シュンラン(御春山付近)
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シュンランは、南関東・甲信の山々に春の到来を告げる。スミレやカタクリと違って目立たない色の花で、草むらにひっそりと咲いているので気づきにくい。しかし、がく片を精一杯十字形に伸ばすけなげな姿は一度見ると記憶に残る。次に歩くときはその存在を目で追うようになる。
素朴な中に、少々神秘的さを兼ね備えた山野草である。春の野山の名脇役、と言っていい。
今日は中央線沿線の山の中でも文字通り沿線、つまり線路際にそびえ立つ小さな山に登る。中央線沿線の低い山には、このシュンランが多く咲く。
3時間もあれば登り下りできてしまう山なので、せっかくここまで出かけてきたのにという思いから、1日の山としてはかえってプランニングしにくい。そんな理由で登り残していた山がいくつもたまってきた。今回はいっそのこと、そういった山に2つ登ってしまうことにした。
1つ目は上野原町の御春山。おはんなやまと読む。いかにも今の季節らしい名前で登ってみたくなる。寺山というピークと接続して縦走も出来る。
小さい山とはいえ、縦走後もう1つ登る予定でいるので、朝早く出かけた。6時半、四方津(しおつ)駅から歩き出す。登山者はおろか、人通りもまだまばらだ。
大野貯水池までは車道を歩く。扇山へのアプローチで歩く道だ。貯水池に着くと、池の反対側にそれほど高くない盛り上がりがある。これがおそらく御春山であろう。すぐ登れてしまいそうである。貯水池のヘリを通って、まずは展望台のある小高い丘目指して登る。展望台からは、広く横たわる権現山稜が見渡せた。
ここから先、篠竹の中に細々と続く山道が始まる。指導標などはなく、一般登山道の部類ではない。しかし道ははっきりしており、一部篠竹がじゃまな箇所があるのみである。時々植林をからむところがあるものの、大方はコナラ、アカマツなどの雑木林の道だ。
緩く下り登りを繰り返し、あっさりと御春山に到達する。樹林に囲まれた狭い山頂だが明るく、居心地がいい。
| 早朝の四方津駅 |
| 大野貯水池から |
| 御春山 |
| アブラチャン |
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尾根道は西南西の方向に、ほぼ直線状で続く。緩く下り、北側に踏み跡が分岐する鞍部に着く。さらに進み、赤い祠のある南米沢(なめざわ)峠。ここも道が分岐している。ここで初めて、シュンランが咲いているのを見る。
明るいなだらかな尾根を進む。シュンランが多くなるが他の花、例えばスミレなどは全く見ない。次のちょっとしたピークに立つと、この先の寺山へ続く道が左に分かれていた。
急な下りの後穏やかになる。アブラチャンの黄色い花があった。やがて目の前に寺山への急峻な斜面が立ちはだかる。寺山の直下は岩尾根らしいが、まずはこのグズグズの急斜面が難所である。どこか楽な取り付き点がないか周りを探したが、ないので結局真正面の急登を詰める。もちろんロープなどは無い。いっぱいに手を伸ばして立ち木につかまりながら、体を引き上げる。
登り上がると周囲の眺めが開けた岩尾根になる。ここにはダンコウバイが咲いている。さっきのアブラチャンとよく似ているが、黄色い花が枝にくっつくように咲いているのでダンコウバイとわかる。
この岩尾根は急登ではあるが、思ったほど難しいところではない。むしろさっきの急登のほうがこの登山路のポイントと言える。
寺山に到着。東面のみ開け、権現山あたりが望める。ここも自然林の明るい山頂である。なおここは別名「綱之上御前山」とも言われる。山頂部にもシュンランが咲いていた。
日がさんさんと降り注ぐ中、雑木林の道を下る。数人の登山者と行き交う。静かな山だが、歩く人はいるようだ。
何箇所か右・左に踏み跡が分かれているが、はっきりした道を進む。やがて、右側に植林の中に下り道は続くようになる。しかしここは直進し、尾根の肩のような場所に出る。ここからほぼ南方向に伸びる急な尾根を下る。この先の送電鉄塔付近にシュンランが多く咲くとのことである。
しばらく道形はない。コンパスをたよりに下る。
どんどん高度を下げるとようやく傾斜が緩くなり、やがて右手の方に目的の鉄塔の姿が見えてきた。ちょっと左に寄り過ぎたようだ。最後は籔や潅木のツルに行く手を阻まれながらも、何とか送電鉄塔の基部に着く。さらに南に下る尾根に入ると、すぐに何株かのシュンランが見られた。
この尾根をそのまま下っても何とか下山できそうだが、本来の道を使うことにする。西方向に道は伸びている。少しの間崩れやすい道なので注意が必要だ。
すぐに、さきほどの下山路に合流する。距離的には短かったので、さっきは無理に道なき尾根を下らずとも、素直にこの下山路を使って鉄塔に行ってもよかったかもしれない。
日当たりのよい場所に咲くタチツボスミレも、数が増えてきた。同時に、ピンクのイカリソウも見ることができた。
梁川(やながわ)駅のホームが見えてくる。線路脇に出て右折し、西側の路線橋を渡ってから駅に向かったがこれは遠回りだったようで、左折すればすぐに線路をくぐるトンネルがあった。
指導標の全くない山であったが、短いながらも歩きがいがあり、いい山だった。
梁川駅で、今回は東京方面の電車を見送り、反対方向の大月行きに乗る。もうひとつの山を目指す。
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