箱根の金時山は、もう17年ぶりとなった。この山がブナの山であることを最近知った。またブナの話かと、このサイトの読者も飽き始めてしまったかもしれないが、しばらくはまだ付き合っていただきたい。
箱根という山域はもともとブナが多いところだったが、ここも他の山域と同じく、いつの時代か多くが伐採されてしまったと思われる。現在ブナが多く残されているのは芦ノ湖西側の外輪山の稜線、伐採から取り残された一部の低山、そしてこの金時山である。
今回は金時山と合わせて、その芦ノ湖西側の三国山も登った。そちらのほうは日本ブナ百名山のページに記録を載せている。
足柄峠方面の登山道、猪鼻砦付近から見上げる金時山
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金時神社前の無料駐車スペースが一つ空いていたので、そこに停めて出発する。朝から登山者は多く登ってそうだ。少し歩くと公時神社があり、これをきんときと読むようだ。童話「金太郎」こと坂田金時を奉っている神社である。
金時山はもちろん金太郎発祥の山として、古くから人気のある山だ。ここ公時神社の境内や金時山頂には「まさかり」の張子が置いてある。
宿石という、大きな石の横を通って登りの道となる。スギ林の単調な道だが足元にはスミレが多い。タチツボスミレ、エイザン、ナガバノスミレサイシン、そしてこの山には白いスミレがよく目につく。多くはオトメスミレと思われるが、シロバナタチツボスミレも混ざっている。
両者は距の色で区別することが多く、ピンク色ならオトメ、距まで白ければシロバナということだ。数はピンク色のものがずっと多い。しかし中にはどっちつかずの微妙な色あいだったり、距の先っぽだけピンク色のものもある。両者は亜種?ということなのか。
他に違うところが見当たらないので、あえて別物とすることもないと自分的には思うのだが、遺伝子解析などしてみると、はっきりとした違いが出てくるのかもしれない。
高度を上げていくと広葉樹の多い道に変わり、眺めも開けてきた。カエデやクロモジが若々しい葉を出し始めている。棒状のクリーム色の花を出しているのはシデの仲間だろうか。
仙石原方面を広く見下ろせる展望地をバックに、ひときわ太くどっしりとした巨樹を見る。幹回り70センチくらいの常緑樹なのだが、カシやシイの葉ではなく、1~2センチ程度の小さな葉がついている。イヌツゲの仲間か、よくわからない。
主稜線に交流すると後はもう一本道。山頂部も見えてきた。周囲にブナも増えてきたのだが、あいにく芽吹いているものはない。暖かい日が続いていたので葉を出したブナが見られることを期待してきたが、こちらのルートはまだ芽吹き前だった。ここもクロモジやカエデなど中間層の木々が芽吹くのが先のようである。
この斜面上の落葉高木で目立つのはブナの他にヒメシャラがある。こちらも全く葉が出ていない。ヒメシャラは低木のイメージがあるが、高木層に分類されている。
金時山の山頂に到着。ほぼ360度の展望である。今日はカラッとした快晴の天気で、やはりここからは富士山が素晴らしい。
金時山山頂は富士山の見える方向にやや意外感がある。仙石原からの南面の登山道を登ってきたのだから富士山は背後にあるような感覚を抱いていたのだが、実際は真西に近い方角に富士山は位置している。山頂に着いてようやく見える感じだ。そのすぐ後ろに甲斐駒や、うっすらと八ヶ岳も望めた。
そして南側には仙石原や箱根山外輪山のたおやかな稜線、そして大涌谷や芦ノ湖など、箱根のビューポイントはほとんどカバーできる。
まだ時間が早いせいか2軒の茶屋や、展望盤付近のスペースも空いている。
ゆっくりしていきたい欲求を我慢して、今日は足柄峠方面の道を下ってみることにする。目的はもちろんブナの確認である。車の関係で山頂に登り返すことになる。
