南関東・甲信の雪も溶け、春を待つばかりになった。早春の花を求めての山もいいが、今回は雪の山を見にいく。
昨年夏に浅間山に初めて登って、ここは冬も登ってみたいと思った。浅間山(前掛山)本峰は厳しそうだが、外輪山の黒斑(くろふ)山は手ごろな雪山登山コースとなる。スノーシューのツアーもよく組まれるそうである。
日曜日は気温上昇が予想され、午後は天気が下り坂の模様。前夜のうちに近くまで行き、朝早く登ることにした。
雪の縞模様が特徴的な、浅間山山頂部
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佐久平PAで朝起きると、車の窓は結露どころか凍っていた。
天気はよさそうだ。チェリーパークラインを上がって車坂峠に着く。スキー・ボードのゲレンデが近くにあり昼間は賑わうがまだ6時半と早く、周囲に人はまばらだ。高峰高原ホテルの駐車場から出発する。
標高1970mのこの地で積雪は1m超、バス停は雪に埋まっていた。案内板の前でアイゼンをつけて歩き出す。カラマツ林の緩やかな道を進む。
トレースは太く、雪質はよく締まってアイゼンがとてもよく効く。ここしばらくは、奥多摩の低い山の雪を踏んでいたがやはり大変だった。こういう標高の高いところの雪はやはり歩きやすい。
日の差さないうちはまだブルッと震えることもある。車坂山を越えて登り返すと、背後の眺めがよくなり篭ノ登山や湯の丸山が見え出す。
コマクサの咲く展望地に出るが、気温が高いせいかもやが濃く、遠望が利かない。夏には見えた八ヶ岳はほとんど見えなかった。
高度を上げていくとの植生はシラビソやシャクナゲに変わっていく。左上の大きなピークはトーミノ頭だろうか。尾根を進むと正面に、浅間山の大きな山体が現れてきた。
避難小屋には1mくらいの雪が積もっている。この先は待望の、赤ゾレノ頭の展望台である。浅間山が全貌を現す。斜光を浴びて神々しい。縦縞の雪模様が独特である。これが見られれば、今日の目的は半分以上果たせたようなものだ。けれどせっかくなので、もちろん先へ進む。
左手の稜線を緩く下った後、急斜面を登り返す。トーミノ頭からはさらに浅間山の眺めが素晴らしい。惜しむらくは、八ヶ岳や妙義が春霞で全く見えないことだ。気温の低い昨日だったら全てがクリアに見えていたことだろう。
さらに高度を上げる。右手に浅間山の大パノラマを見たり、樹林帯に入ったりを繰り返す。噴火避難指示用のスピーカー施設を過ぎ、しばらく進むと下りになる。黒斑山の山頂を気づかずに通り過ぎてしまったようだ。今日は往復コースなので、帰りに気づけばいい。
このまま南北に伸びる稜線を進む。黒斑山以降もトレースははっきりしていて歩きやすい。
これだけガシガシ歩いていて、アイゼンの裏を見ると雪がまったくこびりついていないのが素晴らしい。厳冬期を過ぎ、少し気温が上がってきた今の時期が一番雪が締まるのだろう。この標高では、まさに今が雪山歩きの最適期と思われる。
相変わらず樹林帯の道から、展望の稜線に出たり入ったりを繰り返す。振り返ると黒斑山が真っ白だ。気温が上がって春めいてきても、そこは標高2400mの山の姿である。シラビソの葉から垂れ下がるつららも陽光を受け輝いている。
若干、右手の急斜面に気をつける場所がある以外は、総じて危険のない道である。樹林帯の中、ひとしきりの緩い登りを済ますと岩の出た蛇骨(じゃこつ)岳山頂に到達する。
北側に四阿山の姿が、かろうじて霞の中に浮かんでいる。四方すばらしい眺めが得られるが、ここはちょうど稜線が東西方向にカーブするところだ。途端に風が強くなり、ひとところに留まっていられない。
蛇骨岳から先にも、ワカンのトレースが1つだけあった。どうしようか迷ったが、今日はやはりここまでとする。
南北の稜線に戻ると風はピタリと止む。朝方は逆光だった浅間山も、次第に順光側になって雪の縞模様がはっきりと見えるようになってきた。時折、火口から噴煙がもくもくと出てくる。
そんな浅間山(前掛山)の山頂に通じる登山道に人影が見えた。やはり登っている人はいるのだ。風が弱い好条件であれば、それほど難しくはなさそうに思える。
今度は黒斑山の山名標識をしっかりと見ることができた。行きも山頂を通過したけれども標識を見逃していたようだ。
この時間あたりから、登山者が何人か登ってくるようになった。狭い黒斑山山頂もたちまち賑わいの地となる。休憩の後、下山開始とする。
トーミノ頭で浅間山の姿に別れを告げてから、鞍部で中コースの分岐に入る。こちらのコースはあまり眺めの開けるところはないが、危険箇所はなく、風の影響も受けずに安心して下れる。
スノーシューで登ってくる人がいたが、それほど幅広の道ではないので少し苦労していた。これだけいい雪ならつぼ足がベストだろう。雪は登山道のデコボコを隠し、むしろ夏よりもずっと歩きやすい。
途中、開けたところで篭ノ登山方面のスキーゲレンデが見えた。スキーやボードをやっている人がいたが、それほど混雑していない。
スイスイと下って、朝の車坂峠登山口まで戻ってきた。下山にかかったコースタイムは夏よりも短かった。
おそらく、冬季としての雪山登山は、今年はこれが納めだろう。最後になって快適な、満足のいく雪踏みが出来た。高峰高原ホテルで一浴して帰路につく。時間が早かったので、高速でもほとんど渋滞に巻き込まれず帰宅できた。