日本百名山登頂を目指している友人から苗場山のお誘いがあったので、いっしょに行くことにした。
7年前に最短コースを往復したが、この山には小松原湿原ルートや赤湯温泉からの登山道など魅力的なコースが多いので、再訪したい気持ちでいた。今回はいったん山頂の小屋を予約して、赤湯に下る一泊プランとしていたのだが、初日(19日)の天気予報が悪く、結局予定を変更して和田小屋に前泊してからの往復とした。7年前と同じになってしまったけれども、この祓川ルートもお花畑が多く楽しめるコースと言える。
この時期に怖いのは雷である。それを避けて、3連休中で比較的空模様が安心な21日に登山することに決めた。
お花畑から急登を詰める。雲の向こうに苗場山の平頂が見えてくる
|
前日に車で出発。この日は和田小屋に入るのみだ。連休でも時間が遅かったので、道路は混んでいなかった。道の駅で温泉に浸かってから、八木沢の車道を上がっていく。午前中は晴れていたのだが、やはりポツポツときた。
マイカーの場合、和田小屋の少し下の駐車場までしか入れないが、宿泊者は小屋のすぐ近くまで車で上がることが出来る。スキーゲレンデの前に建つ和田小屋は前年にリニューアルされたようだ。外壁に掲げられた時計が小学校の校舎のようで懐かしさを感じる。
小屋の前にはニッコウキスゲがよく咲いていた。梅雨はまだ明けていないが、目の前の緑に映え立つこの黄花を見れば、気分はもう夏である。
和田小屋は建物内部が大きな吹き抜け構造になっており、1階が食堂、2階が宿泊棟となっている。子どものころに行った林間学校は、こんな建物だったような思い出がある。宿泊者は4組のみで、ゆったりと過ごせた。
夕方になって激しい雨となる。関東地方もこの時は大雷雨になったようだ。予報では明日は止むようだが、これほど大雨になるとさすがに心配になる。
------------------
夜は星も見えていたが、日が昇るにつれ、薄い雲が無垢の空を覆い始める。ただ、当面は雨の心配はなさそうだ。小屋の人も「晴れましたねー」と驚きをもって口にする。朝食を少し早めてもらい、6時前に和田小屋を出発する。
山の方角は意外と青空が多い。ゲレンデ脇からすぐに樹林帯に入る。ブナ林からシラビソなどの針葉樹も混ざる森林へ。もともとギャップの多い登山道は昨日からの雨で沢のようになっていた。随所に出来た水たまりをよけながら登高する。
登山道脇にショウキランが群生していた。他にイワカガミやツマトリソウ、ゴゼンタチバナ等が咲く。
右手にスキーリフトを見ながら下ノ芝に到達する。ワタスゲやイワイチョウ、ニッコウキスゲも少しだけ咲いていた。
沢状の登山道はこのあたりで影をひそめたが、この湿気。木道から湯気が立っている。夏山の爽やかさは全くなく、ジメッとした暑苦しい空気が充満している。雨は降っていなくても湿度は100パーセントであろう。おかげで汗が止まらない。
リフト終点の建物を見てさらに登ると、中ノ芝に着く。眺めは一気に開け、初めて開放感に満たされる場所だ。頭上はまだ青空が大きいが、周囲の山を見てみると至るところで積乱雲がモクモクと湧き立ち、稜線は隠されがちである。ようやく巻機山方面が覗くくらいだ。
木の階段を進む。周囲は開け、モミジカラマツ、ウラジロヨウラクやアカモノなど見る花の種類も増えてきた。進む方向に見える青空は澄み渡っているが、相変わらず周囲の山の眺めはない。湿気の多い夏の山でこういう景観はよくあることだ。
上ノ芝から少し行くと小松原湿原への分岐を見る。この道もいつか歩いてみたいのだが何しろ長い。苗場山とつなげず、湿原のみを目的とするのも楽しめそうだ。紅葉の時期に来てみたい。
神楽ノ峰まで来ると針葉樹林も少なくなって、高山の雰囲気が強くなる。ここからいったん下ることになる。神楽ノ峰を越えたところで眼下の稜線が一望できる。
