会津、奥多摩と紅葉の山を楽しんだ後は、やはり富士山を見たい。東京から東海道本線でぐるっと回り込んで西側から大きな富士を見ようと思い、天子山塊に足を伸ばした。「天子ガ岳」に「長者ガ岳」、何とも高貴な山名である。
立石付近から天子ガ岳
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天子ガ岳頂上
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車窓からは頭のほんの先っぽだけ雪を被った富士山が裾野まで見渡せている。富士駅で身延線に乗車。この電車は初めてだ。富士宮駅からは白糸の滝行きのバスに乗る。本来なら田貫湖から南下するコースを取りたいが、時間の合ったバス便がない。
観光客の多い白糸の滝バス停から、さらに車道を歩く。カレー屋「クロンボ」、立石食料品店の前を過ぎると正面に天子ガ岳の丸っこい山頂部が大きく望めてくる。
のどかな畑地から、細い林道に入り白山神社、川を渡るとそのすぐ先に天子ガ岳登山コースの案内板が立っており、そこから山道に入る。
薄暗い植林の中の道は緩やかだが水の流れがあり、ぬかるみをよけるようにして歩く。
登り着くともう一度林道と出会う。ここが登山口のようだ。登山道はすぐ前の檜林の登りから始まる。「天子ガ岳まで110分、長者ガ岳まで170分」とある。
見通しの利かない中を30分少し、ようやく頭上が開ける。振り返るとさっそく富士山とご対面となるが、9合目あたりまでがすでに雲で隠されてしまっている。あっ、と慌てたところでどうにもなるものではない。さっきまで全体がきれいに見えていたのに、眺めのあまりの変わりように舌打ちする。
登山道は雑木林が散見されるものの、だいたいは檜の植林が常について回る。枝越しに見上げる天子ガ岳の頂上部はまだまだ高い。不思議なことに、さっき麓から見えた姿よりもずっと高く感じる。
道はどんどん傾斜が強まる。振り返っても富士山の眺めは樹林に邪魔され続けている。
いつもだと、斜度がきつくなると引換えに背後の眺めがよくなるものだが、何故かこの登りからの富士の眺めはいつも枝越しである。変な意味でストレスのたまる登路だ。
天子ガ岳展望台からの富士山
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しかしさすがに頂上近くなると富士山も樹林の上に見えてくる。雲の位置はさきほどと変わらない。どうやら天子ガ岳展望台からは雪冠はかろうじて見られそうである。
落合・稲子川渓谷方面への道を分け、ほどなく記念樹のようなツツジの木がある小広場、そのすぐ上が天子ガ岳頂上だった。ハイカーが多数行き交い賑やかな頂である。
展望台は小広場から10mほどのところにあり富士山方面だけが望める。眺めのいい長者ガ岳→天子ガ岳の順で縦走する人が多いせいか、この展望台に立ち寄る人は多くないようだ。
雲に邪魔されててっぺんしか見えないのはまことに残念。しかし物は考えようで、裾野しか見えないのよりはずっとましである。雪冠はきれいに見えており、天子山塊からの富士山眺望のポイントである「大沢崩れ」も十分によくわかる。
天子ガ岳-長者ガ岳間の稜線
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上佐野分岐
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天子ガ岳を後にし長者ガ岳への稜線歩きに入る。自然林の豊かな道だが紅葉はほぼ終わり。大方落葉しているが、そうとは言っても眺めがきくわけでもない。富士山の姿も樹林越しだ。
一度下って登り返し。上佐野方面の分岐あたりからブナも目に付くようになる。斜度を失いそのまま長者ガ岳頂上となる。さほど広くない場所に30名ほど。混雑度は天子ガ岳以上だ。
富士山は相変わらず見えるが、反対側に南アルプスが見えると聞いてそれを期待していた。しかし樹林が高く伸びており無理だった。天子ガ岳・長者ガ岳は富士山こそ切り開きで見えるものの、それ以外の山の眺めは得にくい。
パラグライダーが頂上のすぐ上をかすめるように飛んでいく。その距離50mくらいか。ライダーはこちらの呼びかけに答え手を振っている。ちょっと珍しい光景である。
田貫湖へ下山する。自然林の気持ちいい尾根を下っていくがじきに片側が桧の植林に変わる。この下山路は東海自然歩道の一部になっているようだ。
ベンチのある場所で眼下に田貫湖の湖面を見下ろす。すでに富士山は雲の中だ。さらに下りキャンプ場への道を分け登山口に至る。
長者ガ岳頂上
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田貫湖
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東海自然歩道はさらに北の方向に続いているが、反対側に少し下ると田貫湖畔に出る。思った以上に大きな湖だった。天子山塊の稜線をバックに湖面がキラキラ輝いている。
バス便のある県道まで20分ほどさらに歩く。田貫湖入口バス停に着いたが、付近にはバス停以外何もなかった。次のバスまであと1時間以上ある。湖畔でのんびりしていればよかったが後の祭り。
うろうろと、時間をつぶす場所を探す。林の中を少し歩いた所に小さい休憩舎を見つける。農作業の人の荷物置き場のようだが少しの間間借りする。
目の前は広大な牧草地が広がっている。雲ともやがなければ真正面に富士山がどんと見えるはずだ。富士山麓の広さを改めて実感する。
今日は気温も高く展望は今ひとつだった。暖かい秋の日々はまだ続きそうで、富士見山行に適した気候になるのはもう少し先になるようだ。
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