朝、山でご来光を見るのは久しぶり。今日はそこそこに良い天気になりそう。
今回は欲張らず軽身で双六岳・三俣蓮華岳の縦走にとどめる。尾根道を行き、巻き道で戻ってくる周回コースだ。次の日の予報もはっきりしないこともあり、今日ある程度歩いたらそのまま下山も考えている。

三俣蓮華岳付近から、槍ヶ岳を中心とした広い眺め [拡大 ]
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双六小屋前の急坂に取り付く。荷物が軽いのがうれしい。巻き道分岐を過ぎて急登がついえると、早くも昨日は見えなかった槍の穂先が姿を現した。
ハイマツの平原で巻き道を分け、岩がガラガラした斜面を登っていく。双六岳特有の広々とした稜線上となる。山頂はまだ遠い。少しもやがかかっている。4年ぶりに歩く日本の屋根、暑すぎず寒すぎず、快適な歩きである。
双六岳山頂は遮るもののない大展望。いっぺんに見える山が多くなった。双六岳南峰から笠ヶ岳、黒部五郎岳、薬師岳、祖父岳と広大な台地状の雲ノ平。振り返ると槍・穂高、焼岳、乗鞍岳、遠くには御嶽山も。日の出の時は見えていた三俣蓮華岳や鷲羽岳は雲に隠されてしまった。例年(というか5,6年前)に比べ残雪が少ない気がする。
朝のうちは槍・穂高がシルエットになっていて、荒々しい岩肌を見ることはできない。その引き換えに、他の飛騨の山は緑のハイマツと花崗岩、残雪の白のコントラストが見事。これこそ4年ぶりに見たかった北アルプスの山の姿だった。
三俣蓮華岳に向けて、稜線を行く。下ったところは雲の中だったが、たくさんの高山植物で埋め尽くされていた。チングルマ、ハクサンイチゲ、コイワカガミ、リンドウの種類はミヤマリンドウだろうか。そしてここにもコバイケイソウの大群落が。
再び稜線上の平坦歩きになる。いつしか雲が取れ、見通しがきいてきた。残雪豊かなカール地形を見ながら進むとミヤマキンポウゲ、ウサギギク、ヨツバシオガマ。裏銀座縦走路や雲ノ平の奥のほうで見えてきて山岳景観も満点となる。
緩やかなピークを登っていく。これが三俣蓮華岳と思っていたが勘違いで、丸山というピーク。それを登りきると、三俣蓮華岳山頂に人がいるのが見えた。距離は大したことはない。快適な稜線を下り登り、黒部五郎岳から登山道が合流すると、三俣蓮華岳山頂である。
長野、岐阜、富山の三県にまたがるピークの眺めは素晴らしい。やはり鷲羽岳の大きさと、その後ろの水晶岳。周囲の明るい花崗岩の山に囲まれてこの山だけは黒い。水晶岳の名前が一般的だが、黒岳とも呼ばれる。山容をよく表しているという意味では、黒岳という山名も捨てたものではない。
黒岳は山深く、どの登山口からも遠い山である。コロナ禍が落ち着き、気がねなく山小屋に泊まることができるようになれば、雲ノ平とともに、また登ってみたい山だ。テント泊だともうきついかもしれない。
今回の北アルプス山行が一区切りではなく、次はまたあの山へという気持ちにさせてくれてよかった。
巻き道への急坂を下る。ここもハクサンイチゲがよく咲いているが、やはりシナノキンバイが少ないのでやや寂しい。あの大きな黄色の花が群落をなしていると、お花畑がぐっとボリュームを増す。
巻き道に下りたところは三俣峠。ここから双六小屋に戻る。少し物足りない気もするが、最近の体力低下を思うと、あまり冒険できない。以前なら鷲羽岳往復までしただろう。
巻き道も花と展望が盛りだくさん。この巻き道は、稜線のような日当たりのいいところもあれば、灌木帯だったり、枯れ沢を登ったりする場所もあって変化がある。そのため見られる花も高山性のものだけでなく、クルマユリやカラマツソウ、トリカブトなど、少し標高の低い所で見られる花もある。
最後は長い登り返しになり、朝分かれた分岐に着く。双六小屋まで急坂を下る。
小屋に戻ると、天気予報は好転し、今日の雷雨予想はなくなって明日もいい天気のようだ。今日中に下るのも大変なので、予定通りもう一泊することにした。そうと決まればのんびりまったり、山を眺めながらの至福の半日が過ごせる。小屋前の軽食コーナーでおでんとラーメンを注文する。