大きく見えるはずの苗場山は左半分を雲に隠されていたが、子どもの集団が隊列をなして下ってきているのが見える。昨日の山頂ヒュッテが満員で宿泊予約できなかったのは、大人数のグループが入っていたからかもしれない。
水場で水を補給し、最低鞍部まで下る。ここからは「お花畑」となる。ニッコウキスゲが群生しており、クルマユリ、ウスユキソウ、ハクサンチドリ、ヤマハハコ、シモツケソウ、ミヤマコゴメグサ、ハクサンシャジンと、夏山を象徴する花が次から次へと現れる。久しぶりに見るタカネナデシコは、雨のせいでしわしわになってしまってちょっと気の毒な姿だ。
しばらくは緩やかな登りの道で、谷底には雪渓も見える爽快な稜線だが、全体的にもやっている。カラッとした眺めが得られるのは梅雨明けしてからだろう。
樹林帯へ入り、苗場山本体への急登となる。前回もここは苦しい登りだったので、焦らないように行く。ギャップを乗り越え、ガレに注意しながら登高していくと樹林も背が低くなり眺めが利いてくる。霧ノ塔と思われるピークがよく見える。同行者は最後はバテてきたようだ。
傾斜がなくなって、苗場山の頂上部に到達する。とは言ってもこの広大な平原のまだ端っこに立っただけで、山小屋と三角点のある山頂へはさらに10分近く歩くことになる。
三角点のある山頂部を過ぎると小屋の前に出る。「自然体験交流センター」という名称で、名前は味気ないがれっきとした山小屋である。予約制で、満員の場合はキャンセル待ちとなる。長野県側の栄村が管理しているものだ。
苗場山は越後の山の印象が強いが、長野県との県境にある。植生を見ても広葉樹が多くを占める新潟県の山とは趣きを異にし、オオシラビソなどの針葉樹林を多く見る。長野県側に下る道も何本かあり、山頂も広大だが、裾野もかなり広い山と言うことができる。
また、苗場山から佐武流山に接続する尾根道はヤブが多く難路と言われるが、興味を惹かれる存在である。苗場山は登山対象としていくつもの切り口をもった山である。
そういえば、この山頂にはもうひとつ山小屋があったのだが、数年前に経営会社の方針で閉鎖された。小屋は取り壊され、すでに更地になっていた。
山頂にはワタスゲが随所で群落を作り、ショウジョウバカマなどもまだ咲いていた。前回(7月上旬)に見られたチングルマはさすがに終わっている。
登山者は多いが、山頂が果てしなく広いので騒がしい感じがしない。中央のベンチのある場所で休憩の後、下山とする。
下りは来た道を辿るのみだが、神楽ノ峰への登り返しがあって、なかなか足を使わせてくれる。上ノ芝から中ノ芝への下りで、ようやく周囲の山々が見え始めるようになって来た。
発達した入道雲は、どうやら今日いっぱいは雨になって落ちてくることはなさそうだ。行きで沢状になっていた下部の登山道も、幾分かは水が引いていた。しかしむせ返るような湿気は終日、変わらなかった。
樹林を抜けてゲレンデに下りれば、和田小屋が目の前だ。この不安定な空模様でも雨に降られることなく登降でき、御の字である。
今日は靴やスパッツが泥だらけになった。越後の山を歩くとだいたいは靴が真っ黒になるが、今日は特にひどい。けれどこの靴の汚れ具合は、山歩きが充実していた証しである。ほかの登山者といっしょに、小屋前の水道設備で靴を洗う。
帰りは越後湯沢駅近くの共同浴場に立ち寄り汗を流した後、コシヒカリでできたツルツルのつけ麺でしめくくった。
海の日の高速道路は、事故渋滞を含め総延長50kmの大渋滞。覚悟はしていたが、ノロノロ運転がしまいにはピタッと停まって、10分以上動かなくなってしまったのには参った。群馬県内でいったん一般道に下り、渋滞の先頭のあるインターで入り直す。こういうとき車内に一人だとつらいが、今日は同行者と山の話や世間話をしながらの運転なので気が紛れる。
最後は友人を家まで送っていったので(運転手は友人)、帰宅は夜11時近くになった。