杓子山へは今回で3度目の登頂になる。最近では2006年に、内野から立ノ塚峠回りで登ろうとしたが、そのときは強風で峠から引き返した。
立ノ塚峠から鹿留山の間だけが未踏になっている。この区間は岩場の急斜面で難路らしい。
ところで「杓子」という名前は、シャクジ・シャクチといった崩落地形を表す言葉からきているらしい。杓子山の西側に伸びる尾根にその由来と思われるもろい地形がある。また、一般登山コースも急でタフなところが多い。
富士山の眺めがよく明るいイメージがあるが、歩くとなるとなかなかきつい部類に入る山である。
高座山下のススキの原から見る富士山
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車で早出をする。河口湖ICから東富士五湖道路に入る頃、ようやく空が白んでくる。気温計は氷点下8度を示していた。
一般道に下り、忍野(おしの)村へ。花の都公園を通過し内野(うちの)の住宅地まで来る。
少し先の忍野中学校付近に車を停められるところがあるらしいが、わかりにくそうだったので、そこまで行かずに近くのコンビニの駐車場に車を置いてしまった。こういうのはいいのだろうか。
内野バス停の見える十字路まで戻って、左折する。杓子山などを示す指導標は見当たらないが、鹿留山が正面に大きく見えてくるので、方向はわかる。
このあたりは指導標の代わりに、養鶏場を示す案内板にしたがって進めばいい。なお、案内板には養鶏場を「たまご牧場」と案内している。
住宅街を抜けると広い台地を緩やかに登るようになる。振り返ればもう、目の前に大きな富士山。内野から歩くときの楽しみのひとつだ。
朝日で雪の部分がほんのり赤くなり始めている。足を止めて、ズームレンズを取り出し撮影する。
すぐに養鶏場の横を過ぎる。しんとした山里の朝の中、鶏のやかましいくらいの鳴き声が異様に響く。
ロッジ風の家を見たあとしばらく行くと、未舗装の林道になる。立ノ塚峠へはこの林道をずっと行けばいいのだが、やがてY字状の分岐となり、どちらに行くべきかわからない。
右か左か、運命の分かれ道。ここは「治山林道→」と標識が示す左方向に進んでみる。以前、自分が歩いたときの記録を見たら、そのときはすんなりと左折したみたいだ。今日はちょっと迷ってしまった。
とにかく内野からの道は、指導標が意外なほど少ない。それでも次の大きな分岐には杓子山への指導標が立っていて、右に行く。
やがて植林から青空まぶしい雑木の登りとなる。足元はザクザクの霜柱。背後に眺めが広がるとほどなく、立ノ塚峠(たちんづかとうげ)に登りつく。
今日は風もなく、穏やかで暖かな峠だった。そのまま杓子山方向を目指す。
しばらくは雑木林の緩やかな傾斜で、のんびり行ける。富士山の展望のよい尾根と言われるが、この付近は樹林が目隠しになり、見える場所は意外と少ない。
小さなピークをいくつか越えていくうちに岩尾根状となり、にわかに傾斜が増す。
日当たりがいいので凍結はない。さらに霜も付いていないので、しっかり足を地に付けて登れた。しかしここが凍結でもすればかなりきつく、下るのは出来れば避けたい。以前、反対側の倉見山から登ったときは雪が付いて苦労したので、それと同じような感じになるだろう。
今日はとにかく傾斜のきつさに対峙するのみだ。
| 急な岩場 |
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日が照ってはいるが、1500mを超える標高ではさすがに冷えてくる。しかも上部では風が音を立てて舞っている。
やがて分岐となり、右に折れるように鹿留山への道に入る。この道はともすると枝道のように思われるが、山稜全体を見た場合、地形的には今登ってきたほうがむしろ支尾根で、鹿留山から杓子山に突き上げる尾根が山稜を形作っている、と言ったほうが当たっている。
鹿留山まではブナの太い大木が何本もあり、新緑の時期もよさそうである。山頂の中心にミズナラの古木が鎮座している。
分岐点まで戻り、すぐ上が子ノ神。ここからはもうきつい登りのない、楽しい稜線歩きとなる。
アップダウンはいくつもあるが大きいものではない。展望もぐっとよくなって、少し先の岩棚からは富士山だけでなく、丹沢大山の先に、キラキラ光る相模湾も見渡せる。
今日初めて登山者を見る。杓子山頂上に到達。最後まで雪はなかった。
頂上からの一番の眺め、もちろん秀麗富士である。雄大で、端正ないい形をしている。
そして富士山を取り囲むように、広い広いパノラマ展望。山中湖や愛鷹連峰、丹沢、そして忍野の町並みの先にわだかまる御坂の山々。鬼ヶ岳には少し白いものが見えている。河口湖、天子山塊の毛無山もよく見えた。
杓子山は南アルプスの眺めもいいはずなのだが、今日はあいにく雲に隠れて見えない。その上、以前に比べ山頂直下の樹林がかなり伸びていた。晴れていても、さえぎるもののない南アの眺めというのは難しいかもしれない。
また、前来たときは反対側に鹿留山の特徴ある姿もよく見えていたのだが、今は完全に枝越しの眺めになっている。
それでも明るく開放的な山頂であることには変わりない。登山者もどんどん登ってきて賑わいを見せる。皆、山頂に着くと同時に、富士山の眺めに感嘆の声を上げる。
苦労して登ってきた人だけが拝むことのできる、美しく気高い秀麗富士である。
1時間近くの滞頂ののち、下山にかかる。高座山~鳥居地峠経由で内野に戻る。この道は霜の解ける時間はなるべく避けたいのだが、致し方ない。
滑りやすい急坂を下り振り返ると、山頂西側に伸びる尾根がすでに高い。「シャクチ」の呼び名の元となったと思われる崩壊地が、むき出しの白い姿を見せていた。
カラマツ林からいったん落葉樹の緩やかな道に移る。このあたりは霜もなく歩きやすい。5,6名単位のグループといくつもすれ違う。ちょっと雲が多くなってきたが、まだ富士山は見られる。
やがて前方が急に開けると、大ザス峠。パラグライダーの発着地であり、林道が通じているので、ここから登り始める人も多い。20名くらいの集団がゾロゾロと登っていく。
ちょっとしたアップダウンがあり、なおも行くと再び視界が開ける。三角点のある高座山(たかざすやま・1304m)頂上である。
富士山も大きいが、目の下の黄色いカヤトの斜面が印象的な場所だ。忍野の家並みももう手の届きそうなところに見えている。忍野中学と忍野小学校、2つの建物が目立つ。
ここからの登山道はカヤトの中に、二手に分かれて伸びている。どちらを行っても鳥居地峠に下れることはわかっているが、急斜面でなかなか足を前に運べない。
このあたりから霜解けのぬかるみが目立ってきているので、うっかり滑ろうものならえらいことになる。しかしそれを我慢して、無理な姿勢で下ろうとするのも、かえって危険である。
回りをよく見て、少しでも足を置きやすい場所を見つけながら、努めて普通に歩くように下る。それでも足を取られそうになって、思わず木の枝をつかもうとするのだが、カヤトの斜面なのでその木がない。草を握りしめながらなんとか下る。
いったん下りきった場所からは、ススキを前景に富士山が美しい。
樹林帯を経て、尾根を外れると林道に下り立つ。鳥居地峠はそこから10分程度で着いた。車が何台も停まっていた。
日差しがゆるやかに注ぐ車道を少し下りると、さっき見えていた忍野中学校の前に出た。なおも富士山を正面に見据えながら、忍野の里道を歩いて車のある場所に戻った。
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