9月に入っても、うだるような暑い日が続く。今年の異常な天候は特別というわけではなく、昨年もその前の年も、9月は暑かった。自分の過去の山行記録を読み返すとよくわかる。
ただそれでも、5年から10年近く前の9月だと、そんなことはなかったような気がする。やはりここ数年の傾向なのか。
北海道、尾瀬、奥日光や上信越の高い山では、9月中旬を過れば例年なら紅葉でが始まる。富士山もうっすら雪化粧する。今年はどうか。意外とそのへんは帳尻を合わせてくるのではないかと、思っている。
2005年8月以来の湯ノ丸山である。スキー場で知られた地だが、一帯は高山植物の豊富な高原地で、稜線は秋まで花が咲き乱れるため、それを期待しての登山者も多い。そして山頂からの眺めも一級品である。
前回はガスで何も見えず、隣りの烏帽子岳にも立ち寄らなかったが、今回は十分満足のいく半日ハイキングとなった。
雲海に浮かぶ篭ノ登山のシルエット。湯ノ丸山の登りにて
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朝早く地蔵峠駐車場もガランとしている。奥にこれから登るスキーゲレンデが見える
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地蔵峠 |
地蔵峠からの登りにて、リフトの下で牛が草を食んでいた
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牛がのんびり |
湯ノ丸山南峰から、北峰越しに四阿山(右後方)、根子岳(左後方)を望む
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四阿山 |
湯ノ丸山南峰からは妙高山(右端)、火打山、焼山といった頚城山塊も望める
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妙高山も |
北峰から見た湯ノ丸山南峰は穏やかな丸い形をしている
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丸い山頂 |
個性的な姿の烏帽子岳を前景に、北アルプスの稜線を望む。右端に槍ヶ岳が見える
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烏帽子岳と北アルプス |
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イワインチン |
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マツムシソウ |
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早朝から歩き出したいため、東部湯の丸SAで車中泊する。翌朝、30分ほどの運転で山を登り、湯の丸高原の地蔵峠駐車場へ。朝早いのでまだ静かだ。それにさすがに涼しい。
湯ノ丸山や篭ノ登山(高峰高原)の山頂付近はどうやらガスで隠されているようだが、強い風に乗って雲が速いスピードで動いており、空模様は劇的に変わりそうではある。
ロッジ花紋の脇から右に見えるスキーゲレンデを登っていく。ゲレンデの端っこに道があるようだが、中央の薄い踏み跡を上がる。ペアリフトの下に牛が何頭か、草を食べている。レンズを向けていたらこっちに近づいてきた。牛は怒っているのかどうか表情ではわからず、慌てて離れる。
登り切ると、以後は緩やかな幅広の道となる。つつじ平へ向かう枝道が何本か分岐している。ここからは高山植物の道となり、左右の草むらにマツムシソウやウメバチソウが見られた。
あずまやを過ぎ、鐘のある分岐に着く。ここらあたりから湯ノ丸山の2つのピークが見えるそうだが、前回同様、あいにくガスの中で全くだ。しかしガスは薄く、日が高くなるにつれ晴れてくるだろう。
笹と低潅木の間を登っていくとやがて草付の斜面に出て、眺めが開けてくる。背後に太陽の輪郭がまぶしい。さらに登ると一気にガスが飛んで青空となった。山頂も目の届く位置にある。振り返ると鯨のような黒い大きなシルエットが、雲海の中に浮かんでいた。浅間山かと思ったが、手前の篭ノ登山のようだ。
