都心の桜もそろそろ散り始め、桜吹雪の光景があちこちで見られるようになった。
茨城の山は1年前、筑波山・吾国山に登って以来だ。東京よりほんの少し緯度が上で、サクラもちょうどよさそう。
高峯はヤマザクラが多く、4月中旬には山肌が様々な色のパッチワークになって壮観だそうだ。今日はまだ少し早いかもしれないが、付近にはほかにも桜の名所がある。それらを絡めて、今回はサクラ三昧のハイキングを楽しむことにした。
ヤマザクラの山肌はもう少し先 [拡大 ]
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電車利用で羽黒駅から歩けるコースだが、車なので近くの駐車場からスタートする。月山寺の駐車場を使わせてもらった。本来は参拝客用の駐車場っぽいが、空いてそうだったので。
ここを起点に、桜川市の桜の名所に立ち寄りつつ、高峯に登頂後は周回コースで戻ってこれる。車道歩きが多いが、見どころがたくさんあって、今の季節にはうってつけだ。
桜川市観光協会サイトのハイキングマップに「月山寺・高峯展望台コース」というのがあったので、参考にした。
月山寺から、広々とした国道を歩く。背後には大きな三角の山。この時は筑波山と思っていたが、加波山だ。ここから見えているピークは加波山の手前の燕山と思われる。空が広く、開放的な眺めである。
すぐ横道に入り、民家の間の細い道を歩いていくと、やがて桜川公園の端に着く。
桜の季節に走る臨時バスの停留所があり、そこから奥はたくさんの桜の大木が植えられている。ソメイヨシノとヤマザクラが交互に並んでいて、両者の違いをじっくり見ることができる。しかし樹皮だけ見てもまったく区別がつかない。
ヤマザクラは開花と同時に葉が出てくるので、それで見分けることができると本には書いてあるのだが、この時はソメイヨシノも開花のピークを少し過ぎていて葉が出始めているので、紛らわしい。ヤマザクラは葉が赤味を帯びていて、花もわずかに小さいのが、今の時期の見分け方だろう。
両者は違いが大きいような印象だが、実はよく似ている。ヤマザクラは元来の桜の固有種で、基本的には芽から育ったもの。一方ソメイヨシノは2種の桜を交配させてできた木を、挿し木や継ぎ木をして増やしたクローンである。でき方はまるで違う。
桜川市はその名の通り桜の名所で、今日歩くコースもいたるところで桜並木があった。どちらかというとソメイヨシノよりもヤマザクラの方が多い。そのため、派手な印象はないが1本1本の花のつきはきれいで、それぞれの木に個性がある。
桜川公園の次は、磯部稲村神社に寄る。ここには糸桜というしだれ桜が有名である。背の高い、しなやかないでたちが印象的だ。説明に来ていた人の話では、これも少し歳をとって枝が細くなってきたという。糸桜の隣にもりっぱなヤマザクラがあってこれも美しい。
稲村神社を後に、歩道や農道を歩いて山に向かう。桜川(川の名前)を渡るころには、正面に高峯のゆったりした山体が視界いっぱいに広がった。ヤマザクラのパッチワークにはやはり、少し早かった模様。
再び民家の建ち並ぶ細道へ。休憩所から先は林道入り口の登り坂となり、この時期は車の乗り入れはここまでとなる。
今まで歩いてきた車道は、標高がほぼ100m以下。520mの高峯まで、けっこうな標高差が残っている。つづら折りの車道をひたすら登っていく。斜面にはスミレも見られるようになってきた。ただタチツボスミレしかない。
やがてあたりが開け、第一展望台に着く。いつの間にか高度を上げていた。麓の住宅地や田園地帯の眺めがいい。やはり桜の木があちこちに植えられているのがよく見える。
正面に見える三角の山の後ろに、2つのピークを並べる山が薄い輪郭で、初めて姿を現した。もちろんこれが筑波山。三角の山は加波山だったことがこの時初めてわかる。
車道歩きはさらに続き、高峯第二展望台の標識まで来た。左右に山道らしきものが伸びているが、どちらも登山道ではありません、と書かれている。わかりにくいが右の斜面を登ってしばらく行くと、木造りの展望台があった。
眺めはさきほどの第一展望台とさほど変わらないが、車道から少し山に入ったところなので、それなりに雰囲気はよい。さっき歩いてきた道路がよく見える。舗装道路でもそれなりの標高差を登ってきた実感がある。
