~雲海の先の霊峰富士~ ふじみやま(1640m) 2009年12月6日(日) 快晴
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吉例の温泉プラス富士見山行、今年も12月に行くことにした。1日目はその名もズバリの「富士見山」である。 前日、七面山ライブカメラで積雪があるのを見ていた。七面山の標高は約1900m。富士見山も1640mとけっこうな高度があるから、雪が積もったかもしれない。今シーズン初めてアイゼンを携行する。
中央高速を走り、双葉JCTで中部横断自動車道へ。1車線だがガラガラの高速道だ。終点の増穂ICから国道を南下。 身延町の切石地区を経て「なかとみ青少年自然の里」を目指す。急な細道をどんどん上がって、標高およそ700m、平須登山口の駐車スペースに車を置く。 天気予報は朝から晴れ、それに携帯で確認した三ツ峠ライブカメラも、富士山くっきり。それなのに身延町の上空は一面の雲である。平須登山口に着いたときも日差しはなく、肌寒ささえ覚えた。 団体さんがやってきたのを見て、出発する。登山道入口は駐車スペースのすぐ上にあった。近くにバス停もあったが、「町有バス 患者バス」などと書かれていて、一般の部外者が乗っていいようなバスなのかわからない。 登山口には「山梨百名山 富士見山」とのきれいな看板が掲げられていた。
人工林の山道に入ると、「標高700m 山頂まで3.5km」との標識が立っている。以後、標高500mごとにこの標識が出てくるので、この先の行程がわかりやすい。 それにしても、ここまで車でかなりの標高を稼いだのに、まだあと900m近くの高度を登らなければならない。富士見山は思った以上に高く、奥深い山のようだ。 大方が檜、カラマツといった薄暗い樹林帯を黙々と歩いていく。木漏れ日が差し込むのを感じるものの、木の枝を透かして見られる眺めは真っ白だ。 簡単な小屋とトイレがある。造りは古いが手入れはなされているようだ。 山梨百名山など、どこかからお墨付きを戴いた山の中には、初めは登山道や導標の設備が施されても、時の経過とともに整備・維持作業が行き届かないまま、荒れてしまっている所も多い。景気が悪くなると真っ先に予算が切り捨てられてしまいそうな分野だ。 富士見山は地元の尽力で、また麓の念力協会(宗教法人)の手による、参道としての登山道の整備が継続されている山のようである。 2つ目の小屋を見るあたり、「標高1000m、山頂まで2.5km」とある。登山口から1kmの距離で、300mの高度を上げたことになる。 頭上に明るい光が差し込んできた。見上げればカラマツ林の上部に、淡くも青い空が見える。もう少し高度を上げれば、雲海から出られると確信する。
緩く登高して自然林の支尾根に乗ると、木の枝越しではあるが背後に眺めが広がっていた。富士山と、その手前は毛無山塊であろう。 それらとこの富士見山との間は、一面の雲海になっていた。今まさに、この足元に敷き詰められた雲海を、抜けて登ってきたのだ。それがはっきりわかる図式であり非常に面白い。 ガレ場をトラバースしていくと樹林が切れる場所があり、再び富士山と対面。雲海の大きさに目を見張る。 おそらく麓の身延町はこの雲がすっぽりとかぶさっているのだろう。今までアルプスや東北の高山などで印象的な雲海を見てきたが、これほどまでの生々しいものを見たのは初めてである。このまま雲海に飛び込み、向こう岸の毛無山や富士山まで泳いで渡っていけそうな錯覚にとらわれる。 太いブナも現れ、冬木立の中の登りとなる。「山頂まで」○kmという標識は、このあたりで「展望台まで」と手書きで訂正が加えられていた。展望台から富士見山まで、さらに30分歩くらしい。 標高1450mを超えるころ、薄雪が登山道を覆うようになる。やはり高いところは積もったようだ。 稜線に上がる直前はかなりきつい登りの連続となる。それでもようやく平坦な場所に登り着く。指導標が立ち、富士見山はここを左に折れる。 