山の写真集 > 身延線/芦川・富士川流域 > 櫛形山
  • -幽玄な樹林と草原を持つ深山-
  • 池の茶屋-櫛形山-裸山-アヤメ平-管理歩道
  • 身延線/芦川・富士川流域
  • 山梨県
  • 櫛形山(2051m),裸山(2032m)
  • 2012年8月19日(日)
  • 8.5km
  • 4時間
  • 191m(池の茶屋登山口-櫛形山)
  • -
  • 赤石温泉
  • マイカー
天気1

 

地図
2012年8月19日(日)
富ヶ谷ランプ 4:20
  首都高速,中央自動車道
甲府南IC 5:55
  県道108号他
7:15   池の茶屋登山口 7:25
7:35   桜峠
7:57   三角点
8:10 櫛形山 8:15
8:22 バラボタン平 8:27
8:55 裸山 9:20
9:47 アヤメ平 10:00
10:47   管理歩道分岐
12:05 池の茶屋登山口
  県道413,108号
赤石温泉立寄り
14:35 甲府南IC
  中央自動車道
17:10 高井戸IC

 

山梨県中西部に位置する櫛形山(くしがたやま)にようやく登った。
かつては、と言うより数年前まではアヤメ30万本、東洋一の群落地として知られていた山である。しかし、短い期間のうちにアヤメが全くといっていいほどなくなってしまったらしい。鹿など動物の食害によるものとされている。その後、地元の人たちの努力により数少なくなったアヤメが保護され続けているそうだ。
電車バス利用だとそれなりの行程になるが、池の茶屋登山口まで車で上がってしまえば、標高差の少ない楽な登山となる。他にも中尾根、北尾根、南尾根などいろいろなコースがあるが、今回はこの池の茶屋コースを歩いた。


山麓の鰍沢地区から望む櫛形山。ゆったりと横たわる姿が和櫛のよう

池の茶屋登山口

池の茶屋登山口

雲間から北岳(右)、間ノ岳を望む(桜峠からの登りにて)

南アルプスが顔を出す

櫛形山三角点付近は防火帯の切られた穏やかな登山道。マルバダケブキも咲く

稜線を行く

ツガやカラマツの黒木に囲まれた登山道は幽玄さが漂う

幽玄な森
櫛形山山頂

マルバダケブキ(バラボタン平)

いたるところに群落

マルバダケブキ

マルバダケブキ

サルオガセは針葉樹の枝に絡む寄生植物

サルオガセ

甲府南インターから県道を走って、山間に伸びる車道を上がっていく。平林集落を過ぎると鬱蒼とした林の中の林道となり、氷室神社や中尾根登山口への道を分けた後、道路の舗装も途絶え砂利道となる。
工事現場のような広い場所に出ると、車が何台か。眺めが開け、富士山が雲間から顔を出していた。車の主は、富士山撮影のグループのようだ。車で夜を明かしていた模様。富士山はすぐに雲の中に隠れてしまった。この日はそれ以降、富士山の姿を見る機会はなかった。
そこから工事中(日曜は休工)のデコボコの道を10分ほどで、池の茶屋登山口に着いた。

20台ほど停められる駐車場、櫛形山の案内板が掲げられた大きな休憩小屋、その脇にトイレがあった。車は5台ほどで、それほど人は入っていないようだ。8月中ともなれば、花の時期をやや過ぎていることもあり、それほど賑わうということはなさそうだ。
カラマツ林の斜面を登っていく。標高がすでに1800mを越えているので、けっこうひんやりしている。マルバダケブキ、シモツケソウが咲く。10分ほどで尾根に上がったところが桜峠らしい。ここから急登しばしで緩やかな尾根となる。途中で南アルプスの高峰が見えた。北岳、間ノ岳だろうか。

防火帯が切られていて気分のいい道がしばらく続く。マルバダケブキの群落がすごい。雑多に咲いているのではなく、斜面上を整然に、平均的に咲いているので、見映えがする。しかし他の花はほとんど見ない。

サルオガセとマルバダケブキ群落が見ごたえあるバラボタン平

バラボタン平

裸山直下の草原に出る。コウリンカが群落を形成

草原に出る

カワラナデシコ(裸山)

カワラナデシコ

コウリンカ(裸山)

コウリンカ

金網につけられた小さな穴から、お花畑を覗くようになっている

ここから覗いて

天然カラマツの巨木は威圧的な姿

天然カラマツ

南尾根、中尾根に続く稜線から分かれ、管理歩道を歩いて池の茶屋登山口へ

分岐点

管理歩道はあまり歩かれていない。特に危険なところはなかった

管理歩道

斜面のずっと下に鹿が走り去っていくのが見えた。やはり鹿の仕業なのだろうか。鹿はマルバダケブキを食べないので、鹿の多い山はこの花ばかりが残ってしまう。奥多摩と同じ風景がここにもある。
それでも、そのマルバダケブキもここへきて若干減少傾向という。鹿の頭数が多くなり、食料が減った結果、普段食べないこの花を、生きるために食べずにいられなくなったのではないか、という説がある。

