~東京の孤峰の静寂~
タイトル
とりたにやま(1718m)
2008年10月26日(日) 曇り

調布IC-[中央自動車道]-八王子第2IC-[奥多摩街道、青梅街道]-8:30小川谷林道終点-9:00三又-9:50旧酉谷小屋跡-10:35酉谷山避難小屋10:45-11:00酉谷山11:25-11:53日向沢ノ頭-12:15坊主山12:25-13:15七跳分岐13:25-14:15登山口-14:20小川谷林道終点-[青梅街道、奥多摩街道]-八王子第2IC-[中央自動車道]-高井戸IC 歩行時間:4時間55分

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日原街道を車で上がっていくと、小雨がパラパラときた。
天祖山に登るつもりで、鍾乳洞の分岐からデコボコの林道に入っていく。しかし空一面どんよりした雲で気が重い。八丁橋に来たところで、今日は登るのをやめようと思い、引き返す。

日原鍾乳洞まで戻ってくると空が何となく明るくなり始めた。どうせなら小川谷林道も車で一度通っておきたいと思い、再び未舗装の道を上がることにした。
日原林道に比べればまだいいものの、こちらも大変な道だ。6キロの道を何とか上がり、小川谷林道終点に着く。
天候が若干回復したので(晴れではない)、予定を変更して今日は酉谷山に登ることにした。


三又付近の落ち葉道を行く

もともと今日は天祖山から長沢背稜を歩いてタワ尾根を下山するか、または酉谷山まで足を伸ばして小川谷に下るコースを考えていた。いずれも長丁場だが、梯子坂のクビレから孫惣谷林道に下る道は通行禁止とのことから考えたルートだ。
しかし、小川谷林道終点から酉谷山に上がる道も、いまだに通行禁止になっていることは全く知らなかった。入口に張り紙がしてあるのも気づかず通過してしまう。

この沢沿いの登路は10年前から歩いている道で、懐かしささえ覚える。酉谷山は自分にとって、奥多摩から始めた登山の原点ともいえる山である。
昨年の台風で一時は通行不可能になるほどダメージを受けたそうだが、今日歩いた感じではそのような場所は全くない。割谷と酉谷が合わさる三又は以前と変わらぬ落ち着いたたたずまいを見せていた。

日原鍾乳洞付近
酉谷沿いの道
旧酉谷小屋跡
黄葉の盛り

少し歩くと、登山道を整備している人と出会った。ザレている箇所の路面を平坦に切って危険がないようにしている。「これで歩きやすくなったと思いますよ」と言う。挨拶とお礼の言葉を言って通り過ぎた。

沢に沿った道はいったん尾根に上がる。以前はすぐ沢に戻ったがしばらく尾根伝いに行くように道が付け替えられたようだ。それでも間もなく沢沿いに戻り、このコース本来の気持ちよい登路となる。
紅葉はなかなか進まないようだ。緑の葉が多い中高度を上げ、旧酉谷小屋跡に着く。

高度をさらに上げると沢の水は枯れ、きつい急斜面の登りとなる。笹が現れカラマツの林が出てくる。このあたりも道が付け替えられ、路面は整備された直後らしく黒土がむき出しになっている。
右手に青いビニールシートが見えてきた。酉谷山避難小屋下の斜面だ。昨年の台風で土砂が流出して以来、シートをかぶせているようだ。

回り込むようにその酉谷山避難小屋前に到着する。小屋は斜面崩落の危険があり使用禁止でトラロープが張られている。小屋が使えないのはわかっていたが、今自分の歩いてきた道もロープで遮断されていた。ここが依然通行止めになっていることがこのときわかった。
足元の水場を見ると、細いながらも水が出ている。小屋前からの奥多摩の山の眺めは素晴らしいのに、この小屋を使えないのは大変に惜しい。これまでもう何泊もしているので、よけいに残念である。
これは東京都の管理物なのだが、崩落斜面の補修をしようにも大掛かりな重機が必要で、そう簡単にはいかないだろう。昨年の台風のあと、どうすることも出来ずに今に至っているのが現状のようだ。

小屋から少し上がると酉谷峠。酉谷山に上がる道に入る。稜線に上がると秩父方面がよく見下ろせた。このあたりは早くも落葉時期を迎えており、そのため周囲の見通しがよくなっている。
長沢背稜付近が今は紅葉の盛りで、それより下はまだ緑が多く、上は落葉気味である。

