朝、唐沢小屋の前からは木の枝越しに男体山が見えるが、空はどんよりとした曇り。午後には天気が崩れる予報もあり、このまま下山することも考えた。
朝食を取って外に出ると、いつの間にか雲は取れ、眩しい青空が広がっていた。
女峰山から大真名子山へのルートは長いが、天候が悪化する前には志津林道に下りられそうだ。思い直して予定のルートを取ることにする。
帝釈山から、小真名子山・大真名子山の2つの大きなピークを越えていく
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5時半に出発。昨日のガレ場を慎重に登り返す。振り返ると昨日は見えなかった男体山が大きく、女峰山へは意外と早く到達できた。
今日は360度全方位が青空、そして山また山の眺め。同宿だった人たちはまだ登ってこない。山頂を独り占めである。日光白根山や越後駒、平ヶ岳もよく見える。
今日のルートを確認する。小真名子山から大真名子山、両方とも溶岩円頂丘の急な斜面を持っていて登降が厳しく、平坦なところがほとんどないように見える。しかし大真名子山への登りは意外と緩やかな部分もあった。
まずは帝釈山への尾根歩きに入る。下り始めはちょっとしたガレの急坂で、少し緊張する。しかしそれも長くはなく、やがて斜度のないやせた岩稜伝いとなる。ハイマツが生育し眺めも開け、気分がいい。しかし道は険しく、鎖で大岩を越えるところもあった。帝釈山までの尾根道は日光三嶮のひとつに数えられている。
振り返ると女峰山が鋭い頂を天に向けて聳え立っていた。山頂には人の影が見える。
帝釈山への登りは短く、短い樹林帯をくぐると帝釈山山頂となる。太郎山がぐんと近づき、会津駒ヶ岳も一番近い位置まで来た。
女峰山から見たこの山は、黒木に覆われた地味な山の印象があったが、眺めもよくなかなか居心地のいい山頂だった。
さてここからはいよいよ、表日光連峰縦走の醍醐味?である下ったり登ったりの修行道となる。
富士見峠への下りは、鬱蒼としたシラビソ樹林の中。道がえぐれていて歩きにくい上に、雪がかなり残っており時々踏み抜いてしまう。
よく目を凝らすと、道の左右の樹林帯に細い踏み跡が沿うように続いている。えぐれた道を避けて歩く人が多く、そのために出来てしまった道であろう。
これ以上の自然破壊を防止するためにも、本当はこういう踏み跡を使わないようにするべきなのだが、楽を求めてついつい入ってしまう。
同じような斜度の下りが延々と続き、前方が明るくなるとようやく、林道の乗っ越す富士見峠である。この林道は志津乗越につながっており、エスケープルートとしてこれを下りていくことができる。また馬立から登山道に戻り、日光市街地へ下山するコースもある。
稜線縦走しかないと思っていた女峰山も、いろいろなルートが選べることを知った。
峠で小休憩後、再び腰を上げる。今日の核心部のひとつ、小真名子山の登りに入る。短い樹林帯の道を抜けると、急なガレ場が目の上に広がる。ここは我慢して登っていくしかない。
浮石に注意しながらペース配分を守って高度を上げる。踏み跡もジグザグについており、むしろ女峰山直下のガレ場よりも歩きやすい。もっとも転倒したら止まらない恐れもある急傾斜で、危険地帯であることには変わらない。下りに取るとさらに危険度は増すだろう。
岩場にはツガザクラがそこかしこで群落を作っている。振り返れば帝釈山の端正な三角形が大きい。やはりさっきの富士見峠への下りは半端な距離ではなかった。
小真名子山三角点から無線反射板の立つ側は開けていて、眺めがいい
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小真名子山山頂 |
大真名子山の登りは沢跡のえぐれたところを登っていく。木の根、倒木、段差の連続となるが、回りをよく注意して見ていると、それらを避けてつけられた踏み跡を見い出すことができる
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どこを歩けば |
大真名子山の急坂をを大方登り切ると、赤ザレの崩壊地に出て女峰山方面の稜線が望まれる
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女峰山の稜線が覗く |
岩の積み重なった大真名子山山頂には蔵王権現像が立つ
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最後の頂 |
大真名子山山頂直下の岩場は千鳥返しと名づけられている。梯子と鎖を使って下降する
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千鳥返し |
