~渓谷美を見てシャクナゲ咲く孤峰へ~ にしざわけいこくからくろがねやま(2232m) 2009年5月31日(日) 曇りのち雨
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山々が新緑から、初夏の装いに衣替えする季節。毎年のことながら、行きたいところと天気との面合わせがよくない。 「次の土日は雨です」との予報がこうも早く出てしまうと、計画を立てるのもおっくうになる。しかも最近の週間予報はよく当たっているのだ。関東甲信を離れる遠出は、少し先に延ばすことにしよう。 まだ登っていない奥秩父の孤峰、黒金山に登ろうと計画する。
この山に登るコースは主に2つある。徳和から乾徳山を経由して登るものと、西沢渓谷からのものだが、どちらもかなりの時間を要し、往復にしても7,8時間は軽くかかる。 日曜日は午後から雨になるとのことなので、前日夜に車で出発し、翌朝早くから登ることにした。 勝沼ICで高速を下りて山に向かって北上すると、次第に雨模様になってくる。西沢渓谷のすぐ近くにある道の駅「みとみ」に着いたころはどしゃ降りとなる。 明日は午後から雨なのに、これでは止み間が果たしてあるのかと疑問である。 しかし翌朝、雨は止んでいた。周囲は緑の衣をまとった山また山。上のほうは雲が被っているが、何とか午前中くらいは天気が持ちそうな感じだ。 道の駅から少しだけ車で移動し、西沢渓谷バス停下の駐車場に車を停める。5時過ぎに出発、笛吹川沿いの林道を行く。2つめの甲武信岳の登山口の先に、西沢山荘が建っている。 田部重治の文学碑「笛吹川を遡る」の横から川の方向に下っていく。吊り橋を渡って西沢渓谷の探勝路に入る。 西沢から黒金山に登るには、この探勝路を通っていくことになる。単なるアプローチ行程としてしまうには、あまりにも惜しいコースだ。ダイナミックな水の流れを間近に眺めながらの歩きで、最初の三重ノ滝からフグ岩、人面洞、竜神の滝と、複雑に切れ込んだ地形の織り成す妙が飽きさせない。 登山者でない人も多く歩く道とあって、整備が十分行き届いている。前日の大雨もそれほど影響はないようで、路面が濡れてはいるにもかかわらず危険を感じる場所はさほどない。 橋で右岸に渡り、少し登りになる。西沢渓谷のハイライトは、やはり最奥の「七ツ釜五段ノ滝」である。自然の造形美を目の当たりにできる。 遊歩道を外れて滝の基部に下りることも出来るが、下のほうはややザレているので、雨後は無理をしないほうがいいだろう。
朝から雨模様であったなら、このまま引き返すことも考えていたが、やはり予定通り黒金山を目指すことにする。 滝から少し登ると、周囲はアズマシャクナゲの森となる。群生地との看板もかかっているが、すでに花はない。地面にもまったく落ちていなかったので、今年はかなり早いうちに開花時期を迎えていたのだろう。 登り上がると遊歩道の終点で、休憩所とトイレがある。バス停に戻る迂回路が分岐しているところだ。反対側に数10m進むと、大きな看板の立つ黒金山登山口である。 この道には古い軌道跡が残されており、昔は資源の山として重宝がられていたことがうかがえる。ちなみに、甲武信岳の戸渡尾根付近もかつては採石が行われていたようで、ここと同じく軌道跡も見られる。今でも硅石と言われる鉱物を登山道に見ることが出来る。
硅石は白っぽい色をしているが、黒金山で採れたのは、資料によると銅らしい。黒金山という名前もうなずける。鉄という漢字は「くろがね」という読みもある。 天子山塊・毛無山の金山跡のように、「~金山」という名前を見かけると、何かいいものが埋まっていそうな気がする。 黒金山の登山道に入ると、のっけから急な登りである。今までの探勝路が終始緩やかだったため、突然のギアチェンジに体が追いつかない。しかも、周りは一面のシャクナゲの森なのに、まったく花はついていない。木々の緑も深みを増して、朝日が差し込んできているにもかかわらず、どこか薄暗ささえ感じる。 このきつい登り、どこまで登ったらシャクナゲに出会えるのか。「1640mシャクナゲ群生地」の大きい看板があるが、ここにもない。しかし、地面に落ちた花を点々と見るようになる。 やがて、何十ものシャクナゲが、咲いたばかりの形で登山道に落ちていた。おそらく昨晩の大雨で、こうなってしまったのだろう。 シャクナゲの花は雨に弱い。山でシャクナゲを確実に見るには、季節を選ぶだけではだめで、出かける当日はもちろん、その前の数日間も雨が降っていないことが条件になるだろう。でもそこまでこだわってしまうと山に登る機会を逸してしまうので、だめなときは縁がなかったと考えて、諦めも必要だ。 しかし、それでも紅葉台(標識は古くて読み取れない)に登りつくころには、花をつけた木も見るようになる。 登山道はようやく急坂がついえ、鬱蒼としたシャクナゲの森を黙々と歩んでいく。周囲に霧が立ち込める標高1800mあたりになるとシャクナゲは見ごろになっていた。 |