群馬県・谷川国境稜線の三国峠からさらに西に進んだ稜線上に稲包(いなづつみ)山がある。標高は1500m台だが展望の良い尾根歩きができるという。
過去に多くの著名人が峠越えしたと言われる三国峠は、三国山や平標山への登山道が伸びているが、今回はその反対側の尾根道をたどることになる。
キワノ平ノ頭を前に展望の稜線歩きが続く。稲包山は左奥のピーク
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車で三国トンネルをくぐり、出たところが三国峠登山口となる。周囲の木々は紅葉が進んでいる。今日は今シーズンて初めての、寒くて震えるほどの出だしとなった。上着を一枚、それと手袋をして出発する。
昔から歩き継がれた峠道らしく、傾斜は穏やかで道幅も広い。水場を過ぎると周りの木々もずいぶんと色づいたものが出てくる。しかし日がまだ差し込まないため薄暗い。写真は帰りにしよう。いや、場合によっては今日は別の登山口に下りることも考えているので、ここを通るのは行きだけか。
上の方に鉄塔が見える。峠が近そうにも思えるが、まだ少し距離がある。それでも登山口から35分ほどで視界が一気に開け、三国峠に到着する。
目の前には鳥居と社の建物、それを前景に三国山が高く、大きく丸い。その上の青空を何筋もの秋雲が流れていた。
今日は三国山に背を向け、「稲包山、三国スキー場」の指導標が示す登山道に入る。すぐに鉄塔の真下に出る。先ほど見えていた鉄塔だろうか。さらに尾根通しに登っていく。地面が柔らかいのが好ましい。
登るほどに背後の視界がどんどん開け、上部は紅葉が終わり気味の三国山、さらに左右の越後湯沢や上州側の山並みも広がる。
急登を経て最初の小ピークに立つ。長倉山かと思ったがその手前だったようだ。すでに展望360度であり、これから向かう稜線が一望だ。歩き始めて1時間も経っていないのにこれだけ広い眺めを得られるのは、ここ上越国境の山ならではだろう。三国峠の西にこんな登山コースがあったなんて、このあたりはもう何度か来ているが盲点だった。
稜線の紅葉はすでに散り気味で、見下ろす山肌は十分に色づいている。長倉山からはかなり急な下りで再び鉄塔の基部に下り立つ。このコースで唯一興ざめするのは、鉄塔と送電線があまりにも多いことか。北に並行している尾根筋のきれいな錦色は、ずっと白い送電線越しに眺めることになる。
1447m峰を越え、方向がやや左に向く。進行方向に見える端正な三角形が稲包山だろうか(後で西稲包山とわかる)。
次のピークはキワノ平ノ頭。狭い山頂には先客がいたため、少し先の眺めの良いところで休む。高度が上がり平標山や仙ノ倉山まで見えるようになっていた。
山はどんどん深くなるが、ふと下を見ると朝出た三国峠駐車場が見え、直線距離ではさほど離れていないようだ。
たっぷりの日差しがいつの間にか雲に隠されるようになって、肌寒さを感じる。一度脱いだ手袋をまた使う。尾根道は笹原となり、相変わらず展望よく快適だ。万太郎から谷川岳までの主脈稜線、上州側は深い谷を隔てて三峰山、吾妻揶山などの低山もよく見える。
北には苗場山がよく見え、その左に大きな山塊を作っているのは佐武流山か。今年課題の山だったがおそらく来年に持ち越しとなりそうだ。
気分はいいが、何しろ細かなアップダウンが多い。三国峠から稲包山まで標高差は300m程度でも、体力的には健脚向きの山となる。ソロやグループを含め、行き交う登山者は結構多い。
正面の2つの峰目指して歩いていくと、鉄塔巡視路が分岐している。鉄塔と送電線の道はまだ続く。巡視路はこの先にもあって、稲包山へ分岐する標識が、草むらで気づきにくい場所に隠れていた。
急登しばしで再び眺めのいいところに出る。稲包山は端正な三角形の方ではなく、左側の米粒を突き立てたような山ということがわかった。
新道分岐に出る。小稲包山、西稲包山を越え三国スキー場跡までのルートを新道と呼ぶようだ。三角錐の山は西稲包山だった。稲包山山頂はもう目と鼻の先。ツツジの紅葉を見ながら最後のひと登りで稲包山山頂に到達する。
