~深い森林と山奥の温泉~ みとうさん(1531m)からこすげのゆ 2008年9月23日(火・祝) 晴れ後曇り
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9月後半になって、東京都心もようやく秋めいてきた。山は一足早くそろそろ紅葉の季節、北海道の標高の高いところからは初雪の便りが届いた。 8月後半から長い山歩きをしていないせいか、左手首に白く浮き出ていた腕時計の日焼け跡も、最近目立たなくなった。9月に入って少々天候が安定しても、距離の短い山歩きばかりが続いていたため、今日は少し長く歩きたい。 三頭山に登ってから鶴峠への道に入り、その後はちょっとひねったコースを下って小菅の湯まで延々と歩くことにする。
西東京バスを陣屋で降り、三頭橋を渡る。少し先にあるムロクボ尾根の登山口から登り出す。 天気は上々。青空だ。尾根に入るとすぐに急な登りになる。登りだけで3時間近くかかる山も、朝日連峰以来だ。 クモの巣を心配したがそれほどでもない。樹林帯下の道幅は意外と広く、これではクモも枝から枝へ糸を伸ばすのは大変みたいだ。 静かな尾根歩きだが、時折鈴の音が聞こえる。どうやら前方に歩いている人がいるらしい。 音は大きくなったり、ほとんど聞こえなくなったりを繰り返す。大きく聞こえるのは、両者の距離が縮まっているということだ。歩くペースが同じくらいと仮定すれば、この先ジグザグの急登が待ち構えていて、直線距離が縮まったと考えられる。 反対に音が遠ざかるのならば、先行者のペースが速くなっているということなので、この先傾斜が緩くなることがわかる。このように、先行者の足音や鈴の音の聞こえ方でこの先の道の状態が推測できることがある。 また、クモの巣が少ないのは、先行者がクモの巣払い役をしてくれていたからかもしれない。
片側が植林の道が続く。ムロクボ尾根からの三頭山は、以前ヌカザス尾根が登降禁止になっていた時期に一度登ったことがあるが、そのときの印象はヌカザス尾根とあまり変わらないものだった。 時々見る指導標には「丸山尾根」と書かれており、少し登ったところにある小ピークには「丸山」という山名板が掲げられていた。 緩急を繰り返しながら、高度を稼ぐ。振り返ると木の間から見る奥多摩湖の湖面が、いつの間にかはるか下だ。 ツネ泣き坂と書かれた自然林の急登を経て、ヌカザス山(1149m)のピークに立つ。ここがヌカザス尾根との合流点だ。9月ともなると木々の緑はおおかた輝きを失っているのだが、ここヌカザス尾根のミズナラ・ブナの森は、なお色あせることのない美しさを見せてくれている。奥多摩で新緑をとことん味わいたければ、5月中旬にこの尾根を登ることである。 ヌカザス山から小さなアップダウンを経てツネ泣き峠。ここにはムロクボ尾根からの古い道(通行禁止中)が合流している。 ロープのついた急登となる。先行していた3名のグループを追い越す。ここで自分が先頭になってしまったようで、すぐさまクモの巣の洗礼を浴びる。でも先週の雨ヶ岳のようなひどさはなく、やがてクモの巣はなくなる。 急登がついえ、ようやくなだらかになる。入小沢ノ峰(1267m)を越える。花は少なく、タカオヒゴタイくらいを見るのみ。頭上の青空はいつしか消え、天気予報よりかなり早く雲が出始めている。 鞘口峠からの道を合わせ、三頭山中央峰に上がる。いつも賑わう山頂。青空は少ないが、周囲の眺めはなかなかいい。高曇りの好展望、とでもいうのか。最初は雲に隠れ気味だった富士山も、やがて黒々とした姿を惜しげもなく見せた。 日が射さないので涼しくて気持ちいい。今日は都心の気温は30度近くまで上がるようだが、ここ1500mの山の上ではせいぜい20度前後。長袖のシャツを羽織って食事にする。 鶴峠方面へ下山する。「これより先は都民の森ではありません」の看板がかかっている。 途端に人影がなくなり、静かな歩きが始まる。下り始めは尾根がやせててアップダウンが続き、ワイルドな雰囲気がある。 すぐに眺めのいい小ピークに出る。大菩薩や御坂の山並み、そして富士山とパノラマ展望が広がっている。
細かなアップダウンを重ね、徐々に高度を下げていくと神楽入ノ峰(1348m)となる。アキノキリンソウが咲いている。以前はこの小さなピークからなかなかの眺めが得られた記憶があるが、今は植林が育ち展望はない。 さらに下ってブナの巨樹の前に出る。どの方向から見ても存在感のある堂々としたいでたちのブナである。 ヌカザス尾根から来る巻き道を合わせると道は緩やかになる。小焼山を左に見ながら、やがて鶴峠・余沢の分岐点に着く。 今日は小菅の湯を終着点としたい。鶴峠へ下るにしても、向山を越えて余沢に下山するにしても、休日の今日はちょうどいいバス便がないので長い車道歩きを強いられる。そこで、前回向山を歩いたときに見つけた、白沢への下山路を歩いてみることにした。 余沢への道に入り、自然林の色濃い中をどんどん下る。鬱蒼とした樹林帯は夕方のような薄暗さが支配し、カメラのシャッター速度も極端に遅くなる。 比較的顕著なピークを左から巻き、下りついたところに「白沢集落(笹畑川)」を示した指導標が立っている。この白沢分岐を下っていく。 なお、市販の登山地図や国土地理院の25000地形図には、余沢分岐に入ってすぐ、笹畑川沿いの林道に下る道が黒破線で示されているがこれではない。下山道の分岐は、もっとずっと向山に近づいたところにある。 この道はどの地図にも載っていないので、登山道の正確な位置は実際歩いてみるまではよくわからなかった。 南斜面を少し戻るように下った後、今までの稜線と同じ方向(西北西側)に向きを変え、しばらく平坦な道が続く。 やがて南側に下っている明確な尾根に出会う。向山山頂から真南に伸びている尾根のようだ。登山道はこれを下っている。 植林帯の下りがメインだが、時折雑木林に出会う。道ははっきりしている。ただ一般の登山者が歩いている風には見えず、林業従事者の仕事道かもしれない。尾根そのものは急傾斜なので、登山道は大きなジグザグを描くように下っている。 意外に早く、下のほうから笹畑川の水の流れの音が聞こえてきた。やがて木の間から川沿いの林道のガードレールも見下ろせるようになる。 白沢分岐から30分と少しで笹畑川の河原に下り立つ。そこには家が一軒建っていた。少々あっけない初めての道だった。 川を渡り林道に上がる。少し歩くと左側に堰堤が見え、地形図と照合することが出来て歩いている場所の位置が確認できた。15分ほどで県道18号に出る。 車道歩きを短縮したくて白沢コースを下山してみたが、小菅の湯へはそれでもまだ長い歩きが待っていた。そもそも小菅の湯は標高800m近い山の上にある。今日の下山地点からは、標高差100mを越す登り返しが必要だった。 1時間の車道歩きで小菅の湯に到着する。帰りのバスまで2時間近く。ゆっくり湯につかりビールを飲む。今日は久しぶりに車を使わない山だった。小菅村はあまりの山奥のせいか、それほど混雑していないのもいい。 小菅の湯からの村営バスは、かわいいレトロバスではなくなり、ごく普通の小型バスになってしまった。まあ小菅村の財政も少しはよくなっているということなのだろうか。運賃は100円のままだった。 それにしても、電車・バスの山旅はやはりゆったり感が違う。奥多摩にはこれからも電車バスで来たい。 |