小屋の間を通りマメザクラ鮮やかな場所を過ぎると、北面の急斜面を鉄製の階段でひたすら下り続けることになった。しっかりガードされた道だが高度感はある。はるか下に足柄峠や柴谷方面の広い樹林帯が横たわっていた。
このあたりはツツジやカエデ、リョウブ、ミズナラ、ヤマザクラが目立つ。ミツバツツジは花開き始めたものもあった。
標高を1000mちょい上あたりにまで落とすと、ようやく葉の展開を始めたブナが見られるようになる。しかしどれも10m以上の高木で、葉が見えるのはその林冠あたりだけだ。肉眼で間近に見られないのでカメラのズームを最大(270mm)にして何とか見る。開葉のみで、花をつけたものは見当たらなかった。
高度をどんどん落としていくと、カエデやツツジに芽吹いたものが多くなって、ブナも少し低いところの枝に若葉が見られるようになった。コブシが白い花を満開に咲かせていたのにはびっくり。
すぐ下に小屋があって車が横付けされている。ここから先はもう幅広の林道であり、鳥居のあるところで柴谷方面の登山道を分ける。
明るいライトグリーンの森が本当に気持ちがいい。表情の明るい登山者が多く行き交う。
白い花の咲く木が一本あり、男性の登山者が写真を撮っていた。なんの木か聞くと、ヤマナシとかキナシとかいう木だそうだ。いわゆる、本当の梨の花だ。果樹園以外で見たのは初めてだと思う。持参の図鑑には載っておらず、知らないとヤマザクラか何かと思ってしまうくらい、楚々としたきれいな白い花である。ここ金時山では結構有名な木だそうだ。
富士山の見える展望台あたりが猪鼻砦というところだろう。ここで引き返すことにする。芽吹きの森の先には金時山が高く、予定のコースとはいえずいぶんと高度を下げてしまった。
鳥居まで戻り、新柴方面にに少し寄り道する。この辺りもブナが多く、西の谷側には、すでに枯死しているがかなりの巨樹があった。尾根沿いの比較的若い木に、雄花をたくさんぶら下げたものをようやく見ることができた。
一気に増えた登山者とともに、山頂まで登り返す。こういう時は無機質だが安定した登りやすい鉄階段が助かる。
金時山山頂はさっきとは一転、溢れかえる登山者。しかし空はさらに晴れ上がり、富士山も健在だ。少し休憩してから、気温がぐんぐん上がる中、乙女峠方面へ下山を開始する。
最初は急な岩場が続いて登山者の通過待ち時間が多くなったが、程なく緩やかな道になる。こちらも北面登山道同様、ブナが多い。ヒメシャラも目につくが、まだ冬の姿だ。
林冠に雄花をつけた芽吹きのブナを何本か見る。ようやく最大ズームでなくても撮影できるものが見れた。しかしこういう樹木ウォッチングは、双眼鏡や、撮影するなら500mくらいのレンズと三脚が必要である。
平尾山を過ぎると山の様相は一変する。フナや他の老齢な巨木が姿を消し、日当たりの良い草地にスミレを多く見る道となった。ここから下は人の手が入っている山であるのを感じる。
乙女峠で左折し、仙石原方面へ下って行く。新緑がその度を増し、白いスミレがこれでもかと咲き続いている。
オトメスミレはその純真な姿形から名付けられたと思っていたが、峠の名前が由来なのだろうか。そう思わせるくらいここにはたくさん咲いている。
下の方に車道が見え、やがて人工林の中となるがこれがなかなか長かった。その車道に降り立つ。車がビュンビュン走っている。下山者が並ぶバス停を過ぎ、朝の公時神社に戻ってきた。
コースタイムを大幅にオーバーし、もう1時半だ。トレランのイベントによる芦ノ湖スカイラインの通行止め解除も解かれているだろう。車に乗り、三国山の登山口がある湖尻峠を目指す。
三国山の山行記はブナ100のページに記載します。