地面には濃紫のスミレが咲いていたが、ニオイタチツボスミレだろうか。
展望台から奥に道が伸びているが、途中で木の枝で×印が書かれていた。ほかにも同じ方向に道があるのだが、これも登山道ではないとの表示がある。
事前の調べでは、ここから尾根伝いに高峯山頂まで行けると思っていた。しかし正規の登山道が見つからない。廃道になったのか?尾根の形状ははっきりしていて穏やかそうなので、歩けないことはないとは思うが、やはりここはちゃんとした登山道で登頂したい。
車道に戻って、栃木県側に少し下ったところの高峯登山口から登ることにした。
木の階段で始まる登山口付近は、北側に面しているため今までと違って薄暗い。反対側には雨巻山への縦走路が伸びているはずだが、ぱっと見にはわからなかった。
ともかく、ここまで2時間近く車道を歩いてようやく登山道となる。のっけから人工林下の急登。しばらくすると灌木から落葉樹林の道になり、傾斜も緩んできた。しかし、少し傾斜が急になるとまた階段になる。
この尾根道は階段が多いことで有名だ。高峯のもっと東、仏頂山に至る登山道は階段地獄だそうだ。今回もそれを嫌って、比較的階段の少なそうな高峯周辺のみを歩く。
周囲が明るくなって、足元にスミレを多く見る。タチツボのほかにはエイザンスミレが多い。また、ナガハシスミレのような距の長いものも見かける。新潟・北陸や東北の山では当たり前に咲いていて、茨城の山でも時々見るが群馬県や秩父では見られない。どういう分布をしているのか興味がある。
傾斜がなくなると早春の日差しをいっぱいに浴びての快適な稜線歩きになる。
樹林を挟んで右側にもう1本、登山道が平行して伸びていた。これはさっきの展望台から発していた、通行禁止の尾根道だろう。それにしては道形がはっきりとしていて下刈りもなされているようだ。進行方向を示す赤い矢印のプレートも立っている。作業道として使われているのだろうか。
少し先に行くと、その道の入り口がロープで閉ざされていたので、一般の人が歩けない道であることは間違いなさそうだ。
ひと登りすると、南面が大きく開けた芝地に出た。山頂かと思ったが、その手前のパラグライダーの発地に使われている場所のようだ。
加波山や筑波山のシルエットの眺めは、展望台から見るのと比べて、当たり前だがもっと素晴らしい。丸太の腰かけもあるので、ここでお昼にしようかと思ったが、この先に高峯山頂も見えているので、そこまで頑張ることにした。
稜線を緩く下って登って、標識の立つ高峯山頂に到着する。樹林に遮られ眺めは芳しくない。ベンチとテーブルがあり、まだ誰もいなかったので独占して使う。
その後も、山頂にやってくる登山者は数えるほど。住宅地に近く、登りやすい山なのに、隣の雨巻山などに比べれば人気はいま一つのようだ。静けさに満ち、時間がゆっくり流れているような雰囲気のいい山稜である。
山頂から直接下っていく道もあるが、気分のいい稜線歩きをもう少し続ける。木の階段の下りで、きれいなシロバナタチツボスミレが咲いていた。清楚な白の花びらと、距の紫のコントラスト、春の色である。
カエデやクロモジの中低木も芽吹き始めている。やはり南関東の山に比べれば少し遅めの気がする。
奈良駄峠の手前、池亀分岐で稜線と別れる。ここから南下する登山道は関東ふれあいの道となっている。
雰囲気が変わってアカマツの茂る、乾燥気味の尾根道となった。急なところはないがいささか単調で、長く感じる。
途中わかりにくい所もあったが、30分くらいで車道の出合う登山口に下り立った。ここからは車のある月山寺まで車道歩きとなる。
農家の畑の脇には菜の花が咲き残り、桜吹雪が舞う中を歩く。振り返ると高峯の山稜が大きく横たわっている。
桜川沿いまで下りてきても、背後になお高峯が大きい。この土地の人は毎日、高峯を見ながら生活しているのだ。あたりが開けているので、よほどの悪天でなければおそらく見ない日はないに違いない。毎日高峯の山肌を眺め、今の季節であれば日ごとに色が変わっていくのが実感覚としてあるのだろう。
自分などは多くて週1回、それも違う山を見るだけなので、毎日山を見ている人の生活がどういうものか、想像するだけでしかない。
予定のコースを少し外して、朝歩いた国道に戻ってしまった。月山寺に到着する。境内の桜を少し見学してから帰途につく。