仏果山へ登った友人と、今度は不老山に登る。この山は初登で、この付近の高松山、大野山にもまだ登っていない。
不老山はサンショウバラの咲く初夏が適期なのだが、初冬の低山もいいのではと思い出かけた。
「不老の活路」に立つ標識 [ 拡大 ]
|
新松田駅から発車するバスは西丹沢行き。車窓からは、桧洞丸の丸っこい山容も青空にくっきりと映えていて、あちらに行ってしまいたい誘惑にも駆られる。山市場で5名ほど下車する。不老山はここでもいいのだが、ひとつ先の向河原まで行く。
まだ日の差さない、川沿いの車道を戻るように出発。山市場バス停のほうからから歩いてきた人は一人だけだった。おそらく他は大野山に登る人たちだったのだろう。
青い橋で川を渡る。不老山登山口の手前でザックを下ろす。昨日の雨で路面がかなり濡れていて、この先もジメッとした登山道が続きそうなので、スパッツをつけていくことにした。
杉の植林を抜け、しばらくは雑木の冬木立の登りとなる。急傾斜でなかなかきつい。常緑広葉樹のきれいな森に入るが、これはアオキか何かだろうか。先週の南房総の山もそうだったが、このところ東京より南に位置する山が続いているので、こういう常緑樹を見ることが多い。正面に見える山は不老山だろうか、それとも手前の山か。
番ヶ平への指導標を見ると、やがて檜の植林下となる。急登がひと段落すると、樹林越しではあるが相模湾が光るのが見えた。また、優美なシルエットの山塊は箱根であろう。箱根中央部の山は優美なスロープといくつもの峰を連ねており、規模こそ違うが八ヶ岳と雰囲気が似ている。
以後、時たま明るい雑木の中に入ることもあるが、たいていは植林の薄暗い道であり、なかなか開放感が味わえない。地形的にも変化のない所が続き、今いる場所がよくわわからない。おそらく番ヶ平ノ頭を南から巻いている道なのだろう。小さな尾根に乗り左方向に歩いていくと、林道に出た。林道は荒れており、殺伐としている。標識はここを「番ヶ平」と表している。
林道を横断し、相変わらず植林下の急な登りが続く。友人は「ふろうさん」でなく「くろうさん」だ、と言う。ようやく傾斜が緩やかになると、あっけなく不老山山頂を示す標識とベンチが見えてきた。
今日はとことん展望とは縁のない日のようで、山頂はそこそこの広さがあるのに、背の高い樹林に囲まれ見通しは悪い。この先の南峰のほうが眺めがあるらしいのだが、上空には雲も多く出てきてしまったので、ベンチのあるここで昼食休憩することにした。
南峰はたしかに富士山方面が少し開けていたが、やはり雲が覆っていて富士山がどこにあるかもわかりづらいくらいだ。富士五湖や奥多摩方向から富士山を眺めるとき、日が高くなるにつれ東側から雲がたなびき始めるのをよく目にするが、ちょうどその雲を正面に見ている感じである。
世附(よづく)峠からの道が合わさってきている。やはり不老山は世附峠から西、サンショウバラを見ながら広葉樹の森を縦走するのが、歩きでもあり楽しそうである。展望が広ければ晩秋や冬もいいのだろうが、その点は期待外れの山であった。出会った人も、MTBの3人グループだけだった。
下山は尾根伝いに南下し、駿河小山駅に向かう。いわゆる「不老の活路」と言われる道だ。ここからは静岡県との県境を歩くことになる。南峰の標識には金太郎の人形が飾られていた。
駿河小山への道は何本かあるが、この県境尾根には楽しい指導標が多いらしい。地元の岩井さんという方が、富士五湖や箱根、丹沢の静岡県側の山に立てた標識である。今まで三国山稜や矢倉岳で見てきたが、本家はここ不老山だったようだ。
半次郎と呼ばれる生土(いきど)分岐を経て、尾根を忠実に下っていく。登山道は左右に林道が走っているという味気ないものだが、終始穏やかな下りで、登路に比べれば眺めもある。送電鉄塔の基部からは富士山の八合目あたりの白い斜面が、雲間からかろうじて見えた。左手には大野山の山頂部の草地が、まるで散髪したばかりの頭のように見える。
時々現れる指導標は花のイラストあり、万葉集を引用したりクイズを出したり、絶好調である。形状も山の稜線を型取っていたりして手が込んでいる。また、タイヤのホイールを使っていたり、拡声器や缶からなど「かぶりもの」にもバラエティーがある。さらに英語を取り入れたバージョンも、ちなみに不老山は「Ever Young」だそうだ。遊び心いっぱいの標識が続く。
下山地から、国道246号のガードをくぐって生土の住宅街へ
|
生土地区へ |
|
ようやく富士山 |
|
作成者はもちろん、登山者が迷わないようにとの目的で、また地元の山を楽しんで歩いてもらいたい思いから設置しているのであろうが、基本的にははここも他の山と違わず私有地であることには変わりない。
勝手に指導標を立てていることに周囲からいろんな批判もあるようだ。5年ほど前、何者かによってこれらの標識が根こそぎ抜き取られてしまったこともあったり、また駿河小山町との間で裁判が行われているようでもある。
高度を下げていくと、明るい雑木林となる。標識もここには多く集中する。青いガードレールのついた急坂を下り、枯れ沢沿いに歩いていく。やがて大きな堰堤のある林道登山口に下り立った。標識は「ここより不老山 聖域に入る」。
その先で国道のガード下をくぐって、生土の住宅街を歩き国道に出た。公の国道になっても標識は尽きることなく、かえってパワーアップした作りになっていた。
駿河小山駅に到着する。明るい日差しが戻り、富士山も雲間から姿を現した。
不老山はもう少し展望のある山だといいのだが、それはきっと隣りの大野山や高松山に役を預けているのだろう。無数に現れる標識に不思議なパワーをもらった山であった。