東京の山が続いたので、少し遠出する。展望を求めて榛名山地の水沢山を目指した。
体力に余裕があれば未踏の相馬山まで足を伸ばしたいが、周回コースが取れそうな憩の森への下山ルートも歩いてみたい。
水沢山山頂手前の石仏群 |
月曜で高速道路は休日割引がないため、暗いうちに出発して深夜割引になる様にしたが、4時前に練馬はさすがにきつい。それでも渋滞もなく夜明け前に水沢観音に到着する。
道路を挟んで名物の水沢うどんの店もあるが、人影は見当たらない。だだっ広い駐車場もガランとしていて、寺閣の背後には水沢山の大きな塊が控えている。駐車場には、「参拝の方以外の駐車はお断りします」と書かれていたが、まあ登山も広い意味で参拝のうちだろう。六角堂と本堂のあるほうへ行く。
30段ほどの急な階段を登るところから始まる。同じコースを10年前に登っているが、取り付きはあまり覚えていない。しかし山頂まできつかったことははっきりと記憶に残っている。
階段を登り切ったところは広場のようになっていて、万葉歌碑が立てられていた。そして背後から真っ赤な太陽が昇り始めていた。山で朝日を見るのはいつ以来だろう。今年はまだ泊まりの山行を一度もしていない。
歌碑の先で、カタクリが花をつけていた。数は多くはないが今がちょうど見頃である。これは植えたものだろうか。まだ日が高くないので、花は閉じてしまっている。登頂後帰ってきたら、もう一度ここに来てみることにする。
緩やかに登っていくと、登山口があった。ここから急登が続くことになる。周囲は自然林一色であり、木の枝を通して眺めが得られる。野鳥のさえずりも朝から賑やかで、春を感じる。
尾根筋には中央に掘り窪められた太い道がついているが、その横に木段ができているので、歩く人はわざわざ中央の道を歩くことはない。
相前後して時たま、登山者を見かける。ラジオで高校野球を聞きながら下ってくる人がいた。今日は暖かいですね、と話をする。地元でしょっちゅう登りに来ている人のようだ。
お休み石で小休止。標高差で言えば、行程の半分をこなしたあたりである。さらに急坂を登る。空は快晴だが、どうも北側に見えるはずの雪山の姿がない。春霞みで視界は悪そうだ。
上部の覆いかぶさってくるような山体がようやく見えなくなり、傾斜も緩やかになる。さらにひと登りで石仏の立ち並ぶヤセ尾根の稜線に出た。北風がピューピューと音を立てて吹きすさむ。谷川連峰はやはり、春霞みの中見えていない。
やせた稜線を下ったり登ったり。ひとつ大きなピークを左から巻くようにこなし、水沢山の山頂に到達した。
360度ぐるっと見渡せる山頂だがやはり、濃いもやがかかり遠くは見えない。榛名山の二ツ岳、相馬山はよく見える。しかしここからは武尊山や谷川連峰が見えないといまひとつである。
しかも風が冷たく、長居できそうにない。後から登ってきたおそらく「常連さん」と思われる人たちは、三角点にタッチしたらすぐに下山していった。
先を行く。ひとしきり坂を下り舗装車道を横断、その後は自然林の中の緩やかな登り返しとなる。このあたりでも標高は1000mを越えているので、木々はもちろん芽吹いてはおらず、スミレなど早春の花も見かけない。このようなまだ冬の出口にさしかかったばかりの風景で、残雪がないのが逆に不思議である。
もっとも、今年は北の山では雪が少なかったようだ。ここ数年の傾向として、北日本は気温が高く、南・西日本は気温が低い状態が続いているように思う。日本全体に気候のメリハリがなくなっているようだ。
少し見晴らしのいいところでは、正面に二ツ岳と相馬山の、合わせて3つの顕著なピークがよく見える。榛名山地の最高峰は掃部ヶ岳だが、遠くから見て一番目立つこの3つのコブがやはりこの山塊のシンボルである。隣りの西上州や妙義のゴツゴツを引き継いでいる。
つつじが峰にあずまやと三角点があった。湯香保温泉や蒸し湯跡への分岐を何本か見て、オンマ谷分岐に来る。
右折して石のゴロゴロした登山道を登る。ここは二ツ岳の二つのピークに挟まれたところで、日陰には残雪が見られた。前回(といっても10年前)は手前の雌岳に登ったので、今日は雄岳に登る。
あずまや(登山ガイドには避難小屋と書かれているのが多いが、実際は壁の無い造りだった)から雌岳への道を分けてさらに登っていくと、駐車場から登ってくる道に合流。
