~明るい稜線、月待ちの山~ |
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今年はほうぼうの地域の山を登り歩いたつもりだが、近場でまだ行ってないところもたくさんある。 「東京周辺の山」とホームページでうたっている割には、群馬・栃木・茨城の北関東の山々はいまだ未踏だ。奥日光の計画もあったがいつのまにか登山シーズンを過ぎてしまった。西上州の山が今は興味あるところだ。
道志の山もまだ歩いたことはなかった(石割山が道志山塊と言えなくもないが)。丹沢と中央線沿線の山の間に位置するこの山域は、以前は交通が不便なところで「道志に行くにはどうしたらいいのか」というダジャレもあるくらいだ。 今は車道が通り登りやすくなっているが、それでも丹沢などに比べれば静かな山域のようだ。岩場があるでもなく、花が咲き乱れるような有名な場所もあるわけではない。山・稜線そのものが比較的地味なものだからかもしれない。 二十六夜山。このユニークな名前の山は道志山塊に2つある。今日登るほうは、今倉山(標高1470m)から西方向に縦走したところにある通称「道志二十六夜山」(標高1297m)だ。 実は今回は今倉山から二十六夜山に行くか、反対側(東方向)の菜畑山(なばたけうら)に行くか、最初は決めていなかった。とりあえず今倉山に登り、左右を見て展望のよさそうなほうに行こうと思っていた。 富士急行線・都留市駅から道坂(どうさか)峠行きのバスに乗る。この便は日曜・休日のみだ。 空は雲一つ無い快晴。今年の秋は、週末ずっと天気がいい。山行もここのところ毎週続いている。
峠のすぐ脇にある登山口から登る。ジグザグした急登を少しこなすと、すぐに明るい分岐点に着く。右は御正体山、左は今倉山へ向かう道だ。 左の尾根をどんどん登る。あたりの樹林はすっかり葉を落とし、見通しがいい。道は最初から遊びの無い急坂で、ほぼ直登である。体がついていかない。 背後には御正体山がおおいかぶさるように大きい。 高度を上げるにつれ、御正体山のすぐ後ろにまばゆいばかりに白く光る富士山がどんどん大きくなっていく。黒々した御正体山の後ろなので、その雪冠の白さが際立っている。 いったん切り開きに出る。御正体、富士山の右側(西)には鹿留(ししどめ)山、反対側には鳥ノ胸(とんのむね)山のこんもりした二峰が大きい。遥か西方には雪帽子の南アルプス。悪沢岳、聖岳あたりが見える。
道坂峠から1時間あまり、今倉山東峰山頂はあっという間だった。カラマツなどの樹林に囲まれてはいるが、北方面には奥多摩の山々が屏風のように連なっている。 さて右に行くか左に行くか。どちらも最初は樹林の中の道のようで、選択のしようがない。スタンダードなコースということで、二十六夜山のほうに行くことにした。 あたりは本当に静かだ。そういえばバス停で何人も下りたが、皆御正体山のほうに行ったようである。いったん鞍部に下り、西峰へ。東峰よりいくぶん見通しがいい。「御座入山」との山名表示もある。神の住む山、との意味もあるのだろうか。 さらにアップダウンを繰り返すと、四囲の展望が開ける赤岩だ。 ここの眺望は素晴らしい。富士山は言うに及ばず、南アルプスの稜線は甲斐駒から聖岳まで、さらに八ヶ岳、金峰山、雁ガ腹摺山、大菩薩嶺、飛竜・雲取・石尾根と続く奥多摩の稜線、中央線沿線の山々が勢揃いだ。 近いところでは丹沢、道志山塊、三つ峠、九鬼山など。大月市の街並みやリニア実験線の橋も見下ろせる。展望盤もあり山座同定にうってつけの場所である。 またこのへんはツツジが咲く稜線とのことで、春から初夏にかけては花と展望の両方が楽しめそうだ。
40分ほど展望を楽しんだあと、さらに西進する。 樹林帯の尾根が続くが木の間越しから富士山が見え続ける。まるで、御正体山を露払い、鹿留山を太刀持ちに従えた横綱の土俵入りのようにも見える。 二十六夜山へは、この後いったん、舗装された車道に下りることになる。少し古いガイドや地図には載っていないが、ここの鞍部を新しい舗装車道が乗越している。伐採されているから眺めがよい。 また、ここまで車で来てしまえば、二十六夜山へは往復30分足らずである。
車道からは雰囲気のいい自然林をゆるく登り、二十六夜山に着く。以前の写真を見ると樹木が邪魔しているが、今は南面が伐採され、富士山が大きく見える。北側の展望もあり、明るい山頂である。 しかし、コンビニ弁当のカラがひとそろい、投げ捨てられている。ここまでゴミのほとんど見られない道だったので、とても残念に思う。 4人ほどのグループが登って来た。ここまで2組に出会ったのみ。好天の連休なのに何と静かな山域であることか。
山頂にある案内板によれば、昔は旧暦の1月・7月26日になると、この山頂で月の出るのを待つ慣わしがあったそうである。それが山名の由来になっていて、麓には「芭蕉・月待ちの湯」という風流な名前の温泉施設もある。下山後はそこに向かうことにする。
自然林に囲まれた尾根を急降下したのち、山腹の道と変わる。一角だけ鮮やかな紅葉が残っていた。 沢を見、植林帯に入りしばらくすると林道に出会う。のどかな山村を少し歩くと「月待ちの湯」だ。 松尾芭蕉がこの地に立ち寄った際、山々の間から昇る月に感嘆し「名月の夜やさぞかし宝池山」と詠んだと伝えられている。 バス停は温泉の真ん前にある。バスの到着まで1時間半くらい。のんびり湯に浸かり晩秋の山行をしめくくる。 次は今倉山から見た東側のほうにも足を伸ばしたい。また、もうひとつの「二十六夜山」にも是非行こうと思う。 |