都心の桜がもう開花してしまい、駆け足で春がやってきたようだ。山の春はもう少し先なので、今日は山というよりも、少し低いところで春を探すことにした。
青梅線で奥多摩に行くとき、青梅駅前後から先、線路と平行して南側に低い山稜がに沿って伸びているのが見える。草花(くさか)丘陵や長淵丘陵と呼ばれるこのなだらかな尾根は300mから400m前後の標高で梅ヶ谷峠あたりまで続く。
梅で有名な吉野梅郷から先は三室山、日ノ出山と標高が上がっていき奥多摩の山々に引き継がれる。丘陵のピークである「赤ぼっこ」は三角点があり、以前から自分の登りたい山のリストに入っていた。今年は佐久の茂来山、奥武蔵の大築山(城山)など、長年課題だった山をどんどん消化できて充実している。
中央線や青梅街道に平行して低い尾根が伸びている。宮ノ平駅付近から |
中央線が遅れているようなので、高田馬場から西武線で拝島まで行く。青梅線に乗り換えて青梅駅の次、宮ノ平駅で下車。登山道へは日向和田駅のほうが近いのだが、宮ノ平駅でまだ下りたことがなかったのでここから歩く。
通学路と書かれた住宅の中の道を歩き、国道を横断する。路端にスミレが咲いていた。梅の公園に近づくと、道沿いや民家の庭にも満開の梅の木が目立つ。昨年は今の時期でも梅はあまり咲いていなかったように思う。梅ヶ谷峠入口の信号で左折し、「天狗岩・梅ヶ谷峠」の指導標に従いすぐに左の細道を上がっていく。
犬舎で犬に吠えられ、最後の民家の横を通ると山道になる。植林から雑木林へ。宮ノ平駅への近道が分岐していた。整備された道をゆっくり登り尾根に出る。右は「梅ヶ谷峠・行き止まり」、左が「天狗岩」方面である。
なお正面の一段高いところにもにも踏み跡があり、それをたどるとあかるい笹の原に出た。道は続いていないようだが、肝要峠方面の眺めが開けた。
分岐からは、愛宕山というピークが梅ヶ谷峠方面にあるようなので、寄ってみる。緩い下りと登りを経て着いた愛宕山からは、北西方面が大きく開けていた。最初のピークからいい展望が得られたので、今日の行程に期待が持てる。愛宕山の山頂には大木が一本ある。プレートに書かれているようにエドヒガンザクラのようだ。
山頂の反対側にも道が伸びていた。梅の公園方面から登山道があるようで、今日の行程ならばそちらから登ってきてもよかった。
分岐に戻り尾根縦走に入る。足元にカンアオイの葉があった。地面を這うように花もつけている。奥多摩で見るカンアオイには「タマノカンアオイ」という種類があるが、これはそれなのだろうか。よくわからない。
植林がちの稜線を行くと要害山に着く。名前からして戦国時代に見張台でもあったのだろうか。今は樹林の中である。地形図を見ると、どうやらここが本日の最高点のようだ。
整備された道を登り下りしていく。天狗岩まではけっこうな距離がある。アオイスミレのかわいい花が目に止まった。今日はアオイづくしか。ようやく指導標を見、天狗岩へは左折する。比較的大きなコブを上下し、明るい雑木林をくぐる。岩がちの小ピークが天狗岩だった。ここも北西の眺めが大きく開ける。
尾根に戻りさらに東進する。同じじような分岐がありやはり左折する。今度はすぐに三角点のある赤ぼっこのピークに着いた。写真で見た赤ぼっこは木が茂っていたが、ここは広く伐採され270度の好転望である。
西は大岳山から北東にかけて、東京と埼玉の県境あたりの広い平野部が遠くまで見渡せる。西武ドームらしきものもかすんではいるが認められる。スカイツリーは方角的に死角になっているかもしれない。ベンチもあるのでゆっくり休憩する。
再び尾根に戻る。このあたりは檜の植林のほかに常緑広葉樹も多く、落葉樹は少ない。やがて右手がフェンスで仕切られるようになる。フェンスの向こう側は日の出町の廃棄物処理場である。多摩地域の産業廃棄物の最終処分場となっており、かなり大きな建物だ。可燃ごみはエコセメント化施設でリサイクルされ、不燃ごみは破砕後に埋め立てるそうである。
道が下りになると中高年の大人数グループがやってきた。奥多摩の山と比べてこの丘陵はそれほど山歩きの対象としてはマイナーな存在かなと思っていたが、意外と季節を問わず賑わっているのかもしれない。
小広い馬引沢峠に到着。半舗装の林道が分岐していた。丘陵はさらに東進。右手のフェンスはさらに続き、やはり下山路の分岐する旧二ツ塚峠から先は、少し静かな佇まいになる。道が左右に分かれるがここは左の細道に入る。右すると林道に出てしまうらしい。指導標がないので注意が必要である。
明るいアンテナ施設を過ぎ、車道(秋川街道)の乗っ越す二ツ塚峠に下り立った。明るい斜面には、まさに今顔を出したようなシュンランが1株だけあった。
車道を横断し、満地峠への道に入ると見かける指導標は手書きになる。一般登山道ではないのだがよく踏まれている。方向はほぼ真東なのでわかりやすいが、左に下っていく枝道が多い。まあ間違えても、そこで下山ということにしていいので気は楽である。標高が高いところだとそうはいかない。