すさまじい形相の三笠山神像。高度を落としたところに八海山神像もあり、この縦走路が古くからの修験道だったことをうかがわせる
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三笠山神像 |
志津乗越に下り立つ。男体山の登山口でもあり、駐車スペースと簡易トイレがある。ここからバス停の三本松または光徳温泉までは2時間ほどの歩きとなる
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志津乗越へ |
バスで東武日光駅に戻る。表日光連峰は厚い雨雲に覆われていた
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嵐の前の |
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低木帯をかすめて再びガレ場を通過すると、今度は樹林帯の急登となる。しかしそれも長くはなく、やがて無線反射板の立つ小真名子山山頂に着く。第一関門突破だ。
反射板から三角点があるあたりまでは眺めがいい。実際の山頂は樹林の中だが、樹林の切り開きから女峰山の眺めが得られた。
すぐに下りとなる。大真名子山を正面に見据えるが再び樹林の中へ。やはりここも歩きにくく雪も残る。
それにしても周囲はシャクナゲだらけである。標高が高いせいか花はまったく付けていないが、ここが花期を迎えたらかなりすごいことになりそうだ。ただ、ここも花芽は全く見られない。
意外と早く鞍部の鷹ノ巣に下り立つ。男体山方面から大きな雲がいくつも流れてきて時折り日差しを遮る。今日もやはり晴れのち曇りの天気のようだ。
大真名子山への登りは初めのうちこそ緩やかだが、すぐに荒れた登山道となる。木の根が浮き出て、倒木や路肩の崩壊、段差が行く手を阻み、どこを歩いていいのかわからないところも多い。やはりここも両側の樹林下に、細々とした踏み跡が作られていた。
若干斜度が緩くなると頭上が明るくなって、平坦な場所に出る。女峰山からもこの台地のような地形は見えた。さらに進むと山頂部がもう一段高い所に見えてきた。
相変わらずシャクナゲの木だらけの中、最後のひと登りをこなすと、蔵王権現像の立つ大真名子山山頂に登り着く。正面に大きな男体山、反対側に女峰山、そして今歩いてきた尾根筋を一望できるが、樹林が伸びており360度の眺めというわけではない。
いずれにしてもここが今日最後のピークだ。一時は不安な思いもあったが、とにかく登りきることができ、まずは一安心である。大きな岩の上に乗っかり、雲間から届く日差しを受けながらゆっくり休憩する。
しかしまだ、これですんなり下山できるわけではない。下り始めてすぐに、千鳥返しという岩場に出会う。鎖と梯子が設置されてはいるが、緊張するところだ。足の置き場を慎重に選びながら確実に下る。ここも日光三嶮のひとつとなっている。
その後は、急な下りが連続するものの、先ほどの登路に見られたような倒木などもほとんどなく歩きやすい。志津乗越から大真名子山だけを往復する人が多く、それで登山道の整備が行き届いているのかもしれない。
途中で恐ろしい形相の三笠山神像を見て、さらに下っていく。低い笹が現れ傾斜も緩やかになってくる。針葉樹の森がずっと続いていたせいか、カラマツ林が懐かしく感じられた。
林道の通る志津乗越に下り立つ。この難路を歩き通せた満足感に浸る。朝、諦めて下山してしまわなくてよかった。
周囲は男体山の登山口にもなっており、駐車場や簡易トイレもある。平日にもかかわらず車は10台くらい停まっていた。やはりここから男体山を往復する人が多いのだろう。しかし自分は、ここで歩き終了ではない。舗装された道を2時間かけて下っていく。
しばらくすると雨が落ちてきた。時間の経過とともにけっこうな降りとなる。下山中に降られなくてラッキーだった。雨具をかぶってひたすら光徳温泉を目指すことにする。
それにしてもカラマツ・ミズナラ林につけられたこの裏男体林道は、歩いても歩いても景色が変わらず、いいかげん最後はうんざり感でいっぱいになった。
三本松への道を見送り右折。バスの走る国道に出てから15分ほどで、ようやく光徳温泉(日光アストリアホテル)に到着した。昨日・今日とよく歩いた。自分を褒めてあげたいような2日だった。
硫黄の香り漂うにごり湯でゆっくり体を休める。とてもいいお湯だった。
帰りのバスは登山者や観光客で満員だった。平日だとさすがに若い登山者はほとんど見かけず、中高年ハイカーや外国人ばかりである。
東武日光駅から見上げる霧降高原は、黒く分厚い雨雲に覆われていた。この日の夜、栃木県は各地で大雨に見舞われた。