久しぶりの酉谷山頂上。南側の眺めがいい。登山者が一人いたが、しばらくして下山していった。
誰もいなくなるとあたりは急にしんとする。時折風が舞うだけで、ほぼ無音状態だ。埼玉県との境に位置する酉谷山は、奥多摩で、いや東京の中で一番静かな場所と言ってもいい。無に帰れる頂上である。

宮城敏雄氏著「奥多摩」によれば、酉谷山の酉は、鳥ではなく「通り」からきた言葉らしい。すなわち昔から日原と秩父を結ぶ1本の道が通っていた場所、それが酉谷山ということだ。
自分も数年前に、秩父の大血川峠から登ったり、また熊倉山からの縦走もした。酉谷山が他の奥多摩の山と雰囲気を異にするのは、秩父の静かな山という性格も合わせ持っているからだろう。

避難小屋前から
秩父方面を見下ろす
坊主山頂上
優しい紅葉

酉谷峠に戻り、縦走路に入る。ふと、左の笹の間に人が通れそうな細い道を見つける。
長沢背稜の縦走路はかなりの部分が尾根の少し下に付けられていて、稜線上を歩くところは意外と少ない。それでも、稜線上に道がないわけではなく、酉谷山の東側の2つのピークに行ける踏み跡もあるようだ。
笹に囲まれた踏み跡に入ると、細い道はずっと続いている。思いのほか歩きやすく、笹をかき分ける作業もあまり苦にならない。

ひと登りするとツガなどの木が立つひとつ目のピークに上がる。山名板などはどこにもかかってないが、地図によれば「日向沢ノ頭」(1702m)のようだ。
さらに笹の中の細道を進む。いったん鞍部に下り再度急登。今度は岩っぽい登りだ。ほどなく平坦になり、赤い境界見出標が木にかかるのをいくつか見る。
笹が切れ、落ち葉の敷き詰められた小広い台地となる。ここが坊主山らしいが、やはり山名をしるす標識のようなものはない。ただひとつ、立ち木に巻かれたテープには「・・・・1660m」と標高めいたものが書かれている。

さて、この坊主山の位置関係については諸説ある。このさらに東隣の1590mピーク(25000地形図では1595mと表記)を坊主山と呼ぶ場合も多い。かもがわ出版「奥多摩山歩き一周トレール」に掲載されている「奥多摩150山と45の峠」(当サイトの山リストにも掲載)では、この1590mピークを坊主山としている。
さらにちょっと古い登山地図では先の日向沢ノ頭が坊主山になっている。これはちょっと誤りっぽい。

一方、前述の「奥多摩」にはこう書かれている。『日向谷ノ頭の東の同じ様な突起が割谷ノ峰だが、東京都水道局はこの木立のない明るい山頂をそのまま坊主山と称している』。石楠花尾根から突き上げ、秩父側にも長い尾根を派生させているこの峰を坊主山と表記している。
まさか水道屋さんに問い合わせるわけにもいかないので、自分で考えるしかないが、この小広く明るい山頂にいると、やはりここを坊主山と呼びたいところだ。昨年登った七跳山の狭い山頂などと比べると、ずっと山頂らしい。
ある程度の人数までならゆっくり休憩も出来るし、一般登山道で結ばれていてもいいような気がする。

先の鞍部に下り、長沢背稜に戻る。黄葉の木々の中に、にじみ出るように色づくオレンジ色の紅葉がきれいだ。奥多摩の紅葉は派手さはないが、暖かみというか、優しさを感じる。
登り返して七跳尾根の分岐に来たあたりが、一番艶やかな紅葉・黄葉の競演だった。

七跳尾根を下り小川谷林道の駐車場へ戻ることにする。紅葉の落葉樹森からあたりはの次第に檜の植林帯に変わる。林道まで1時間たらずだが、単調なジグザグの続く下りは思いのほか長い。
今日山で出会った人は、登山道の補修をしていた2人と、酉谷山頂上で会った1人だけだった。静かな奥多摩の山だった。

車で鍾乳洞に下ると観光客がちらほら。このあたりの紅葉はもう1週間ほど先であろう。小川谷橋の横にある売店で手作りの笹もちを買う。どこか懐かしい味がした。


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