また右側にフェンスが沿うようになる。地形図には警察庁菅生工場とある。警察の工場とはいったい、何を作っているのだろうか。警棒でも作るのだろうか(発想が貧困だが)。奥多摩のヒノキで警棒を作ると丈夫な気がする。
道は至って平坦で、はりあいがないくらいだ。MTBが何台も通り過ぎていく。自転車の人には恰好のフィールドだろう。周囲はやがて落葉樹一色となり清々しい。右下に野球のグランドのようなものが見えてきて人の声が聞こえる。尾根はグランドにすぐ下りつけるまで高度を下げる。
警察と関係があるのか、機動隊のモニュメントがあちこちにある。あずまやにも四季庵、五望庵など、各グループの機動隊ごとに付けた名前があるようだ。記念碑も含め、どれも昭和50年代に作られたものである。まだ時代が熱かった当時は学生運動も盛んで、機動隊の出番も多かったことだろう。ここ長淵丘陵一帯はそんな人たちの憩いの場だったのかもしれない。
フェンスが再び現れ、警察庁の敷地と明示されるようになった。地面に埋め込まれた標石には「総理府」と書かれている。他に、「敷地内の警察犬に注意してください」とか、マムシ注意の看板があったりして落ち着かない。
道はにわかに下り傾斜を増し、古満地峠、旧満地峠を経て最低鞍部の満地峠に下り立った。峠の名前を示す標識は見つけられなかった。ここの下には吉野街道の満地トンネルが通っているとのことである。
満地峠からはまたしても、右手に塀を見ながら歩く。お寺のような宗教施設と思しき建物が建っている。塀の中は園地風になっており、大勢の人が掃き掃除をしていた。
そしてその後、フェンス越しにゴルフ場が見えてきた。とにかく今日はいろんな人工物に沿って歩いている。里山というか丘陵歩きの醍醐味?とも言えるだろう。歩いているところは気持ちのいい雑木林が主なのでそれが救いである。
ヤセ尾根になると多摩川が見えるようになる。それはもはや奥多摩の山から見下ろす多摩川ではなく、都市で見る護岸が整備された「河川」に変わっていた。そして浅間岳に登り着く。自分の知る限り、奥多摩の山で「~岳」と名づいているのは笹尾根の土俵岳とここ以外にない。険しいイメージの「岳」であるが、土俵岳も浅間岳も穏やかなものである。
浅間岳は明るく見通しがいいが、すぐ下は芝生である。ゴルフボール除けの網も張られている。
予定では浅間岳から羽村堰を歩いて下山するつもりだったが、ここまで来たら最後の一山まで行ってしまいたい。草花丘陵の大澄山(だいちょうざん)は、多摩川南岸のこの山稜・丘陵が平野に没する最後のピークである。高尾山とその山稜も経度的には大澄山より西であり、大澄山は東京で一番東にある山である。東京の山はここから始まるといってもいい。
浅間岳からはまだ距離があるが、ゴルフ場に沿って尾根伝いに歩けば問題ないと思っていた。しかしこの最後の山への登頂が、本日一番の難所となった。
ゴルフコースの眺めが尽きると今度は、打ちっぱなしのゴルフ場だ。左手に多摩川の川べりを見ながらどんどん下っていき、川沿いの車道のすぐ上の舗装道路に下りる。住宅地は目と鼻の先である。指導標はすぐ先の登り返しの山道を大澄山と示していたので、この道に入る。もう1度舗装道路に下り、再び登り返し。このとき、下の車道のほうにも大澄山を示す指導標があったので不思議に思う。
小さなピークに朝日山妙見堂という社が建っていた。しかしその先は踏み跡が不確かになり、ヤブになってしまった。進退窮まったので、とりあえず下に見える竹林に出た。車道が見えるので、いったん下りきったほうがよさそうた。車の多い車道に出ると指導標が立っていて、大澄山は逆方向を指していた。行き過ぎてしまったのか。そんなことはない、大澄山はまだ先のはずだ。
車道を戻るように歩いていくと、交差点で折り返すように東にもう1本の車道が伸びていた。大澄山の指導標もそちらを指している。日照りの中、新興住宅地のような中に走っている多摩川沿いの車道を東進。八雲神社の入口を右折すると、ようやく大澄山の登山口を見つけた。
そこからはあっけなく、木の階段を登って尾根に出て、山道を少し登るとあずまやの建つ大澄山であった。やれやれである。東京の最初の山は、雑木に囲まれた明るい落ち着いた山頂だった。体力を使い果たしてしまったので、このすぐ先にあるという草花神社に立ち寄る気は起きなかった。
どうやら大澄山は、付近の宅地開発や車道の伸張などで、浅間岳から尾根伝いには行けないようだった。浅間岳からはいったん車道に下り立ってから行く方法が唯一のようである。ヤブこぎすれば突破出来ないこともないようだが、人の土地に入ってしまうかもしれない。
大澄山に限らず、この周辺は宅地開発の影響で歩けなくなったりコースが付け替わった山や峠がある。昔のガイドばかりを参考にしていると、こういうこともある。スーパー低山を歩くときには注意が必要である。
来た道を下り、羽村大橋を渡って住宅地を歩き、羽村駅に到着した。ここはもはや山間の駅ではなく、普通の町中の駅である。
青梅線の駅で言えば、宮ノ平、青梅、東青梅、河辺、小作、羽村と6つの駅にまたがるコースを今日は歩いたことになる。何だかすっきりした気持ちである。こういう丘歩きもたまにはいいものだ。