寒い冬が終わり、花粉もややピークを過ぎつつある中、上野原市の小さな山をつなぎ歩いた。
5年前の秋にこのあたりの里山を縦走しており、今回はその時のコースを部分的に歩く。さらに、前回登らなかった虎丸山にも立ち寄ってみる。
虎丸山は能岳の主稜線に沿うように伸びる低い尾根上のピークである。狭いエリアに高低2本の尾根が並行していて、低山にしては少し珍しい地形と思う。
シュンラン(八重山) [拡大 ]
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コースは5年前と逆で、まず高校の裏山である根本山に登る。それから八重山・能岳、虎丸山とつなげていく。
電車の駅からアプローチできる距離だが、いまだにマイカーでの山行スタイルから脱することができない。少し登ったところに八重山駐車場があって、ここを起点に周回することもできる。しかし下から地道に歩きたいため、国道沿いの上野原市立病院にある有料駐車場からスタートすることにした。
国道から1本内側に入った道を歩き出す。貯水池のほとりに出る。水鳥がたくさん泳いでいた。都心ではそろそろ散り始めた桜がここは今がまさに満開。青空をバックに朝日が当たって神々しいくらいだ。
T字路を2つ左折し、幼稚園の脇の道を登っていく。舗装道路から石畳の道に変わって、土の道になったと思ったらすぐに、あずまやの建つ根本山に着いた。
山というよりもここはちょっとした高まりといったほうがいい。青春ドラマの舞台である日大明誠高校のすぐ背後にあり、校庭から勢いをつけて傾斜地を駆け上がれば、1,2分で登れてしまいそうな山である。近所の子供たちにとっては、格好の遊び場、秘密基地となっているだろう。
眺めもそこそこよく、三ツ峠など御坂や中央線沿線の山の奥に、富士山も頭を覗かせている。
西に伸びる登山道を進む。高校の校舎がすぐ近くに見えるくらいの高さだが、小さなアップダウンがある。足元にはスミレが咲き始め、目線の位置には中低木の芽吹きが見られる。
反対側の右手にもすぐ下に車道が見えている。こちらは相模原市にあたり、今いる場所は山梨と神奈川の県境に近い。
水道施設を過ぎて緩やかに登っていくと秋葉山の山頂に出る。ここからの眺めは、根本山に比べれば麓が少し遠く見え、普通の山からの眺めに近くなっていた。
墓地を経ていったん車道に下りる。緩く登っていくと八重山入り口の表示。そのすぐ先が登山者用駐車場になっていた。
登山口からしばらくは平坦な林道を行く。明るい場所にはスミレが群れて咲いていた。斜面には植物の解説文をしるしたプレートがいくつもささっている。上野原市はこの周辺の低山ハイキングのガイドマップを作っており、観光資源の一環として山や自然の紹介に力を入れている。
少し行くと、カタクリの自生地を示す標識があったので入ってみた。まだ朝早いので開花はしていなかったが、ここにもプレートの解説文があった。
説明プレートや、カタクリ自生地への案内板は5年前に歩いた時はなかった気がする。おらが山の紹介にさらに熱心さが増しているようだ。
沢沿いの暗い樹林帯を過ぎて、登りになると、明るい斜面にシュンランが咲いていた。八重山はシュンランの多い山で知られている。色合いは土や草の緑と同化して目立たなく、ともすれば見逃してしまいそうだが、その独特ないでたちで自らを主張している。
南関東の早春の低山でよく見かける山野草だが、ないところにはない。見られる山は限られている。それが不思議なところである。
樹木にも説明プレートがかけられている。しばらくは山に図鑑をもっていき、木の名前を調べたりすることをやっていなかったが、そろそろ思い出しの意味も込めて再開していきたい。
枝に白い花をつけるヒサカキ、白い気孔がX字形のサワラ、枯葉が落ちずに残っているヤマコウバシなど忘れていなかったけれど、特徴のない木になるとまったくだめ。また図鑑を見ながら頭で考える(山ではあまり頭は使いたくないが)ことを習慣づけなければ。
高度を上げ、日当たりがよくなるにしたがって、シュンランの数も増えてきた。八重山展望台に着く。春霞みでボヤっとした眺めだが、富士山を始め、昨日の雪で白くなった三ツ峠や丹沢の山がよく見える。
近くにはこれから登る八重山が意外に高い。虎丸山の稜線もいくつかの突起を従えて伸びている。
展望台周辺にはヤマザクラが多く植えられている。開花はしているがピークは1週間くらい先か。
緩やかに登っていき、八重山の記念碑に来る。八重山は水越八重子さんという方が上野原市に寄贈されたものという説明版がある。山は個人の所有で、ハイキングコースが作られ登山者が歩けるのは、所有者の好意によるものが多いことは、意外と忘れがちなことだ。自治体と所有者の関係がこじれてしまい歩行禁止になった山もある。
周囲はほとんどが芽吹き前で明るい。ヤマザクラの開花が進み、ツツジ、クロモジはようやく芽吹いた。ヤマツツジは赤い花をつけているのもある。秋に紅葉がきれいだった植栽のカエデは葉が見え始めている。
八重山山頂も富士山方向が切り開かれて眺めがある。ベンチに座って大休憩とする。
風がやや冷たい。山が「春爛漫」になるのも来週以降になりそうだ。
気分よい稜線を歩き、虎丸山への下降路を分けて能岳へ。人工林に囲まれて閉鎖的。登山者が何人か休憩していた。
能岳山頂を越えて、反対側の急坂を下る。しばらくして虎丸山・上野原中への分岐を左折する。この道は能岳南面をへつる平坦道だ。ここにもシュンランが顔を出す。
やがて先ほど分岐した虎丸山への下降路と交わる。ここは十字路になっていて、直進は八重山だった。自分の登山地図には記されていないが、巻き道があるようだ。
右折してしばらく下ると、馬頭観音像が祀られていた。観音様の頭に馬の首が乗っている。馬頭観音は各地の山や麓で何度も見ていたが、馬の首を乗っけた観音様だというのに気づかなかった。今これを見て初めて、その名の通りなのだなとわかる。
解説板によると、かつて荷運びや移動の手段に馬はなくてはならないものだった。道中倒れた馬を祀るための、供養塔の意味合いで馬頭観音は各地に建てられたという。
ミツバツツジの鮮やかな紫色が目に飛び込んできた。春の訪れを実感できる色だ。ミツバツツジはこの後も何か所かで見られた。
虎丸山の入り口に入る。今までの穏やかな登山道と一変、小さなコブの上下が続くタフな道となった。さっき八重山展望台で見えた稜線の形そのままである。
着いた虎丸山には、木造の社があった。山頂は樹林に囲まれた狭い場所だが、こういう静かな、シンプルな山頂は意外と好みである。
社は虎丸神社と書かれていて、虎の絵の描かれた絵馬が吊るされている。よく考えたら、今年の干支の山ではないか。元日は賑わったのだろうか。今年は阪神タイガースが調子悪いから、願掛けに来る人もいるのだろう。
虎丸山を辞する。途中で西ノ原への下山路が分岐していた。このまま行けば八重山駐車場に下れるのだが、この先アップダウンが多そうなのと、同じ道を帰るのがいやだったので、これで下りることにした。
西ノ原集落へはものの10分で着いた。大きな屋敷が建ち、蔵もある。国道のすぐ裏手の集落でも、昔ながらの風情はまだ残っている。
歩道を歩き、朝出た上野原病院の駐車場に戻ってきた。今日は八重山・能岳だけでは物足らなそうだったので、根本山からのルートとしたが、これでも意外とあっけない行程だった気がする。