ここも素晴らしい360度の展望。と感嘆する前に、山頂の混雑にびっくりした。すでに10名以上いて、後からどんどん登ってくる。ここがこんなに人気の山とは知らなかった。三国スキー場跡からの登山者が多いのだろう。今まで見えていた谷川主脈、苗場、佐武流のほかに浅間山が眺望の一角に加わる。遠くには尾瀬や奥日光の山も。
この山には法師温泉からの登路もある。そのコースがある南面は紅葉したブナの森になっていた。初夏は低いところでヒルが出るらしいが、自然と眺望に恵まれたバラエティに富んだ登山をこの山は提供している。もっと人気が出てもいい山である。
車で来ているので下山は来た道を戻るのが普通だが、西稲包山を往復しておきたい。さらにそのまま三国スキー場跡へのルートを歩いて下山したいがその場合、駐車場まで長い車道歩きとなる。
新道分岐に入ったところで、そちらから登って来た登山者に聞いてみる。すると、三国スキー場からの国道は長いけど今は紅葉がきれいだと言う。その一言で、スキー場跡へ下ることに決める。
小稲包山へは気持ちの良い笹の稜線歩きで、その先の西稲包山はロープのかかった岩場が少しあった。
登山道はさらに稜線を西に行く。次の目立たないピークから北に伸びる尾根筋は紅葉がきれいなのを登路で見ていたので、そちらへの踏み跡でもないかと思ったが、歩かれた例はないようだ。
さらに西に登山道は続く。やや登りになって三坂峠はおよそ峠らしくない、単なる通過点だった。その少し先で尾根を離れて新潟県側に下っていく。なお尾根をそのまま行くのは白砂山に至る国境稜線で、猛烈な藪道を行く篤志家向きのルートとなっている。苗場山から白砂山への縦走路は時々歩かれているようだが、こちら稲包山からとなるとネットでもほとんど報告がない。
下り始めるとブナの樹林帯に入り、やや枯れ気味ながら明るい黄葉の中、高度を落としていく。沢を隔てて対岸のカラマツ林はまだ緑色が大半だ。その沢に下り立ったところは「丸木橋」と標識に書かれているが橋はない。水量は少なく飛び石伝いに渡る。
その後はぬかるみの多い沢沿いの道を緩やかに下っていく。周囲は紅葉が見事で、今日一番の色づきはこのあたりだった。ピストンでなくこちらに下って正解だった。高温多湿の続いていた今年の秋も、ここへ来て急に朝晩は冷え込んできたようで、今から紅葉するところは色づきが期待できそうだ。
三国スキー場跡に到着。スキー場跡といっても特に何もなく、駐車スペースがあるくらいだ。ちょうちん岩という奇怪な岩塔が立っている山肌は紅葉がピークである。
ここから三国街道である国道17号線までは1時間ほどの舗装された車道を歩くことになるが、この道も国道(353号)である。この国道はここ駐車スペースでいったん行き止まりになっており、今越えてきた国境稜線を隔てて南の四万温泉から再び続いている。
このように山が国道を断絶している例は他にもあり、長岡市の鋸山の尾根は国道352号を途切れさせている。一方、山とぶつかっても断絶せずに、登山道を国道扱いとしているものもある。谷川連峰清水峠の国道291号、秩父往還で知られる国道140号など。140号は現在では雁坂トンネルが開通し、そちらが国道となっている。
山と国道の関係をたどると、近代日本の道路建設の歴史が紐解けて興味深い。
国道353号も、上の方はきれいに色づいた紅葉を見られた。紅葉ラインはだいたい標高1200mくらいまで下りてきている。
苗場スキー場まで下りてくる。学生時代に何度か来ているのだが、ゲレンデを見上げても記憶がない。周辺の街路樹もイチョウが見事に色づいていた。やはり東京のイチョウとは色づく時期が全然違う。
国道17号に歩を移すと今度は登りになる。さすがに1時間半を越える舗装道歩きは足に来た。「三国トンネルまで900m」の道路標識を見て気が遠くなる。900mは実際歩くと長いのだ。
最後はヘロヘロ状態で車のある三国峠登山口に戻る。今日は朝も早かったし、帰りはのんびりゆっくり帰ろう。
猿ヶ京温泉の日帰り施設で汗を流し帰途につく。