小屋のスタッフはマスクをしているが、周辺の登山者は基本的に皆ノーマスク。ただ小屋のスタッフと会話するときはマスクをする。これは皆きっちりと守っている。小屋の中での行動もマスクが普通のようだ。
また、宿泊者でない通過者やテント泊の人が小屋の玄関に長い間いると、声をかけられる。テント者が小屋内に入れるのは、テントの申し込みと飲み物、食べ物を買うときに限られるようだ。
コロナ禍での山小屋やテント場での過ごし方も、はじめのうちは戸惑ってしまうことも多い、そのうちこれが自然になっていくのかもしれない。
テントに戻り、周囲を散策する。クロユリがたくさん咲いていた。そのまま双六池の方まで行くと、女性の二人組が、池の奥の斜面を指さしている。その方向には黒い物体がハイマツ帯を横切っていた。熊だった。2メートルはありそうな、大人の熊である。
こんな2500mの高地に熊なんて上がってくるのか。森のくまさんという歌もあるように、熊は普通、樹林帯で木の実を食べて生活していると思っていた。ハイマツとハンノキの灌木しかないところで、生活できるのだろうか。まさかハイマツの実を食べに来たのでもあるまい。そういえば少し前、乗鞍岳の登山口に熊が現れでニュースになったことがあった。
以前、わさび平に向かう林道で子熊を見たことがある。北アルプスは人は多いけど、何せ広い。ここ飛騨の奥山は、熊の格好のすみかなのかもしれない。
それにしても、今回は久しぶりに雷鳥を見たかったのに、熊を見てしまうとは。
二晩続けての星空。よく眠れたので少し早く目が覚めてしまう。
今日は下るのみ。朝露に濡れたフライとテントをしまい、パッキングする。
今回用意してきた食料は完食し、残っているのは行動食のみ。それでも荷物が減った感じはなく、ザックはパンパンだ。これに2日分の食料を合わせ、いったいどうやって詰め込んできたのかが不思議である。でもこれはテント泊したときはいつもそうなのだ。出かける前はうちで、全体のバランスを考えながらしっかりパッキングするけど、現地ではどうしても適当になってしまう。
6時前に出発。今度いつ来れるかわからない。双六平の景観を目に焼き付け、テント場を後にする。
来た道を戻るのみだが、今日は胸のすくような青空だ。槍・穂高の稜線もくっきりとスカイラインを描く。花見平のハクサンイチゲもひときわ輝いていた。
弓折分岐で天空の稜線は終わり、下に見えている鏡平目指し一気に下っていく。日差しギラギラ、朝7時台の標高2500mなのに、もう汗が吹き出してきた。今日も暑くなりそうだ。
木道の先、鏡平で本当に飛騨の稜線に別れを告げる。槍の姿もしばらく見納め、と思ったら実は秩父沢でも槍が見えることに、今回初めて気がついた。上高地からのルートと比べ、小池新道は標高の低い所から長い間、槍や穂高を眺めることができる。
初日の時のようなつらさはなかったが、それでも下りは長かった。心配していた靴ずれもやってしまい、かかとの皮がむけて出血している。
下りなのでそれでも歩けるが、小さな登り返しになるとかかとが靴に当たってつらい。やっぱり新しい靴は、低い山で一度試してから長期山行に備えるべきだった。
下山者も多いが、登ってくる人も切れ目なくやってくる。山に登るのは日常生活の密を避ける目的もあるのだが、今日の北アルプスは少なくともその目的を果たせなさそう。グループの登山者も多く、歩きながら会話している人もいるので(もちろんノーマスク)、ちょっと注意が必要かもしれない。
ギラギラする日差しの中、小池新道登山口に下り立つ。わさび平への距離がとても長く感じる。わさび平小屋できゅうりとラムネを買って一休みする。
新穂高温泉までもうひと踏ん張り。舗装道と砂利道が交互に現れる。力が残っていないので、砂利道で足を取られてしまう。舗装になるたびにホッとする。
この長い林道歩きも、これで最後かと思うと、名残惜しさがいっぱいだ。いや、また来年来ればいいのだが、何となく今生の別れのような気がしてしかたがない。
新穂高温泉、そしてあと数分歩いて駐車場に到着する。おととい出発した時は薄暗かったので、どこに自分の車が停めてあるのかわからず、探してしまった。こんな広い駐車場だったとは。
中崎山荘の濁り湯に浸かり、アルプス街道のドライブを楽しみながら帰る。