オオイワカガミ咲くブナ林
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昨年4月、雪割草を見に新潟の里山巡りをした。そのとき北陸自動車道から、まるで日本海の上に浮かんでいるような端正な山が遠くに望めた。柏崎市の西方にある米山で、今回これに登ることにした。
日本海から3キロしか離れていない独立峰であり、かなり遠くからもそれと認めることの出来る、北陸を代表する山である。「米山さんに雲が出た~」と民謡で歌われているように、地元の人にとっても大きな存在の霊峰であり古くから信仰の山としてあがめられてきた。
1000mに満たない山だが、ハイキング対象としてはかなり足を使わせてくれる、なかなか登り応えのある山らしい。一等三角点基点のある頂上からの展望も素晴らしいとのことだ。
前泊の六日町からはかなり距離がある。さらに今日は暑くなるとの予想であったので、早い時間に登り始めたい。
ほくほく線(北越急行)の一番列車に乗る。犀潟(さいがた)で信越本線に乗り替えて柿崎駅に着く。六日町から一時間と少しであった。
柿崎駅から、予約していたタクシーで水野登山口へ上がる予定にしていたが、運転手が言うには水野林道の残雪の状態がわからないので他の登山口にして欲しいとのこと。水野登山口は標高600m近いので、ここまで車で来れれば楽な行程になると思っていたがそうは問屋が下ろさないようだ。手前の下牧登山口でタクシーを降りる。
なお、山開きの行われる1週間後には水野林道も整備され、通れるようになるとのことだ。
雪の多い地域では、アプローチに林道を使う場合は山開きの前か後かで状況が異なってくるので注意が必要である。
標高250mほどの下牧登山口から登り始める。地形図で寺のマークのある場所で、左に廃校になったような小学校の校舎と、柿崎下牧多目的センターの建物がある。多目的センターの玄関口には水道もあるので水を補給する。
登山口を示す標柱が立っているものの、今ひとつ進む方向がわからない。寺に上がる階段を登るがその先に登山道はないようだ。寺の左手から上がる林道を登っていくことにする。
しばらくは緩い傾斜の道。道脇に石仏が立っている。しんとして人どころか動物の気配さえも感じない。
いつしか雑木の山道となり、きつい登りに変わってくる。道は中央が掘り窪められ、歩きにくい。これは雨が降ったあとなどはやっかいであろう。
鬱蒼とした深緑の樹林帯の急登が、水野コース(水野林道上からのコースとは別)との合流点まで続く。ムシムシして、すでに汗びっしょりとなる。
合流点では北西方面が開け、頚城平野の海岸線が見下ろせる。しかし今日は薄いもやが立ちこめ展望はよくない。
道の状態は相変わらずだが、急な登りは一区切りついた。何十塔もの石仏が立ち並ぶ場所を過ぎると、いよいよブナ林の中の登りとなる。
米山はブナの山としても有名だ。白く、スラッとした美形のブナが林立している。しかも時期は新緑。心洗われるブナの緑である。雪国らしく根元が雪の重みで曲がった木も見られる。
そしてブナの林床にはオオイワカガミの群落が続く。秋田の神室山でも印象に残っていた花だが、花と比べて丸い葉が大きく、奥多摩などで見るヒメイワカガミとはまた違ったいでたちである。
ここまで見た花は他にナガハシスミレなどのスミレ類、ムラサキヤシオ程度である。思ったほど花の種類が少ない印象だが、ブナの新緑とオオイワカガミ群落の道、これだけで十分な気がする。
やがて標柱が現れ、水野林道からのコースと合流する。登山地図ではここを三俣と名付けている。
ヤセ尾根を登る
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ナガハシスミレ
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米山山頂の薬師堂
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海岸線がもやに霞む
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すぐ先に残雪があり、これを越えると女しらばという地点に出る。ここには簡単な小屋が建っている。左上にいよいよ米山の山頂部が大きく見上げられるようになる。
少し下って樹林帯を抜けると、鎖の付けられた岩交じりのヤセ尾根に変わる。右手が大きく開け、何だか高山に登っているような気分になってくる。
米山直下は、ところどころ残る雪を踏みながらの急登となる。そして360度開けた米山頂上に登りつく。
大きな避難小屋と薬師堂がある山頂からは素晴らしい展望、と言いたいところだがもやがかかって今ひとつ、いや今ふたつくらいの眺め。日本海に落ち込む米山の尾根筋や海岸線は見下ろせるものの、内陸部の山々は輪郭しか見えない。残雪の飯豊連峰など見たかったが残念だ。
また、大平コースに沿う林道にはところどころ雪が残っているのが見える。8合目登山口まで車で来れるのはもう少し先になりそうである。
日帰りで往復できる山だが行程はきついので、山頂泊もよさそうだ。避難小屋はきれいなログハウスで、ここに泊まって日本海の漁火を眺めながら一夜を明かすのもいいだろう。
下山は大平コースにする。日本海に面する米山駅まで一気に下れるコースだ。残雪が少し心配だったが、登ってくる人に聞いたら登山道にはもう雪はないとのことだった。
ショウジョウバカマがまだ咲いている道をジグザグに下っていくと、8合目コースとの分岐点、そしてブナ林の急坂となる。
ショウジョウバカマ
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オオイワカガミ
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北陸自動車道が見える
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米山駅前から米山
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木の階段が延々と続き、登りは大変そうだ。しかしブナの森は圧巻で慰めになるだろう。こちらの道にもオオイワカガミ、ミツバツツジ、チゴユリなど咲く。雪はないがところどころぬかるんでいて、雪どけして間もない時期であることをうかがわせる。
711mピークを過ぎ、緑も深い色に変わってくる。二の字と呼ばれる五合目の平坦地に出て、振り返ると米山のピークが大きい。ここで左の階段道をどんどん下っていく。
やがて切り開きに出て、家並みの向こうに海岸線が見下ろせるようになる。
林道に出ると車が数台停まっている。車の場合はここから往復するようだ。左に歩いて登山道の続きを見つける。
杉林を少し歩くと大平の集落に下り立つ。標高は低いながらも、山のスケールを感じさせる登路そして下山路だった。
ここからは車道を日本海まで歩く。そういえば、北アルプス朝日岳から栂海新道で日本海に下る道、今年こそはと思いながらもう何年も経っている。今日みたいな日差しが強い日だと標高の低いところはかなりきつそうなことが、今回体感できた。
タニウツギやキリの花を見ながら、単調な車道を緩く下っていく。途中農作業のおじさんと言葉を交わす。今日は28度もあったので山でも暑かったでしょうと言う。駅まで車に乗っていきませんかと進められたが、もう海岸線がそこまで見えているので最後まで歩きたい。丁重にお断りしたが、お言葉に甘えてもよかったかなとも思う。
北陸自動車道をくぐり、海岸線を歩いて無人駅の米山駅に着く。
駅の裏はもう海岸である。993mを一気に下ったことになる。さすがに足にきた。アキレス腱をのばしつつ信越本線の電車を待つ。
車窓から海を見ながら北陸の地を離れていく。上越線ではぐっすり眠ってしまっていた。越後湯沢駅で新幹線に乗換えて東京に帰る。
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