この土曜日は、西上州の山でまだ登っていない2座に登った。小沢岳はその端正な形から「西上州のマッターホルン」「下仁田槍」などと呼ばれているが、岩山の多い西上州の中では比較的登りやすい。
「ひとつ花」という風流な別名をもつアカヤシオは、開花にはまだ早いか。10年前の同じ時期に、黒滝山の前衛ピークである鷹ノ巣山でアカヤシオを見れたので、少し期待して出かけた。
大屋山登山口となる一軒家の上部からは、西上州の山の眺めがいい
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上信越道を下仁田ICで下りる。下仁田駅付近を通過し国道を西に進むと、周囲は次第に山里の風景に移り変わっていく。日差しが明るく、車の中にいるのがもったいない。坊主渕バス停を過ぎ山に入っていくと両側に岩壁が迫る。高いところには芽吹いた葉やミツバツツジが日光に揺らいでいた。
七久保橋で舗装道路は終わり、ダートの道に入る。終点の椚峠(くぬぎとうげ)までは普通車ではきついということなので、適当なところで駐車スペースを見つけ、歩き始めることにした。
林道を歩くとすぐ先に駐車スペースがあった。林床にはハシリドコロやハナネコノメが咲いているが、スミレは少ない。このあたりはまだ早春の趣きで、奥多摩など南関東の山地とは季節が1週間から2週間ほど遅れている。石仏を見るとすぐに椚峠。林道工事中で周囲は明るい雰囲気になっていたが、伐採が入り殺風景な印象である。
ここから登山道が始まる。尾根通しの道は人工林の中だが、左手の眺めが割ときき、遠くの山並みが見える。進行方向左側には浅間山がよく見える。もっと西側に雪を被っているのは蓼科山、八ヶ岳あたりだろうか。今年登った茂来山も大きく頭をもたげている。またすぐ隣りのゴツゴツは怪峰・桧沢岳である。
登山道に沿って、左下に林道のようなものが伸びている。この林道はこの先の前衛峰まで続いていた。その前衛峰に登り着くころにはかなり山深い雰囲気になり、いったん下った先からは自然林の尾根になる。
青空が目に染み渡るようになると、小沢岳頂上である。祠と三角点が鎮座している。周囲を低潅木に囲まれているが、展望は素晴らしい。西側の一段下がった場所に出るとさらに広いパノラマの眺めである。今まで樹林越しの眺めだった浅間山や八ヶ岳方面の他、荒船山や物語山など西上州の山々、妙義山の背後には信越か谷川連峰か、白い山並みがよく見える。
マッターホルンの別名を持つように、小沢岳頂上からの眺めは他の西上州の山とは違った独特の高度感があり、どこか他の高い山から見渡しているような印象がある。人気がありそうな山とは思うが、今日ここまで出会った登山者はたったの3人だけだ。それもそのはず、アカヤシオは結局開花前であったのだ。頂上にアカヤシオがあるとは知っていたのだがまだ蕾だった。小沢岳は標高が1000mを越えていることもあり、10年前の黒滝山(700~800m)とは少し開花時期がずれていても不思議ではない。
花を期待してこれほど大きくハズしたのは、久しぶりである。まあこんなこともあるから、山は奥深い趣味だと言える。
大屋山登路の途中、蓼沼は小さい池だが周囲に落葉樹もあり休憩適地
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蓼沼 |
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ヤセ尾根を辿る |
大屋山山頂は三角点があるだけの狭い場所。樹林が茂り見晴しはあまりよくない
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大屋山山頂 |
大屋山の露岩ピークからは、「西上州のドロミテ」立岩の存在が大きい
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立岩が高い |
露岩ピークから、樹林がいくぶん邪魔をするが毛無岩のゴツゴツも見える
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毛無岩も |
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下山は往路を戻るが、登りで見ていた林道を下ることにした。時間的にはほとんど差はない。下部の方は落葉樹下となっていた。途中で大きな崩落があり、この林道を使って車で前衛峰まで上がることは無理である。
