奥多摩・日原のタワ尾根は登山者の間でそこそこ知られているが、今日は奥多摩でもうひとつのタワ尾根に登る。
上野原市の田和集落から笹尾根に突き上げているのがそれで、松浦隆康氏著「静かなる尾根歩き」ではこの尾根を「田和尾根」という名で紹介している。この尾根は一般にはなじみが薄いがわかりやすい道が伸びている。
田和尾根を登ったのちは、笹尾根を行ける所まで歩くことにした。
上野原駅から飯尾行きのバスに乗る。紅葉時期は混雑したこのバスも、今日はさすがに空席が目立つ。山はこれから、週を追うごとに静かになっていく。
田和集落から登る
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バスは谷間に付けられた車道を走っていく。地形の入り組んだところは朝日が届かず、暗く夕方のよう。そして日が当たる場所に出ると、決まってそこには人家が寄り添うように建ち、集落を作っている。
長寿村で知られる棡原を始め、藤尾、上平それぞれの集落とも、日当たりのよい場所を狙ったように位置している。
考えてみれば当たり前のことなのだが、山奥に入るバスに乗って窓から外を眺めていると。そういうところに気づきやすくなる。
田和バス停で下車する。バス停すぐのところに西原峠を示す指導標があるので、それに従い車道を上がっていく。高度を上げたところで見下ろす田和集落も、秋の柔らかな朝日をさんさんと浴びていた。
| 落ち葉の田和尾根 |
| 奥秩父が白い |
| 田和峠 |
| 富士山が大きい |
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上平集会所を過ぎ、さらに奥まったところにある民家の脇から、指導標に従い登山道に入る。その民家の小さな池には、たくさんのニシキゴイが泳いでいた。
檜林を過ぎ落葉樹の雑木林になる、落ち葉をパリパリ、モシャモシャと音を立てながら歩いていく。
鳥の声もめっきり少なくなり、ただ自分の立てる足音のみがやけに響く。ヤマザクラのような木はすっかり落葉し、紅葉という宴が終わった雰囲気である。
急なところはなく、いたって峠道の雰囲気だ。植林の中に指導標があり、扁盃(へはい)からの道が左から合わさる。田和尾根に入ってから見た指導標はこれだけだった。
ほどなく頭上が明るくなり、気持ちのいい落葉樹林の道となった。クヌギやコナラ、カエデが豊富な道で、すでに落葉してしまったのが惜しい。
道は徐々に斜度を増し、先に笹尾根の稜線が見えてくる。そしてはるか北方には奥秩父の、あれは国師岳だろうか、真っ白になっている。その隣りの金峰山も白い。先週登った山が雪の洗礼を浴びている。
すぐに笹尾根の合流点、田和峠に着く。この峠は展望がよい。南西側が大きく開け、権現山稜とその奥に三ツ峠、百蔵山、滝子山がよく見える。そして何といっても白い大きな富士山が素晴らしい。
なお、この付近の峠名や山名の表記は、地図や文献によってバラバラで、見事なまでに統一が取れていない。
田和峠を笹ヶ峠と書いているものもあるが、この先を1kmほど進んだ笹ヶタワ峰の南東側の峠を、笹ヶ峠と呼んでいる文献もある。またその笹ヶタワ峰も1157mピークを指すものと、その先1121mピークを指すものとで2分している。 ここでは宮城敏雄著「奥多摩」での表記に準じ、この田和尾根が笹尾根に合流するところを田和峠と呼ぶことにする。
笹尾根を東に、緩く下るように進む。ほどなく、再び右手が開けた場所に出る。ススキの穂を前景に権現山の尾根、その先に富士山。丸太のベンチもあって休憩適地である。
三頭山から発する笹尾根は、大沢山・槙寄山を経てこのあたりまで伸びやかな道が続いてきているが、この先は南側が植林で閉ざされてしまう。自然林の北面は三頭山や御前山、大岳山など奥多摩の山が望めるのだが、日の射す側が暗くなっているので意外と寒い。
数馬峠・上平峠との表示がある場所から巻き道を使わずに尾根筋を行く。するとしばらくして笹ヶタワ峰に着く。ここも南面が植林である。
山名板には1121mと書かれている。なお宮城著「奥多摩」では笹ヶタワ峰は1120mとしている。
| 日原峠のお地蔵様 |
| 気持ちよい尾根 |
| 紅葉が残る |
| 三国山から |
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笹ヶタワ峰から下ったところが笹ヶ峠(と、ここでは呼ぶ)。鶴川側、秋川側両方に道が下りている。
足元には背の低い笹、頭上の高木はこのあたりではすでに落葉している。藤尾分岐を経て尾根は左折するようになる。
急な下りで笛吹峠。笹尾根の数ある峠の中で、ここが特に峠らしい落ち着いた佇まいがあって気に入っている。
この先のピーク、丸山(1098m)に立ち寄っていく。展望は木の間越しであはあるが、奥多摩らしい雰囲気のある山頂だ。2人の単独登山者も静かに休憩している。
風がそよと吹くと、残り少ない枝上の葉がカサカサと音を立てて落ち、そして再びの静寂。春・夏、そして紅葉の秋と賑わいの時期を終えた奥多摩、そこには「祭りの後の寂しさ」がある。
ここから小棡(こゆずり)峠を経て土俵岳(1005m)。南面の植林を一部切り開いて富士山が見えるようにしているのだが、以前に比べていくぶん眺めが悪くなった。その上先客がいたので、ここで休まず先に進む。
日原(ひばら)峠にある地蔵碑のかたわらにはリンドウが1輪、花をつけていた。
日原峠からは笹尾根の雰囲気はまた変わって、細かなアップダウンが多くなる。しかし標高が下がったあたりではおととしに来たときと同様、紅葉がよく残っていた。
浅間峠でようやく休憩、ベンチに腰を下ろす。ここで下山するには、少しあっけなさすぎる。天気もいいしもっと進もう。
再び自然林の多くなった稜線を熊倉山方面へ進む。アップダウンの多い部分ではあるが雑木林の姿がよく、展望もきく場所が多い。すでに日が高くなってしまったため、富士山はほとんど霞んでいる。
熊倉山(966m)から軍茶利(ぐんたり)山、軍茶利山元社と次々にピークを越えていく。東京・山梨・神奈川の3都県境となる三国山(さんごくやま・960m)に到着。縦走最後のピークにふさわしい、広い展望だ。
3時台のバスに乗るべく、少し早足で下山することにする。三国山から30分で上岩の集落に下り立つ。民家の軒先には柿がなり山茶花がきれいな花をつけていた。
石楯尾神社からバスで上野原駅に戻る。今回の笹尾根歩きは、いつもと違って秋川側の登下山口を使わず、鶴川側を発着点としたものとなった。笹尾根の南面は植林が多く地味なイメージがあるが、集落の雰囲気や峠越えの道など、山歩きのコースとして捨てたものではない。
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