っている。そのまま尾根を進むとだんだん賑やかになってきた。
三角点のあると思われるピークを回り込み、月山神社の正面に着いた。社は石積みに囲われていて、先ほどの三角点ピークに行くには石積みを乗り越えないといけないが、バチが当たりそうなのでそれはやめた。
西側の斜面に眺めのよいところがあったので、そこで昼食とする。足元の姥ヶ岳や湯殿山とそれに続く色づいた稜線が、一望の下に見下ろせた。その向こうには麻耶山や朝日連峰などの山並みがすばらしい。おそらく一番遠い所に見える稜線は新潟県下越の山だろう。日本海に浮かぶ粟島もよく見える。
独立峰の月山は周囲に高い山があまり見られないと思っていたが、山稜が幾重にも連なって眺められたのは意外である。
一般に「月山」と言うとひとつの山のような印象を持つが、同程度標高の山に比べるとその規模はとてつもなく大きく、全方位に広い盛り上がりを見せている。月山と朝日連峰は、全長およそ20kmくらいと同じくらいのスケールの山稜だが、朝日が以東岳・竜門岳・大朝日岳などいくつものピークを連ねているのに対して、月山はほぼひとつのピークで同じ大きさの山地を構成している。
今日のように八合目から登ってしまうと、歩いているうちはあまり山の大きさを感じることはなかった。けれどこうしてあらためて山頂から俯瞰すると、この山の規模を十分に体感できる。
広い山頂部の南側へ行ってみると、南から西側の眺めがほしいままだ。シンプルな展望盤で吾妻連峰、蔵王連峰の位置を確認する。朝日連峰の中で一番目立つのは以東岳なのだが、展望盤には書かれていない。その背後にはかすかに飯豊連峰も望めた。