2月18日は日本海側を含め、中部山岳の天気が良くなるとみて、休暇を取り、停滞気味だった今年の冬山行を取り戻すことにした。
第一候補は群馬県川場村の武尊山、また昨年2月に味をしめた谷川岳の再訪もいい。どっちにしても上越国境、北関東の銀世界の山並みを見たい。
しかし前日、このエリアにまとまった雪が降り、この日だけで谷川岳天神平は35cmの積雪を記録した。武尊山がどうなのかはわからないが、平日でもありおそらく新雪ラッセルは不可避だろう。当日の朝、関越を走っている最中まで迷っていたが、やはりわかっているリスクを冒すわけにはいかない。今回は雪のそう多くない湯ノ丸山に登ることに、変更した。
もちろん急に決めたわけではなく、湯ノ丸山の工程表も携えて家を出発していたので、当日の計画変更に不安はない。
湯ノ丸山から、烏帽子岳越しに槍・穂高など北アルプスの峰々が並ぶ
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上里SAから上信越道を西へ。抜けるような青空のもと、浅間山は大きな白い帽子を被っていた。佐久平付近は低い雲が垂れ込めていたが、湯ノ丸高原への坂を上がっていくにつれ青空が復活する。
地蔵峠の広い駐車場から出発。平日の朝とあって、スキーやボーダーの姿はほとんどない。見かける人の多くは、旅館やレストハウスの従業員だろう。
少し雪が堅めだったため、ゲレンデを登る前にアイゼンを着けた。武尊登山の装備できたため10本爪だが、今日のコンディションなら6本で十分だ。
広々としたゲレンデの端っこを登る。見た目より急で苦しい。時々スキーヤーがさっそうと滑り降りてくる。すでに動いているリフトに乗ってしまってもいいのだが、せっかく朝早く来たのでちゃんと歩こう。
何とか登りきり、リフト上からは平坦になる。ゲレンデはここまでだが、この先もスキーの跡ついているのでそれに沿って進む。積雪量は50cmくらいか。スキーの轍の上は少しだけ雪が溶け凍って堅くなっているので、踏み抜きもそれほど心配ない。
鐘のある場所まで来る。正面には湯ノ丸山が大きい。雪が柔らかくなってきたため、輪カンに履き替え二度目の登りに入る。無雪期は岩や潅木が邪魔をして、登るのに意外と骨が折れるところである。雪があるほうがむしろ歩きやすい。
振り返り見ると桟敷山や高峰高原、浅間山など立体感のある眺めがすでに目の前にあった。南には奥秩父、八ヶ岳と雲海の先に富士山も顔を出している。北に見えるのは草津白根、白砂山など上信越の山だろう。あちらの山々は白さが際立っている。
傾斜がきつくなってきて、周囲は潅木もなくなり吹きさらしの平原に出た。弱いながらも風があり、音を立てて地面の雪を舞い上げる。体感温度は氷点下10度くらいか。サングラスの下、外気に触れている頬から首筋にかけてが刺すように寒い。雪は少ないが寒さは一級品である。
湯ノ丸山山頂に到着する。ただでさえ少なめの雪は風に飛ばされ、地面の岩がかなり露出していた。
そして西側の展望。これから向かう烏帽子岳の先に、北アルプスの白いナイフリッジ。これがまさに一直線である。南は乗鞍から槍穂高、鹿島槍、白馬連峰。端から端までカメラで撮影するには、広角にしても4枚くらい必要である。それに、同じ北アでも南と北とで雪の量がかなり違うのも面白い。湯ノ丸山は、北アルプスの巨大さをあらためて実感できる展望台である。
白いラインは北アルプスからさらに北の頚城山塊に続いている。高妻山、戸隠、そして火打・妙高が白い。焼山の噴煙も風になびいているのがよく見えた。湯ノ丸山北峰の先には四阿山と根子岳が秀麗な姿を見せている。ここから北峰まで往復する人も多い。
風が強いので、潅木と大きな岩の間へ避難して眺めを楽しんだ。
輪カンをアイゼンに履き替えてから烏帽子岳に向かう。鞍部までは急坂を下っていく。
こちら側はやや雪が深い上、トレースがほどんどなかった。朝、地蔵峠から直接烏帽子岳に向かうコースを歩いていく人もいたのだが、この時期は湯ノ丸山から烏帽子岳に向かう登山者はあまりいないようである。
尾根が広く方向を失いやすいので、わずかに窪んだ雪面を注意深く捉えながら下っていく(登山道に積もった雪は、回りより少し窪んでいることが多い)。
案内板の立つ鞍部にどうにか到着する。地蔵峠から登ってくる道にはトレースがついていた。前後して烏帽子岳に登る登山者も数名見かける。明瞭な尾根を歩いていく。烏帽子岳へは、この尾根を直登するルートが冬はよく使われているようだ。
今まで下った分を登り返していく。みるみるうちに高度が上がり、背後には湯ノ丸山の大きな丸い山体が印象的である。
木についた雪の華が目立つようになると雪はかなり深くなり、トレースもまばらになってきた。右手に、烏帽子の名前そのままの尖がったピークが見えてきたがまだ高い。急登に息を弾ませて稜線を目指す。
その稜線に到達する。回りを見渡すと、八ヶ岳など南側には薄い雲がかかり始めているものの、他は依然として真っ青な空で気分も高揚する。北アルプスとも再びの対面だ。
冷たい風もなんのその、目の前の烏帽子岳まで爽快な稜線を歩く。烏帽子岳山頂も湯ノ丸山と同じように、雪が飛ばされて岩が露出していた。展望は湯ノ丸山に勝るとも劣らない。北アルプスは湯ノ丸山から1キロほど近づいただけだが、距離以上に近くに見える。
そして、おそらく上田市や北ア山麓の安曇野あたりだろう、眼下の町並みの眺めも広大で、ここからの高度感がすごい。烏帽子岳は時のたつのも忘れて展望に魅入ることのできる山頂である。
烏帽子岳から来た道を戻る。登ってきた尾根コースの入口を見逃してしまったが、この先の夏道のほうを下山路に使う。同じく360度展望の小烏帽子岳を過ぎ、爽快な稜線を下る。すぐに下降点に着き、北アルプスに別れを告げて稜線を離れる。
6名ほどのグループが登ってきた。全員揃って輪カンをつけている。一人や二人がアイゼンやツボ足だと、歩くペースに差が出てしまうから、皆同じ装備である必要があるのだろう。考えてみれば当然のことだが、見ていて少し奇異に感じた。
穏やかな下り道はやがて、先ほどの尾根に合流した。そう言えば先ほどの登りでは、この道が合わさっているのに全く気づかなかったし、今下ってきた時も、登りの尾根コースがどこで分岐しているかわからなかった。
注意力が不足しているのだろうか、さっきから分岐の見逃しが続いている。幸い大事には至っていないが。
鞍部で地蔵峠への道に入る。長く単調な登山道だが、標高を下げるにつれ気温が上がっていくのがわかる。もう手袋を外しても大丈夫だ。中分岐で方向を変え下っていくところで一時的に積雪が増えた。先ほどのグループは、ここを登ってこの先輪カンで行くことを決めたのだろうか。
湯ノ丸キャンプ場を通って地蔵峠に下り立った。日が高くなっても、ゲレンデの利用者はそれほど増えていない。空は依然として、これで歩き終えるにはもったいないくらいの快晴である。
全体的に雪は少なかったが、約束の大展望を得ることができ、平日に休みを取った甲斐があった。しかしやはり、雪の武尊山には登っておきたい。しかしこれから暖かくなってしまいそうで、この冬はもうチャンスがないかもしれない。