岩交じりの急登を行くとやがて白いアンテナが見えてくる。電波塔の横に出るがどこが山頂かわかりにくい。コンクリの橋を渡り、建物の脇から短い坂を上がると、鳥居の先に雄岳山頂の標識があった。ここは周囲を木に囲まれているが、榛名富士がよく見渡せ、その後ろにはさっき見えなかった雪山の姿があった。方角的におそらく浅間山だろう。
電波塔の前まで下りると、その建物の脇に岩の積み重なった高まりがある。それに登るとさらに眺めがよかった。三角形の水沢山、丸っこい雌岳、そして目の前にイルカの頭の相馬山とそれぞれ特徴ある山容である。ただ少し足元が悪いため、下に下りて休憩する。
分岐まで戻り、駐車場まで下る道に入る。せっかくここまで登ってきたのに、もったいないくらい高度を下げてしまう。さっき目の位置に見えた相馬山がどんどん高くなっていく。
正面に横たわる尾根筋にヤセオネ峠バス停があるのだろうか、それも見上げる位置になって、下りきったところがオンマ谷駐車場。まさに谷底である。ここまで車で来れば二ツ岳や相馬山は登りやすい。
相馬山へは下った分を登り返さねばならないことがわかり、ちょっとそういう気が起きなかった。今日はここまでとし、オンマ谷を経由して引き返すことにする。
下り始めに風穴がある。説明板によると、この穴から吹き出す冷気により、付近は、この標高としては意外なほど高山帯に近い植生になっているそうだ。
さらに緩く下っていくとオンマ谷の平坦な登山道となった。ミズナラやマユミの木が多く、野鳥がそこかしこでさえずり、豊かな自然郷である。熊もよく目撃されるそうで、ここは榛名山地の一番奥まったところと言えるだろう。まだスミレさえも見当たらない冬枯れの姿だが、芽吹きの時期や紅葉の様子も見てみたいものだ。
二ツ岳の登り口であるオンマ谷分岐までは、ある程度の登り返しとなる。そのまま来た道を戻って車道地点まで来る。このあたりは分岐が多く、標識はあるものの迷いやすい。憩の森への下り口がなかなか見つからずあちこち歩き回ったあげく、つつじヶ丘展望台の下に入口を見つけた。
豊かな自然林の尾根を下っていくと、すぐに伊香保温泉方面との分岐となる。ここは右手に入り、あとはひたすら下る道である。あまり知られていない登山道だが、これを使うと水沢観音からの周回コースが実現するので、車で来た人には好都合だ。水沢山もこの尾根から見ると、ごく普通の山の形をしている。
ヤセ尾根を通過した後は緩やかな下りが続いた。杉林のピークを巻く場所もあるが、その他はほとんどが落葉樹林である。
下るにつれ、麓のゴルフ場や自然公園広い敷地が近づいてくる。高度を落とし、そろそろ足元にも花が見られるかなと期待していたが花はおろか、下草もほとんど見当たらない。代わりにツツジなどの植樹が目立ってきて、かなり手の入った登山道という印象を受けた。
やがて憩の森(森林学習センター)のフィールドに入る。野鳥観察小屋のほうの山道に入り一周してみるが、足元に山野草は見られず、ダンコウバイの木の花を見たのみ。林道に出るとふきのとうが顔を出していた。
車道に出たところにはわらびが丘のバス停があった。日差しが強まっていて、汗をかくほどになっていた。
歩道を15分ほど歩いて水沢観音の駐車場に到着する。朝のしんとした雰囲気とは一変し、平日にもかかわらず観光客で賑わい、駐車場は車が多数停まっていた。水沢観音は天台宗の歴史ある寺であり、全国からの参拝者も多いのだろう。車道を歩いている途中でもホテルのようなお寺も建っていた。
今日の山行は少し彩りに欠けたきらいもあったので、朝見たカタクリの咲く場所にもう一度行ってみる。日に当たって見事に開花しており、それこそ後光の差すがごとくひときわ輝いていた。
伊香保に来たので、やはり温泉には寄っていこう。温泉街の無料駐車場を何とか空きを見つけ、石段の湯で一風呂浴びる。朝もやはすでに取れ、石段からは小野子山、子持山の背後に谷川連峰や武尊山の白き峰々の姿がくっきり捉えられた。
しかし平日なのにこの人出は何だろう。有名な観光地なので外国人も多いのだが、これで桜の開花時期になるとかなり大変な混雑になりそうだ。
ただ榛名山はツツジや新緑の美しい山域であり、今回登り損ねた相馬山やオンマ谷の芽吹き目的に、再訪したいと思う。