奥仙重と言われる、櫛形山三角点に着いた。少し切り開きがあるが曇っていて眺めはない。
そこから10分と少しで山名板と山梨百名山の標柱がある「櫛形山」に着く。ここも眺めはなく、静かな山頂だ。天然のカラマツがあり、普段見るヒョロヒョロとした植林のカラマツからは想像もできないほど、太く堂々としている。
山頂から緩く下ると、次第にコメツガやカラマツの黒木が増えてきて、薄暗い感じになる。櫛形山というと、山梨県中西部の独立峰であることから明るいイメージを抱きやすいが、実際は山深く、幽玄な雰囲気を持った山である。
それをさらに演出するのがサルオガセの群落(群落という言葉が適当かわからないが)で、周囲の樹林という樹林に大規模に絡み合っている。バラボタン平の平坦地に着くと、マルバダケブキの大群落とサルオガセの森に圧倒させられた。

南尾根、中尾根登山道からの道に合流する。展望のない樹林の道だが、歩きやすく足がはかどる。やがて登山道がロープ柵で仕切られるようになったと思うと、左手草原が広がっていた。
草原の中心部が頑丈な金網に囲われている。金網の中はオオバギボウシ、アザミ、ツリガネニンジンなどの密度の濃いお花畑になっていた。一方その外側にはコウリンカやカワラナデシコがポツポツと咲いている程度。北関東や新潟の山と、南関東・甲信の山の情景を、金網の中と外で同時に見た印象だ。
言いかえれば、今ではめっきり花の少なくなった南関東の山も、状況しだいで高山植物が多く咲き誇る場所に復活することを証明しているということだ。奥多摩も、大菩薩も同じだろう。やはり野生動物が多くなっていることが原因と考えざるを得ない。
しかし考えてみると、鹿が花を食べているところを今まで見たことがない。やはり夜にやってくるのか。

正面の斜面を少し登って、裸山の山頂に着いた。今回のコースで最初の展望地だが、あいにく曇りがちの上にガスが上がってきて、南アルプスはおろか近くの稜線さえも限られた部分しか眺められなかった。
小休憩してから出発する。ロープ柵に沿って、さっきとは別の道を下ってみる。コウリンカがかなり咲いていた。コウリンカも鹿が嫌う花と言われる。金網の中の花畑は、網に開けられた穴から覗くことができる。篭ノ登山(上信)のコマクサ群落地を思い出した。

再び鬱蒼とした樹林帯。アヤメ平へはある程度下ることになる。ガスが広がってきて、アヤメ平に着く頃には周囲30mくらいしか見えないくらいになった。
そしてここにも囲われのお花畑が。マツムシソウが金網越しに見られる。ガスはやがて霧雨模様になってきたので、周囲の散策もそこそこに切り上げて戻ることにする。もういちど裸山への道を辿るが、眺望の復活はなかった。

このまま来た道を戻ってもよかったが、管理道路と言う道を通れば一応は周回コースが取れそうなので、中尾根へ向かう登山道を歩いてみることにした。
バラボタン平分岐を過ぎ、さらに櫛形山への道をもう1本分けた後は緩い下りに転ずる。穏やかな歩きやすい道が続き、新緑や紅葉の時期もよさそうだ。やがて池の茶屋への分岐道を見い出し、そちらの方角に進む。
登り返しになるこの管理道路コースは、櫛形山付近の稜線の少し下につけられている。初めのうちはゆるい登りが続くが、途中から平坦な巻き道となる。踏み跡は総じて薄く、草が生い茂っているところが多い。あまり人が歩かないようだ。
マルバダケブキの群落の中を歩く場所もあるが、全体的に単調である。時折り樹林が切れる場所も、今日は雲多く富士山の眺めはない。

そんな道を1時間ほど、暑い日差しを受けながら歩き続けると道は少しずつはっきりし始め、やがて朝出発した池の茶屋登山口の建物の前に到着した。まだ12時を少し過ぎたばかりで、早めの下山となった。
小屋には数人の人が談笑していたが、今日歩いている途中で出会った人はせいぜい4,5人程度。初夏の花の時期を除けば、櫛形山も静かな山になるようである。

帰りは赤石温泉に寄っていく。このあたりではかなり名の知れた、その名の通り赤茶けた色のお湯が特徴だ。日帰り入浴は600円なのだが、何故か内金と称してもう1000円、フロントに預けるという奇妙なシステムである(1000円は帰りに返金してくれる)。露天風呂の洗い場もお湯が出なくて、あまりいい感じがしなかった。
山の上は雲りがちで涼しいくらいだったが、下界は青空で、うんざりするほどの猛暑であった。
櫛形山は山深さを感じる、大きくて静かな山との印象を持った。コースはいろいろあるようなので、季節を変えてまた訪れたいと思った。