右手に湯ノ丸山のもうひとつのピーク、北峰も見えてきた。あと一息の登りとなる。背中から太陽に炙られるものの、朝の空気は爽やかで暑さを感じない。山頂まであと少しのところに、ヤナギランの咲き残りがあった。
緩い登りをこなして湯ノ丸山の南峰へ到達。眺望は360度で、反対側の斜面に立つと、まずは北アルプスの眺めに目を奪われる。目の前の烏帽子岳を前景に、少し離れているが穂高、槍、鹿島槍、五竜、白馬など勢揃いである。立山、剱岳は雪の白い筋がはっきり見えている。まさか前日に降ったわけではないだろう。昨年から今年の冬の残雪の多さがあらためて実感される。
そして、北アと高度を競うかのような頚城(くびき)の山々。焼山・火打・妙高の頚城三山がそれぞれ特徴ある山容を見せている。焼山は近いうちにぜひ登頂したい。そして湯ノ丸北峰の真後ろには四阿山と根子岳が大きい。
振り返ると相変わらず篭ノ登山のシルエット、その後に浅間山も重なるように見え隠れしている。その右奥に見えるギザギザした山は御座山だろうか。さらにその遠方には何と富士山も見ることができた。
北峰へ足を伸ばす。道中はマツムシソウ、イワインチン、オヤマリンドウ、ハクサンフウロ、ヤマハハコ、アキノキリンソウなど夏から秋へ橋渡しの役目をする花がたくさん咲いている。今の時期は咲く花の色も紫やピンク、黄色、白、青など実にバラエティに富んでいる。
北峰に立つと、場所が移動したためか、篭ノ登山の後ろに隠れた浅間山の見える部分が、少し多くなっていた。北アルプスは雲も取れて、さっきよりはっきりと見える。この展望360度の山頂と稜線を、まだ時間が早いので贅沢にも独り占め状態である。
南峰に戻り、正面に見えている烏帽子岳へ向かう。ちょっと曲がった尖がりを持つ山頂は、まさに烏帽子そのものである。湯ノ丸山からは滑りやすい急坂を下る。ウメバチソウやマツムシソウを見ながら、かなり高度を下げる。樹林帯も現れるところまで下りきった鞍部は標高1860mくらいで、さっきゲレンデを登って行き着いた湯ノ丸山の登り口とほぼ同じである。つまり登った山ひとつを下ってしまったことになる。
烏帽子岳へは、笹原の稜線を登り返していく。道そのものはよく整備され、ガレ場など危険な箇所もほとんどない。タムラソウやヤナギランなどの花も豊富だ。
少しの頑張りで烏帽子岳南側の尾根(稜線分岐)に出る。この尾根も眺めがよく、反対側の上田市の町並みが一望だ。川に沿って家や農地がひしめきあっていて、箱庭を見ているようだ。そうした展望満点の稜線をひと登りすると、進む先に烏帽子岳山頂部があらわになる。
オヤマリンドウが多く咲く道を歩き、烏帽子岳山頂に立った。ここも展望がすばらしい。北アルプスは湯ノ丸山南峰より若干近づいた気がする。そして、意外な近さに八ヶ岳がある。大方を雲に隠されているが大きさと高さを感じる。
右手、群馬県側には湯ノ丸山のこんもりした姿が印象的だ。烏帽子岳もその山容をよく表した名前であるが、湯ノ丸山も丸く優しい形をしており、名前のイメージとよく合っている。
登山者が次から次へとやって来る。地蔵峠からは巻き道を使えば、湯ノ丸山に登ることなくこの烏帽子岳に登れる。あまりきつい登りなしにこれほどの好展望を得られるので、烏帽子岳は人気が出て当然の山と言える。一方、山頂から角間温泉に下っていく道も興味を引くがなかなか険しそうだ。
稜線分岐まで下る。尾根はもう少し南に伸びているので足を踏み入れてみたが、踏み跡はピークを西に巻いて下っていたのですぐに引き返す。
湯ノ丸山を見ながら鞍部へ下る。これから登ると思われる人がたくさん休憩していた。
ここからは、湯ノ丸山南面の巻き道を歩いて登山口に戻るだけだ。平坦な道を30分ほどで、湯ノ丸山の登り口に通じる分岐。さらにそのすぐ先のキャンプ場を過ぎ、地蔵峠に戻ってきたのはちょうどお昼だった。朝方ガランとしていた駐車場はほぼ満車状態、ロッジは人で賑わっていた。
日は高くなっても、標高1700mを越えた登山口は暑さを感じない。車もエアコンいらずだ。
前回訪問時に好印象だった鹿沢温泉「紅葉館」に行ってみる。本館が改築とのことで、建物がなくなっていたのにびっくりしたが、併設されている蕎麦屋が日帰り温泉の受付になっていた。
湯屋の外側は新しい木材で明るくなっていたが、中は前回来た時と変わらぬレトロな雰囲気だった。鉄成分を含んだ白濁のお湯はとても熱い。しかしやはりいい温泉である。蕎麦も食べていきたかったが、今日は高速が渋滞になる前に、早めに帰ることにする。