稜線には積雪が5cmほどあった。まだ誰も歩いていないので、真っ白な道に自分が初めての足跡をつけて進む。日がさんさんと照るのだが、日陰の傾斜地は凍っている部分もある。急な上り下りが続きそうなのでアイゼンを使うことにした。 そしてついに、待望の富士見山展望台に着く。祠があり、山梨県おなじみの串刺しだんご型の標柱が立つ。 360度の展望というわけではないが、南面の眺めはすばらしい。富士山と毛無山塊、そしてあまりにも広大な雲海。足元の雪、雲海、富士山の雪冠と、白づくめの展望である。 そして右手に阿倍奥、駿河の山々がシルエットとなって雲海から頭を出していた。
北側はもちろん、南アルプスの展望が得られる。奥多摩や丹沢の山からは眺めにくい荒川岳が、ここでは主役。真正面に大きな姿をもたげている。塩見岳と蝙蝠岳は双子のように、ツンと尖った山頂部を見せ、まるで乳房のようだ。 白根三山の姿は遠い。赤石岳の姿も見られるが、その手前の笊ヶ岳の黒々とした山稜に隠され、上のほうしか見えない。 ここ富士見山は、位置的には富士山や南アルプスが大きく眺められそうなのだが、それぞれその手前にある山稜(毛無山塊、笊ヶ岳山塊)があいにくの遮蔽物になっている。それでも、こんないい天気の下で、これだけきれいな山々が見られるので十分である。
去りがたい場所だが、また引き返してくるので、山頂を目指すことにする。 3つほどコブを超えると、山梨百名山の標柱が立つ、富士見山頂上である。あいにくカラマツの林の中。周囲を歩き回って開けたところがないか探してみたが、結局展望にありつける場所はなかった。 雪の上にビニールシートをザックカバーを重ねね敷き、腰を下ろす。 展望台まで戻る。太陽の位置がさっきと変わり、富士山の雪がひときわ輝いていた。そして眼下の雲海がみるみる消滅していき、富士川や身延の町が覗いている。雲海はいったん後退し始めると、あれよあれよという間に姿を消してしまい、まるで手品を見ているようだ。 南アルプスが樹林に隠されない場所を探すうち、さっきの平須登山口からの道の合流点まで来てしまった。往復ではなく、このまま稜線伝いに進み、堂平登山口へ下ることにする。 ここからはコブもない平坦な尾根歩きとなる。右手に念力大国神と書かれた鳥居を見る。富士見山の登山道は、麓の念力協会という宗教団体の登拝路となっており、先ほどの展望台が奥ノ院である。 念力といってもエスパーとかの信仰教のようなものではない。戦時中はこの山を「不死身山」と解釈し、出征兵士の家族が大勢祈願登山をしたそうである。 T字路に出会い、右の堂平方面へ下る。なお左折は御殿山への縦走路となっている。 堂平への道は初めのうち、急峻な下りが続き、雪もついていて少々気味が悪い。それほどしないうちに檜の植林帯に入り、これ以降雪は見られなくなった。 いい天気なのに檜やカラマツの植林が多く、もったいない気がする。やがて緩やかに下る歩きよい道となるが、やや藪っぽい。尾根も広いので踏み跡を丹念に拾っていかないと、違う道に迷い込んでしまいそうだ。
富士山を正面に下っていくが、樹林にさえぎられて眺めの開ける場所はなかった。高度を下げていくに従い、富士山の姿は手前の毛無山の背後にもぐっていってしまう。 小屋を見て、さらに下っていくとやすらぎの宮という念力教会の宿舎(道場?)の脇に出た。ここで久しぶりに富士山を眺める。堂平登山口は、舗装道を下ってすぐのところにあった。 車の置いてある平須登山口までは意外に近く、10分ほどの車道歩きで戻れた。途中の鉄橋に「ダイヤモンド富士撮影場所」なる看板がかかっていた。2月にこの橋からダイヤモンド富士が見られるようだ。 さきほどの展望台に上がってダイヤ富士を狙ってもよさそうだが、ガレ場に雪があると、足元の暗い時間帯では登降に少々苦労しそうだ。 平須からは、堂平方面の林道を車で下っていくことにする。が、途中で細道がいっぱい分岐していて、簡単には下れなかった。国道に下り、今日の宿泊地である下部温泉に着く頃には日も傾いてしまっていた。 |