駐車スペースに戻ったのは11時過ぎ。国道まで下りて花咲く山里を走り、六車まで行く。川沿いの国道は桜をはじめミツバツツジ、ミツマタやレンギョウ、また民家の庭先にもたくさんの花が咲き揃っていて、いよいよ春本番という雰囲気だ。
六車(むぐるま)で南牧川を渡り、緩い坂を上る。黒滝山に通じる道と別れ、ジグザグに上っていく。地図では蓼沼(たでぬま)という集落まで車は入れそうだ。「大屋山へ」との標識が掲げられた登山口らしき広場に着く。周囲はまだ冬の佇まいだ。地面には早春の花オオイヌノフグリが咲いているくらいなので、おそらくこの上にもアカヤシオは見られないだろう。ここから歩いてもよかったが、さらに上まで行けそうなのでさらに車を走らす。
やがて、斜面に一軒の民家が建つ台地に出た(蓼沼登山口)。その家に向かう細い道に「大屋山登口」との表示があるので、ここから登れそうだ。路肩に駐車させてもらって出発する。
一軒家の裏手のカヤトの斜面に道はつけられていた。ここからの眺めは素晴らしく、この家の人は毎日こんな眺めを見ながら暮らしているのか、とうらやましく思う。しかしこの家には住人はいるのか。窓はカーテンで閉ざされ、戸口には一応表札のようなものは掲げられているが、人の気配は感じられない。裏の戸口が開け放たれており、部屋には建材が積まれている。何やら資材置き場のようにも使われているようだ。
カヤトの斜面が尽きると山に入る。進行方向の地面には木の枝で罰点の形が作られている。罰点は「この先行き止まり」の意味を表すことが多いので不安に思ったが、罰点の先の道にはちゃんとビニールテープがついている。大屋山へはおそらくこの道でよいのだろう。
この山もしばらくは植林の中の薄暗い道だ。小さな尾根を越えると「清水あります」との標識。この先は広い尾根の登りが続き、道がわかりにくいところがある。テープが頼りになる場所も多い。大屋山への近道と分かれ、「蓼沼・明神宮」の方向に進んでみる。祠があるその先にトタン屋根の休憩場があった。蓼沼といっても広さはおよそ畳6畳分もない、猫の額のような池である。ただ一帯は落葉樹が多いので、新緑の頃はそれなりに見所のある場所かもしれない。
落葉樹と植林の境目を登っていく。やがて明るい尾根道となり、木の枝越しではあるが展望も開ける。登り着いた大屋山は三角点があるが、人1人か2人くらいしか留まれない狭い山頂だった。この先に展望地があるというので、そのまま尾根通しに進む。やせた尾根を歩いていくとアブラチャンやキブシなどの木の花が多くなった。気分のいい場所である。
行きついた露岩ピークは低潅木の上に周囲の山の眺めが広く見渡せた。目を惹くのは真正面、2つのピークがいかつい立岩(たついわ)である。すごく近くに見えるので圧巻だ。荒船山や毛無岩なども見えるが、木の枝が少し邪魔をし、360度のパノラマではない。少し先にある岩の突端まで行けば遮るものはないのだが、危険を伴うので一般にはこの地点までだろう。
来た道を戻る。蓼沼経由でない直接の道をたんたんと下っていく。露岩ピークから蓼沼登山口までは、40分そこそこで下ってしまった。大屋山で出会ったのも3名程度。今日は天候のよい休日であったにもかかわらず、小沢岳・大屋山いずれも静かで滋味溢れる山であった。両方とも岩場があまりなく凍結の心配も少ないから、展望を求めての冬の山行もいいかもしれない。 六車まで車で下り、「カタクリの小径(こみち)」と呼ばれる自生地に寄っていくことにする。カタクリの見頃は先週までだったようで、花はほとんど終わっていたが、明るい斜面にヤマエンゴサクやシロバナエンレイソウが咲いていた。歩きやすい歩道が整備され、記念碑やベンチなどがあって集落の人々がこの場所を大切に扱っている様子がうかがい知れた。
車で西上州の山をハシゴするのは後ろめたい、というかもったいない気持ちがある。山麓の集落の佇まいが独特で惹かれるものがあるので、急ぎ足で通り過ぎるには惜しい山域である。そんな意味で今日はどちらかひとつの山のみの計画でもよかったかもしれない。ちょっと欲張りすぎた。
今回のメインイベントは明日、日曜日である。新潟県小出駅前のビジネスホテルに予約を入れて、上信越道、関越と乗り継ぐ。