5月は前日光、2週前は南会津の荒海山からこの険しい稜線を眺めた。
大らかな山の多い日光では珍しくアルペン的ないでたちで、中心の女峰山周辺にはハイマツも自生しているそうだ。唐沢小屋に一泊してこの表日光連峰を縦走する。
今年初めての山中泊である。無人の自炊小屋を利用するので重い荷物となる。アップダウンの多い登山道のようで少し心配だが、日の長い時期に、この豪快な縦走路を踏破しておきたい。
赤薙山からやせた岩稜を伝って奥社跡へ。背後には女峰山
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浅草駅5時発の東武線に乗る。浅草に5時には着けないので、山手線外回りの1番電車に乗り、西日暮里駅で千代田線に乗り換え、2つ先の北千住駅でその東武線に乗ることが出来る。ちなみにそれぞれの乗り換え時間は2分、4分である。
以前このパターンを試したときにホームがわからず失敗したことがあるので、今回は山手線の何両目に乗るか、どの階段を使って乗り換えるかなど、前もって予習しておいた。この東武線快速に乗り、東武日光駅には7時43分に着くことができた。
青空染み渡る中を、バスで霧降高原へ。高原レストハウスの前から登りが始まる。以前あったリフトは廃止され、階段が設置された。
この1445段の階段道は「天空の回廊」と言われているように、下から見ると本当に天まで階段が続いているように見える。こんな階段を小さい頃、絵本か何かで見た記憶がある。
那須連山や日光市街地など、展望が終始いいので気持ちいいが、こういうのはどうしてもオーバーペースになってしまう。最後は汗をかきながら階段を登りきり、観光客の多いキスゲ平に出た。
キスゲ平はレンゲツツジやドウダンツツジなどが咲き始めているが、ニッコウキスゲが開花前の今は一面が緑の草原である。それでも表日光連峰の最初のピーク、赤薙山の形がよく、キスゲ平のおなじみの構図である。
低い笹の中、緩やかに登っていく。焼石金剛までは眺めのいい稜線歩きが続く。ダケカンバの新緑を前景に、丸山の優しい山容が目を惹く。
咲き残りのシロヤシオを見るうちに樹林帯に入る。登山者の列に混じりながら、次第に傾斜を増してきた山道を登っていく。分岐となり、直進は赤薙山山頂を経由する。赤薙山山頂からは、引き返すことなしに稜線に戻ることが出来るようなのだが、思いのほか急傾斜になったので、途中でザックを置いていくことにした。
鳥居のある赤薙山からは、木の枝越しに女峰山の稜線が見えた。朝と比べ、ずいぶんと雲が厚くなってきている。多くの登山者はこの赤薙山でUターンするようだ。
先ほどの分岐まで戻り、巻き道を使って先に進む。緩やかに登っていき、眺めのいい狭い場所に出ると女性の登山者が3人、休憩していた。女峰山まで行くと言ったらびっくりしていた。
ゆで卵とヤクルトをもらう。それはありがたかったのだが、さらにおにぎりとヤクルト2本持っていけという。どうやらこの人たちはここで下山するらしく、荷物を減らしたい様子がうかがえる。おにぎりを無理やりザックに押し込めようとするのにはびっくりした。せっかくなのでヤクルトだけは戴いたが、かさばるプラスチックの容器のゴミが残ってしまった。
ヤセ尾根の岩場を通過する。このあたりを雲竜渓谷と呼ぶそうだ。白いイワカガミがたくさん見られる。少し登り返したところが赤薙奥社跡だった。久しぶりの荷物の重さがこのあたりからこたえ始め、しばらく休憩していく。
女峰山から下ってくる人と何人もすれ違う。女峰山を早朝発日帰りで往復する人は多いようで、出だしの霧降高原の駐車場にたくさんの車が停まっていたわけが理解できた。しかしこの険しい山を日帰りとは、自分には出来ない。
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アズマシャクナゲ |
2209m点は展望がよく、一里曽根から女峰山(左)の稜線が真正面に見える
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女峰山が目の前に
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2318mを過ぎるとダケカンバも疎らになり、四方の眺めが開けてくる
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展望の道 |
ハイマツに囲まれた女峰山三角点。奥に見える最高点までは一投足
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ハイマツの三角点 |
女峰山山頂から西側、帝釈山、小真名子山へと続く稜線。遠景には日光白根山
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ついに山頂 |
女峰山から標高差-250m、30分ほどで唐沢小屋に到着
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唐沢小屋 |
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奥社跡から先、シャクナゲが多くなってくる。花をつけたものも見かけるようになったが、花芽は少ない。今年はツツジは各地で当たり年だったが、シャクナゲはそれほどでもない気がする。
ヤハズという場所を過ぎ、足元には赤いコイワカガミやミツバオウレンも見かけるようになる。空はすでにおおかた雲に覆われ、青空を見つけるのが難しくなった。
しっとりした針葉樹林の道が途切れ、前方が明るく開けた。2295m点は展望の地で、一里曽根から女峰山に続く稜線が一望できた。まさに険しく、簡単には登らせてくれそうにない、荘厳ないでたちの山稜である。
ここにも女峰山から下って来た人がいた。1時間くらいで下ってこれたそうなので、登りであれば1時間20分くらいかかりそうだ。
勇気を奮い起こし先に進む。魚の骨状態のダケカンバ林が見られた。鞍部に下ると残雪が登山道を覆っている。その先に水場があるようだが、ヤクルトのおかげで水は足りているので先に進む。
疎林になった稜線を進む、左方向に向きを変えるといよいよ、女峰山の大きな山体が目の前だ。急傾斜の岩場を慎重に登るとハイマツが現れる。
日光側は雲厚いが、北の会津側は青空で、会津駒や燧ヶ岳の白い峰がよく見える。高度を上げるほどに展望は広がり、女峰山の三角点に到達。さらに進んで、祠の横にある女峰山の最高点を極めた。
雲がダイナミックに流れ、帝釈山から小真名子山、大真名子山が姿を現す。しかし男体山だけは、さっきからずっと雲の中である。
表日光連峰は男体山が父、女峰山が母、そして大真名子山、小真名子山、太郎山を子供に見立てた家族構成となっている。大きく堂々とした山容の男体山とはタイプが全く違うが、洗練された荒々しい気性をこの母は持っている。好対照な夫婦で面白い。
雲が多いにも関わらず1時間近く眺めを楽しんでから、唐沢小屋まで標高差250mを下る。明日また女峰山に登り返すので、この下りはもったいないが、宿泊地がここしかないので仕方がない。
途中で急傾斜の大きなガレ場があり、もう少しのところで足を踏み外すところだった。転倒したら止まらないかもしれない。荷物の重さと疲労からきているようで、ここを登り返す予定の明日のことが心配になる。
唐沢小屋に到着。2階建てで広さは十分、疲れた体をゆっくり休ませることができそうだ。ただしトイレはなく、水場は足元の悪いところをかなり下らなければならない。水場往復は20分以上かかる。
小屋には先客が2人、志津越えから登ってきたそうだ。サッカーのW杯がどうなったか知らないか、と言われる。そういえば今日の朝、日本とコートジボワールの対戦があったのだが、稜線は携帯も圏外だったし、全く下界のことはわからなかった。しかし山の中では当たり前のことである。後でラジオを聞いて日本が負けたことを知った。
その後から6,7人のグループがやって来た。耳栓をして寝たので気づかなかったが、夜半はかなり雨が降ったらしい。