足利市の行道山に登る。12月は織姫神社の紅葉がいいとのこと。ただ、見頃は少し逸したかもしれない。
栃木県の低山はずいぶん登り残していて、大小山、古賀志山、石裂山などの有名どころが軒並み未踏である。備前楯山や「孤高のブナ」で脚光を浴びた中倉山と言った足尾の山、大御所としては男体山もまだだ。これらを来年は少しずつ消化したい。
浄因寺の清心亭が断崖の岩の上に建つ [拡大]
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東武伊勢崎線で北へ。平日のため通学の高校生が駅ごとに乗り降りする。
今日は関東地方に東風が入り、東京を中心に天気が悪い。埼玉を含め北関東は晴れの予報なので大丈夫と思ったが、車窓に広がる関東平野は全面的に低い雲に覆われていた。さらに北のほうは青空が見えている。日が当たり明るくなっているのは奥日光の高い山か。足利市付近は青空の下だろうか、微妙なところだ。
足利市駅からは市民の「アッシー」生活路線バスでさらに北に行く。窓からは今日下ってくる予定の尾根がすぐ近くに見えた。
終点の行道山バス停に着く。バス停が山の名前になっているが、標高はそう上げておらず、近くに民家もある。
神社を横に見て、林道を上がっていく。すぐに山に入る。直進すると名草巨石群に向かうところで左折。名草巨石群は以前赤雪山に登った時に通過したが、今日のコースはそれにつながっていることになる。
浄因寺に登っていく手前でゴンドラの発着所があった。今は動いていない模様。その浄因寺にはほどなく着く。山門をくぐり、急階段を上がっていくとイチョウの黄葉が敷き詰められた庭園風の境内に立つ。岩壁の上に清心亭が建ち美しい。
関東の高野山と言われる浄因寺は、開創が和銅7年(西暦714年)と歴史ある古刹だ。行道山という山名は、浄因寺開創者の行基上人から取られているのだろう。
さっきのゴンドラは浄因寺の見学、参拝者のためのもののようだが、台風19号の影響がここにもあり、ゴンドラ運行や清心亭の拝観が今は取りやめになっている。
階段が尽きて、本格的な山道になる。背の高いモミのほか、ツバキやアラカシなど照葉樹も見られる。ウラジロガシの大木があった。
照葉樹(常緑広葉樹)は、暖かい地域ならどこでもありそうに思うが、東京付近の山では意外とあまり見られない。高尾山や戸倉三山あたりでよく目にする。茨城・栃木県境の雨巻山も多かった。ここ足利市は暖帯の植物のほぼ北限に位置しており、照葉樹が多くみられる山地もこのあたりが北限なのかもしれない。
稜線に出て、落ち葉深く積もる道となる。ここが今日の最北地点となる。空は青空ではなく、やはり今日の関東地方は晴れのエリアが予報よりずっと小さかった。
眺めの良い岩場に立ち寄ると、寝釈迦があった。ずっと前から写真で見ていたが、ようやく実物を見ることができた。
お釈迦様も、いつも立ち姿で人々に功徳を与え続けるのも疲れるから、たまには寝っ転んで休息も取りたいだろう。人生たまには休みなさい、という教えのようである。後ろにいる別のお釈迦様も、冷めた目で「怠けてないで働け!」と言っているようで面白い。
稜線をしばらく歩いて、今日の最高点、行道山に着く。やや灌木が伸びているが四囲の眺めは十分。浅間山から榛名、赤城、袈裟丸山、皇海山、さらに奥日光の白根山は白く、男体山、女峰山と続いている。
南関東や越後側から見るのと、部分的に順番が違っているのが面白い。それにしてもこのいかんともしがたい天気がうらめしい。
縦走路を南下していく。緩やかな下りが続き、剣ヶ峰(大岩山)を越える。昨日おとといと季節外れの暖かい日が続いたせいか、ヤマツツジが狂い咲きしている。枝に半端なくたくさん花をつけているのもあって、どうしちゃったのと思うくらいだ。
いったん車道に出た。広い駐車場がある。車道は大きくカーブしており、そのまま突っ切ればまた山道になりそうなのだが、ここは車道をたどって大岩毘沙門天に寄ることにした。
その大岩毘沙門天もまた、立派で大きな社が構えられており、本日2つ目の名古刹となった。境内脇に立つ「毘沙門天のスギ」も高さ29m、幹回り7mとすごい。樹齢600年という割にはまだ若々しく枝を四方に広く伸ばしている。
登山道に戻る。コナラやカシワの紅葉が残る明るい道となった。
274m三角点から大岩トンネルの真上あたりは展望が開け、低い丘陵地帯に足利の街並みが溶け込んで見える。こうして見ると、町というのは川沿いや丘陵地の低い所を均して作られているのがよくわかる。
登山道は少し岩の出た、硬い路面になってきた。それとともに小さなアップダウンが連続してくる。再び車道を横断して登り返す。
次の目的地である両崖山へはまだ距離がありそう。下って登って、同じだけの高度をまた下る。危ないところはないのだがこれだけ繰り返されるとけっこう足にくる。標高はもう300mを下回り、町の雑踏も耳に入ってくる。尖がった形のいい山が右手に見えてきたが、両崖山ではなさそうだ。
何度目かの登り返しを済ませ、照葉樹林で薄暗い地に出るとそこが両崖山だった。御嶽神社と書かれた社と祠があるが、目につくのはタブノキ自生地の表示だ。山頂をとり囲むように立派なタブノキが何本も立っている。
タブノキ自体高尾山にもあり、そう珍しい木でもないが、これだけ固まって生育しているのは貴重ではないか。
説明板によれば、以前はもっとたくさん自生していたのが、たびたびの伐採により今は6本しか存在しないということだ。だが、あたり見渡す限り、同じような木がもっとあるように見える。タブノキではないかもしれないが。
両崖山山頂は展望は乏しいが、鳥居をくぐって少し下に出ると岩棚のテラスの展望台があった。イロハモミジがきれいに紅葉し、空を見上げると何と青空が戻ってきた。
眺めがよくなり紅葉もきれいになってきてちょうどよかったが、まだ雲も多く青空とお日様は控えめだ。
松の生えた岩っぽいヤセ尾根が続いて、少しずつ高度を落としていく。遊園地のようなベンチのある鏡岩からは足利市街地が一望。
足任せに気分良く下り、建物や駐車場のある場所まで下る。再び車道に出て、織姫神社への標識に従ったつもりで園地化された斜面をジグザグに下っていく。
再び駐車場に下りる。下りきってしまった。道を間違えたことに気が付く。今日の古刹巡りの締めくくりとして楽しみにしていた織姫神社だが、尾根通しで行けば問題なく着いたものを、うっかりして西側の長林寺へ下ってしまったのだ。
登り返しても大した標高差ではないのだが、もう住宅地に出てしまったので引き返す気にならない。今日はこのまま足利市駅まで戻ることにした。
車の多いバス通りを歩き、織姫神社の入り口を通り過ぎる。朝バスで通った渡良瀬川を歩いて渡る。日がさんさんと降り注ぐ中、川を挟んで今歩いてきた尾根が一望できた。