愛鷹(あしたか)連峰は富士山と造山時期が同じで、富士山に一番近いところにある山だ。当然富士山の眺めをあてにしての登山となる。それなら空気の澄んだ晩秋から冬に行くのがいいが、久しぶりに天気もよさそうなので足を運んだ。
御殿場駅前から仰ぎ見る富士
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御殿場駅に来ると、建物の向こうに黒い大きな富士山が覗いている。目指す愛鷹山(越前岳)に登り着くまで見え続けていてくれるか。
バスで愛鷹登山口へ。はとバス2台で登山ツアー団体が到着しぞろぞろ歩き出している。早めに、この長い列の前に行きたい。人並みをかき分けるように、杉並木の簡易舗装路を急ぎ足で進む。
鳥居のある山神社登山口から山道が始まる。杉林の緩やかな登りがしばらく続くが、やがて雑木となり斜度も増す。ロープや梯子も出て来るがほとんど危険はない。木の間から見える空は青ではなく雲の色、いまいちすっきりしない。それでも愛鷹連峰の稜線が少し覗ける場所もある。
薄暗い林の中を登っていくと、山小屋風の建物、そしてトイレが現れる。愛鷹山荘で個人所有のものだが、あらかじめ連絡すれば宿泊も可能のようだ。
越前岳だけの上り下りなら宿泊の用もないので、連峰を縦走する人が利用するのだろう。それと稜線で富士山の撮影をする人のベースにもなりうる。小屋のすぐ前に水場もあって便利だ。
雲を被った富士山
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笹の多い稜線
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小屋から少しの急登で稜線に立つ。しかし眼前に杉林が伸び、眺めは悪い。
まずは右折し、富士山の展望台である黒岳を目指す。ほぼ鉄砲登りのかなりきつい行程だ。
緩やかになるとやがて左(北)側が開け、富士山が大きく望める...はずだったがすでにほとんどが雲に隠されている。てっぺんの一部と、裾野しか見えない。
しかも憎らしいことにその雲は富士山の形そのままで、まるで富士山が雲の服を着ているように見える。
富士の眺めがないのも残念だが、もっと気にるのは、先ほどから鳴り続いている砲撃の音だ。富士山の裾野に自衛隊の演習場があり、特に大砲などはすさまじい地響きとともに振動まで伝わってくる。
展望台から数分で黒岳頂上(1087m)に着く。広い草地で大人数なら先の展望台よりこちらのほうがよさそうだ。
展望はそこそこ得られる。回り込めば愛鷹連峰の鋸岳や富士山も見える。そしてこの山のもうひとつのポイントは駿河湾が見えることだ。しかし今日は海から湿った空気が流入しているらしく、南側は常に曇っているので眺めはない。
分岐まで下る。途中で、さっきのはとバスの団体さんがどっと登ってきた。展望台での眺めについて、何人もの人から質問を受けるが正直に答えるのもはばかられるので、「ちょっと雲が出始めてますね」とぼかした答えをしておく。
越前岳頂上
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リンドウ
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分岐からは越前岳への長い登りとなる。だが急なところはほとんどなく、時間をかけて高度を上げていく感じだ。
ほぼ全てが樹林帯で、まだ葉の茂る今の季節にはまったく眺めはない。地面はぬかるんでいてけっこう大変である。
そのうち、もうひとつの団体さんに追いつく。「特急が来ましたね」と声をかけられる。道をあけてくれるのでありがたいが好きな表現ではない。
それにしても単調な登りが続く。たまに鋸岳方面の眺めが得られる箇所もあるが、雲が多くいまひとつの展望だ。
富士見台からはもはや、全く富士山は見えず。砲撃の音のみまだ聞こえ続けている。そのまま越前岳頂上へ。
頂上一帯には大きなガスがかかり、周囲の山々の眺めさえも得られない。富士山はどの角度に見えるのかもわからないくらいだ。愛鷹連峰の連なりも大変見づらい。
しかし人はたくさんいる。帰って調べるとこの山は日本2百名山だったのだ。どうりで混雑しているはずである。
頂上の一角にリンドウの花が開いていた。小さな秋を見つける。
やはりこの山で富士山が見られないと、クリープを入れないコーヒーのようだ。続々と登ってくる登山者に押し出されるように頂上を後にする。
木の根が露出
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十里木(じゅうりぎ)への下りは初めは樹林帯。アザミそしてテンニンソウだろうか、白い棒状の花が大きな群落を作っている。
しかし至る所で木の根が張り出し段差の連続だ。これには苦労させられる。
土地がやせているというか、樹木の数に比べて土壌の量が相対的に少なすぎるのである。想像だが、これだけ古い山塊のため長年の風雨によって土壌が流れ落ちてしまったのではないか。
十里木高原
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高度を落とすと十里木高原の一角に入り、気持ちのよい笹原となる。今日一番(唯一?)快適な登山路だ。
富士山の裾野が広大で開放感がある。下から家族連れの行楽客も登って来ている。足元にはマツムシソウもまだ咲き残っているが、あたり一面ススキが覆う。今年も夏が駆け足で過ぎていってしまったことを実感する。
十里木からはバスで御殿場駅まで戻る。御殿場まで来たのだから温泉でもと考えたが、バスの時刻が合わないのでおとなしく駅に戻ることにする。
今回は撮影適地の偵察ということで、また空気の澄んだ日に来よう。
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