今日は蕨山に登る。奥武蔵や秩父の春は、山里に花がいっぱい咲いてそれこそ桃源郷になる。ただ、先週降った雪や雨で、尾根筋のアカヤシオは散ってしまったかもしれない。
藤棚山から大遠見山に向かう尾根筋。片側が自然林で、対面の稜線がよく見えた
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飯能駅からのバスは座席が全部埋まるくらいだった。民家の庭にはミツバツツジや花桃が鮮やかに花を咲かせている。
さわらびの湯で、ここまで車で来た登山者を乗せてバスはさらに奥地へ。名郷バス停も付近もソメイヨシノが花の盛りになっていた。
名郷から蕨山への登路は15年以上前に歩いたきりで、記憶が飛んでいる。薄暗い林道を登った先の沢沿いの登山口などまったく記憶がなかった。
急な岩場は覚えているが、出だしのきつい登りは想定外。息を弾ませながら稜線を上がり切り、アシビの多く茂る尾根上をいく。
しばらくは開けた中を歩くので気分がいい。アカヤシオのピンク色が目に入る。しかし木についているのは一輪だけで、他はみな地面に落ちていた。やっぱり、季節はずれの雪や大雨が稜線上の春をリセットしてしまったようだ。
以後もアカヤシオの木をところどころ見るが、いずれもほとんどがやられていた。ミツバツツジも思ったより少なく、春を迎えた尾根道にしては少し寂しい雰囲気である。
このルートは何回かに分けて、岩場の急登がある。中段の岩場が少し手ごわいが、足場はしっかりしているのでさほど難しくはない。むしろ、岩が濡れていたりすると下りは特に注意が必要だろう。
これほどの岩場だから、今の季節ならイワウチワが見られるかな、と思っていたら本当にあった。みな外側の斜面を向いて咲いていたので写真には撮れない。
イワウチワは岩場の急斜面に咲くことが多いので、見るときは注意が必要だ。変な姿勢で写真を撮ったりすると、立ち上がったときバランスを崩しやすい。もしそこが切り立った岩場だと大変危険である。今日は、後ろ姿のイワウチワで満足する。
きつい登りも先が見えてきた。振り返ると大持山の堂々とした姿や、武川岳のなだらかな稜線、その間に見える武甲山は意外にも端正な三角形である。奥武蔵ではおなじみの、代表的な眺めといってもいいだろう。すぐ近くには。白岩の石灰採掘跡がその白さをあらわにしていた。
大持山からの縦走路と合流する(名郷分岐)。一回下り登りして蕨山展望台に到着する。
周囲は樹林が茂っているが、大持・小持や武甲山、武川岳の稜線を眺めることが出来る。伊豆ヶ岳も小さいながら目立つ存在だ。そのずっと奥に横たわる尾根は刈場坂峠付近か。
暖かく山日和の日にもかかわらず、登山者はポツポツと登ってくる程度で、思ったほど多くない。まだ時間が早いからかもしれず、同じ名郷からでも鳥首峠から回ってくる人が、間もなくやってくるだろう。
展望台を辞し、さわらびの湯方面の尾根を下る。藤棚山付近からは自然林の伸びやかな尾根道となる。大ヨケノ頭に下る一般ルートにもアカヤシオがあるようだが、この調子では同じく落ちてしまっているだろう。
それならと、今日はまだ歩いたことのないルートを歩くことにした。藤棚山から少し戻ったところの尾根筋に入る。薄い踏み跡が尾根通しにずっとついている。このままずっと行けば小殿に下りられるはずである。標識は一本もないが赤テープに導かれる。迷う心配はないだろう。
大ヨケノ頭ルートと異なり、こちらは920mの藤棚山からすぐに高度を200m落として、700m台を小さくアップダウンする状態が続く。左側は自然林で武川岳などがよく見える。いったん林道状のような箇所をジグザグに下るが、すぐにまた尾根を直進するようになる。
着いたピークが大遠見山で、山頂にはアシビの木が茂っている。アカヤシオの残り花がここにもあった。
ずっと下のほうに見えていた林道は、高度を落とすにつれどんどん近づき、ついに歩く場所のすぐ横に沿うようになった。周囲は伐採が施され、奥武蔵の山々が一望できる。ただ、その林道に下りてしまうことはなく、踏み跡はなおも土の上に続いていた。
次のピーク、西平山の山頂部は東西に長い平坦地となっている。木切れの山名板が地面に落ちていた。
地形図を見ると、西平山の周辺は丸い広葉樹のマークが描かれてはいるが、実際はこれ以後、檜の植林帯がずっと続くことになる。尾根を外れて右側の斜面をどんどん下っていくと踏み跡は次第にはっきりしてきた。すでに一般登山道といってさしつかえない。
それにしてもスミレなどの花を全く見ない。奥武蔵の山は春の訪れが遅いのか。まあ登山口の標高が400mを越えているところだから、高尾山と同じような季節感を期待するわけにはいかないだろう。
登山口の集落を見下ろすようになる頃、ようやく足元にスミレが現れ始めた。それも一度に何種類も。最初に目にしたのがマキノスミレで、その後エイザン、タチツボスミレと続く。
小殿の登山口に降りたところにはマルバスミレも咲いていた。今日は登りでイワウチワも見れたし、この季節に見る花の種類としては何とか、最後になって帳尻を合わせられたか。
林道を5分ほど歩いて小殿の集落、そして小殿バス停に到着した。入間川沿いのソメイヨシノが満開になっており、観光客の姿もちらほら見られた。
山は花が落ち冬に立ち戻ったような雰囲気だったが、明るく伸びやかな奥武蔵の里の風景を見て、季節は進んでいることを実感できた。