関越自動車道を北上しているときは北関東は青空の下だったが、伊香保温泉の車道を上っていくと、山にはガスがかかっていた。
標高1100m近い榛名ビジターセンターには大きな無料駐車場がある。平日の朝ということもありガラガラだった。湖を取り囲む山は厚い雲に覆われている。どうやら天候回復は、日が高くなってからのようである。
前日までの仕事の疲労が残っており、こんな天気なので、すぐには出発せずにしばらく車の中で仮眠することにした。
天目山付近から望む榛名富士(右),烏帽子岳(中央),鬢櫛山(左)
|
8時過ぎ、わずかに青空が覗き始めた中、出発する。相変わらず人影はほとんど見当たらない。マツムシソウ咲く草地を見て、榛名富士の登山口まではすぐだった。
コニーデ型の山らしく、草地に付けられた登山道は尾根筋ではなく、斜面をジグザグになぞるようについている。急になることもなく、一定の斜度が続くので、単調さは否めないが歩きやすく、少し山をかじった人なら難なく登れそうだ。
道中眺めはなく、ロープウェイ山頂駅が見えてきて初めて視界が開けた。ロープウェイはこの時間動き出したばかりで、作業員しかいない。そのまま石の階段を登っていくと、社のある榛名富士の山頂である。
天気が良ければ眺めは良さそうだが、今日は一瞬だけ稜線が見えただけで、すぐに周囲は乳白色になってしまった。良縁と安産のご利益があるらしく、社にはたくさんの絵馬がかけられていた。
ゆうすげ方面に下る道は今までとは一変。草深い中を抜けるとすぐに、急降下の滑りやすい道となる。観光で来る人はほとんどがロープウェイか、来た道を下るのだろう。山も急に深くなったような気がする。
ある程度下り切れば緩やかな森の道になった。ミズナラなどの緑がきれいなのは榛名山地の特徴である。キバナアキギリ、レイジンソウ、トリカブト、アキノキリンソウを見ながら登山口に着き、ほどなくゆうすげ元湯前の車道に出た。
今日はできれば榛名湖を取り囲む山を一周したいが、それぞれの山は登山道でつながっているわけではなく、何度か車道に降り立つことになる。烏帽子岳の登り口はすぐに見つかった。緑濃い中に1本の黒い道が通っている。榛名富士ほどではないがこちらも、ある程度は歩かれているようだ。
緩く登っていくと20分ほどで稜線上の鞍部に出た。右手の坂を上がっていくと「加護丸稲荷」と書かれた赤い鳥居があり、その先に狐の石像がこちらを睨んでいる。榛名山は狐のお稲荷さんが守護神なのだろうか。
急坂を上がっていくにつれ道は険しさを増し、岩っぽいところも出てくる。大きな石の上に狐の小さな置物が何体も乗っていた。烏帽子岳は少しばかり神秘的な山のようだ。
山頂部は膝上くらいの笹が一面に広がっていた。登山道も笹が被り、てでかき分けながら烏帽子岳山頂に着く。樹林に囲まれた静寂の地である。ここから「榛名富士」の標識に従って少し下ると、絶壁の縁に出た。ここは烏帽子のちょうど突端の位置であり、展望の地である。あいにくのガスで真っ白だが、次第に見通しがよくなり正面の榛名富士や榛名湖が見渡せた。
鞍部まで戻り、今度は稜線を直進する。烏帽子岳から鬢櫛(びんぐし)山へは距離は短いが尾根続きとなっている。
鬢とは耳の脇にある髪のことであり、お相撲さんの鬢付け油の「びん」のことだ。山が櫛の形に似ていることからこの名がついているそうだ。奇怪なピークが連なる榛名山地の中では珍しく穏やかな山容である。
もう1本の下山路を見送り登り返しとなる。次第に傾斜が増していくのは、たしかに櫛の背を登っていくような感じがする。鬢櫛山の細長い山頂にはいつの間にか着いた。ここも展望はないが、樹林の間から山の稜線が見え隠れしていた。
鬢櫛山から先はあまり情報はないが、稜線伝いに歩いて湖畔に下ることができるはずだ。
ミズナラの美林のある笹尾根を歩き、次第に高度を落としていくと、コースは一時的に岩っぽくなった。踏み跡もややはっきりしなくなるがやがて、深沢川沿いの林道が見えてきた。しかし林道には下りず、そのまま薄い踏み跡を辿っていくと湖畔の車道に出た。
今下りてきた方向を振り返ってみると、ちょっと登りにとるには入口がわかりにくそうである。
天気はやや持ち直し、日差しと青空が覗いてきた。このまま湖畔の車道を歩いていっても榛名湖一周できるのだが、明るくなったので山の尾根を歩いて行くことにする。
ハイカーが二人やってきた。おそらく榛名山地の最高峰、掃部ヶ岳と杏ヶ岳を歩いてきたのだろう。この日出会った登山者は結局この二人だけだった。
榛名湖バス停のあるあたりは視界が開け、コスモスを前景に今登ってきた烏帽子岳と鬢櫛山がよく見えた。トンガリ山と櫛型の山、登っていてその山の形がよくわかる山だった。それは榛名富士も同じである。
天神峠方面へ、戻るように車道を折れ曲り登っていく。すぐに山への取り付き口があり「関東ふれあいの道」の標識が立っていたが、まさかこんな草ぼうぼうの所へは入っていかないだろうと思った。しかしその先にそれらしき入口はなさそうなので、やはりここが取り付きのようだ。
意を決してその草の茂みに入り込むと、道はすぐにはっきりした。少し登ると氷室山の天神峠登山口があり、反対側の車道からも道が上がってきていた。
木の階段がずっと続く。まだ表面が濡れているので滑りやすい。ヤセ尾根の登山道はツツジの木が多く、振り返ると榛名湖や烏帽子岳の眺めがいい。そのまま急登をこなすと氷室山の山頂だった。
榛名山地の歴史を説明した案内板がある。太古の昔の榛名山は、富士山のように高いひとつの山だったが、その後大爆発が起こって隆起や陥没が繰り返され氷室カルデラが誕生、その後の火山活動で現在の外輪山と榛名湖が形成されていったという。
氷室山からは急降下の階段道で始まり、細かなアップダウンが繰り返される。次の天目山は今日最後の山頂で、ここも樹林の中だが今日一番山頂らしい落ち着いた雰囲気に包まれていた。
木の間から覗くイルカの頭のような峰は相馬山である。今回榛名湖の山を登って、榛名山地の主な山では、天狗山とこの相馬山だけを登り残すことになった。
急な階段道を下っていくと、もう一度榛名湖方面の眺めが開ける。その先の登山道は防火帯のようになって歩きやすくなった。右手に車道が上がってくる手前で榛名湖へ下る分岐に入る。そこからは早く、10分くらいで再び湖畔の車道にとび出た。
ビジターセンター駐車場付近には、朝よりは人出も多くなっていたが、車の数はまだ数えるほどだ。代わりに観光用の馬が2頭、自分の車のすぐ近くで客を待っていた。
今日は榛名湖を囲む山をぐるっと一周した。距離的にはそれほどでもないのだが、アップダウンが多いので最後はさすがにくたびれた。
このルートは鬢櫛山登山口~天神峠間の車道歩きを除き、ほぼ全行程を登山道で歩きつなぐことができるのが魅力である。新緑や紅葉時期はさらに見所が増すであろう。