|
1 2 |
●朝露に濡れる薮沢から山頂を目指す 翌朝、日の出きらないうちに山荘を出発する。 登山道に入り、しばらくは平坦な道を進む。途中、大平山荘の前に出る。北面の遠くの方にうっすらと、山の稜線が見える。北アルプスだろうか。 傾斜がきつくなる。滝の展望台への道は通行禁止になっている。しばらく行くと、樹林を隔ててその滝が見える。落差10mくらいの立派な滝で、付近には紅・黄葉した木々が点在していてきれいだ。しかし木の間越しには全貌を見ることが出来ない。
道は薮沢の流れに沿うようになり、石のゴロゴロした斜面を登って行く。背後には鋸岳の峻険な山容がのしかかってくるようだ。日の出の時間はとっくに過ぎているのだが、谷が深く、いまはまだ日蔭の中を登高するのみ。 見上げると、斜面のてっぺん付近に日が差し始めている。その明るみ目指してひたすらに石の斜面を登って行く。 薮沢小屋からの道を合わせると、ほどなくして沢を離れ、馬の背ヒュッテの前に出る。閉じた扉にかかった看板を見ると、今週の初めまで営業をしていたようだ。 ここからはダケカンバの林の中をゆるやかに登る。木々はすでに葉を落としていて、冬枯れの山のように明るい。雲ひとつない青空だ。東側に甲斐駒の塊が大きい。時折風がピューッと通りすぎる。
丹渓新道との分岐点まで来ると、あたりはハイマツの高山帯に様変わりする。西側の展望も一気に開け、稜線漫歩の道となる。 西側には特に標高の高い山もなく、長野県中部の市街地の向こうに、北アルプスや中央アルプスの稜線が一度に眺められる。なるほど、長野は四方を山に囲まれているのがよくわかる。 進む方向には、仙丈ケ岳の大きなカール、その中央下部に避難小屋が見える。近づいてみると避難小屋とは名ばかりで、二階建ての高さもある、それは立派な小屋である。屋根にはソーラー設備、入口の横には「ビールxxx円、ジュースxxx円・・・」といった張り紙が。これって本当に避難小屋なのだろうか。 小屋のすぐ手前にある水場はポンプで沢から引いているようで、水の出はよい。しかし回りはつららが出来ている。また周囲の水のこぼれているところは地面が凍っていた。寒いのだ。道脇には霜も降りている。 ●山頂から展望の小仙丈尾根へ 薮沢カールを周回する感じで登って行くと、いよいよ頂上だ。
この山の大きさからすると、いやに狭いピークのような気がする。しかし展望は雄大だ。北岳、大きい。富士山、大きい。甲斐駒、大きい、白い。 この時間に登ると北岳は逆光になり、その山裾をはっきり見ることは出来なかったが、かなり色付いているようだ。甲斐駒や、地蔵岳のオベリスクが印象的な鳳凰三山の下部の山肌も、黄葉を中心に彩り豊かである。 八ヶ岳も間近に見える。カメラのズームレンズを使うと槍・穂高も視界にとらえられる。
山頂を後にしても展望の尾根は続く。富士山より高い北岳(?)を常に視界に置きながら、小仙丈ケ岳へ向かう。小仙丈ケ岳の山裾はダケカンバの見事な黄葉で彩られていた。 「こんにちは」「いい天気で最高ですねー」すれ違う人とのあいさつも、一言尾ひれがつく。 甲斐駒が真正面に眺められる小仙丈ケ岳は、仙丈ケ岳以上に人があふれていた。今日は土曜日で、早朝バスで来た人が小仙丈尾根側から登って来る、その当たりの時間なのだろう。
なごり惜しいが下山とする。北沢峠への下山路は、甲斐駒に向かって落ちて行く感じだ。こっち側を登りにとるときつい。いや、こっち側から登っていれば、反対側の下りで同じようなことを思っていたかもしれない。
いくぶんシャクナゲの混ざる道を下りていくと樹林帯に入る。そこからは峠に向かって下るのみ。 どちらにしても、麓(北沢峠)からものの4時間で3000mの高峰に来ることが出来てしまう、考えてみればすごいことのように思える。そういう点では、北沢峠コースはちょっと物足りない気もしてしまうのだが、やはり前泊1日でこの展望が得られる価値は大きいと思う。 仙丈ケ岳の山頂付近は、光線の関係から何時に山頂に立つかで楽しみ方が変わる。夕日の当たる北岳、早川尾根を眺めるのもよさそう。避難小屋に留まり、周囲の山の表情が刻一刻と変わっていくのをじっくり眺めるのも楽しみ方のひとつだと思う。 北沢峠バス停から13:15発、村営バスで広河原に向かう。広河原(大樺沢出合)では甲府行きバスが2時間ないが、芦安村営の乗合ワゴンタクシーに運良く乗れた。車窓から紅葉を楽しみ帰途に着いた。 |