~奥多摩の最も山深い秘境を登る~
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●酉谷山から天祖山へ 翌朝、酉谷山に登る。少し雲が多いが、富士山を展望できた。見るたびに形を変える笠雲をかぶっている。 山頂からはタワ尾根のアップダウンの多さが手に取るようにわかる。 今日は、昨日来た道を戻り、天祖山(てんそざん)へ登る。 天祖山は初めてだ。それならお先にどうぞとあおむしさんが薦めるので、今日は自分が先行者となった。 酉谷山の西の肩に下り、縦走路を今日は西進する。気持ちのいい朝の奥多摩を実感する。 昨日抜け出て来た「穴」を確認し、さらに西進。天祖山の採石された斜面が目に飛び込んでくる。山頂には神社があり、信仰深い山のはずなのにどうして削られているんだろうと素朴な疑問が湧く。
水松(あららぎ)山直下の分岐点に着く。ここから天祖山に向かう道は、あおむしさんも歩いたことがないそうだ。 なお、この分岐点の導標にマジックで「梯子坂の頭」と書かれているが、梯子坂の頭は天祖山のすぐ北にあるピークではなかったか。どちらが本当なのだろう。 また、この縦走路の導標全てに言えるのだが、「長沢背稜」と書いてあるのを全て棒線で消して、「天目尾根」と訂正している。 酉谷山自体、「黒ドッケ」「大黒」「天目山」など地域によって様々な呼び名がある。したがって尾根道もいろんな呼び名があって当然だとは思うのだが、誰の仕業にせよ、本来の表示を消してマジックで書き直すのはあまりスマートでないし、歩く人の誤解を生み易いと思う。
水松山分岐で陽だまりの休息を取ったのち、天祖山へのゆるやかな下りとなる。 ダケカンバの林を右に見た後、リョウブ、カラマツなどに囲まれた幅広い尾根道となり気持ちがいい。 途中、右側(西)に芋ノ木ドッケと雲取山が大きく望める。雲取山荘の赤い屋根も見える。正面には七ツ石山の端正な姿も見られる。 梯子坂のクビレの地点は、林道へ通じる分岐になっている。林道への道は通行禁止のように書かれているが、通せんぼはしていない。最新のアルペンガイドでは通行可能と書かれている。 クビレからは突然地獄の急登で、2人とも途端に歩みが遅くなる。さっきのゆるい下りに比べたら、梯子坂という名前は当然こっちの坂に付けられるべきだろう。従って「梯子坂の頭」もやはり、この先のピークに付けるのが正しいのではないかと思う。
頭を越えて、さらにもう少しの急坂。天祖山山頂の境内を見る。静かな山頂だ。今日は採石をしていないようだ。 境内横の伐採地に、古い空き缶・空き瓶などのゴミが散らかっている。nosakuさんからあると聞いていた、リングプルの無い缶ビール(キリンビール)を発見。 しかし中には最近の銘柄のアルミ缶も捨ててあり、全部が全部、前時代のゴミとは言えない。コンビニのビニール袋に詰めるだけ詰めて下りることにした。 せまい山頂ではあるが、酉谷山と同様、静かで雰囲気のある山だった。
●下山路でカモシカを見る 下山は急坂の下りが連続する。自然林が多いのは好ましいが、浮き石の多い急な斜面で何度か足を取られた。下りには向かない道だと思う。 かなり高度を下げ、水場を過ぎてしばらく行くと、20mくらい先に、黒い動物がじっとこっちを見ていた。思わず歩みを止め、「熊だ!」と叫んでしまった。 よく見ると太ったカモシカだった。一瞬のビビリは、初めてカモシカを見れたうれしさに変わった。しばらくにらめっこをした後、カモシカは下へ下りて行った。 そこからはものの数10分で八丁橋の登山口に着いた。 日原林道を歩き、鍾乳洞付近に来ると消防車や救急車両が止まっている。小川谷橋の下の河原に担架が担ぎこまれていた。聞くと人が飛び降りたらしく、遺体を収容しているそうだ。 何だかいろいろなことがあった山行であった。タワ尾根は踏破し終えた直後は、もうこれっきりと思っていたが、少し時間が経った今では、また機会があれば再挑戦してみたいなどと思うようになっている。 東日原バス停に着き缶ビールで乾杯。バス、電車と爆睡し続けだった。 |