~春陽を浴びて奥多摩路を行く~ ごぜんやま(1405m)とおくたまむかしみち 2009年3月15日(日)快晴
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この週末の大雨は、南関東の山の雪をほとんど溶かしてしまったようだ。武蔵五日市駅から見る周辺の丘陵に白いものは全く見られない。 バスで奥地に入っていっても、澄み切った青空のと灰色の山肌、そしてオレンジがかった森林の風景が展開するのみ。オレンジといってもみかんなどがなっているわけではもちろんなく、花粉をいっぱいしたためた杉やヒノキのことである。
ガラガラの藤倉行きバスを、宮ヶ谷戸(みやがやと)で下りる。まだ少し風が冷たいが、強く明るい日差しが春近しを感じさせる。橋を渡って民家の間を緩く上がっていく。畑地の片隅に、植生だろうがショウジョウバカマが咲いていた。 小鳥たちのさえずりが朝の空気の中気持ちよく響く。湯久保尾根は6年ぶりで、山に入ってすぐのところにあったはずの鳥居は、今回見落としてしまったようだ。 落葉樹の下は深い落ち葉道、ザクザクと音を立てて登る。 もうひとつの登山口からの道と合流したのち、1軒の民家の横に出る。古いガイドでは、ここを湯久保集落と紹介しているが今はたった1軒の家と小さな畑があるのみ。日当たりのいい斜面からはいくぶん眺めがきく。 御前山の中でも、湯久保尾根は長大な尾根だ。山頂までは3時間くらいかかる。 ところで奥多摩の尾根は、尾根そのものはよく知られていても、名前に使われている山は意外と地味で無名なものが多い。たとえば赤杭尾根の赤杭(久奈)山、長沢背稜の長沢山がよい例だ。また、ヨコスズ尾根の横篶山、万六尾根(生藤山への登路)の万六ノ頭や榧ノ木尾根の榧ノ木山などは、登山道がピークを通っていないので、その山の存在すら知らない人も多いと思う。 湯久保尾根の湯久保山も同じで、登山道はこの山を巻いている。ぼうっとして歩いていると気づかず通り過ぎてしまいそうなので、今日は周りに注意しながら、ぜひともこのピークを見つけたい。ネットの山行記録などで予習はしてこなかったので、地図のみが頼りである。
一軒家を後にして少し登ると自然林の緩やかな台地に出る。その先で岩尾根になるあたりが仏岩ノ頭(1012m)だ。 このへんから何箇所かで富士山が見えるようになる。前2回はいずれも夏だったので、ここから富士山が拝めるとは知らなかった。 さらに登ると右手に比較的目立つピークがある。湯久保山には少し早すぎる気もするが、登山道を外れてそのピークに登ってみる。しかし何もなし。 湯久保地区からの道を合わせた後さらに行くと左手が開け、桧林越しではあるが富士山が大きく望めた。 その後いくつかのそれらしきピークに登ってみるが、湯久保山らしき所は見つからない。やがて、登山道が尾根を乗っ越すあたりで左側の細い木に赤いビニールテープが巻かれているのに気づく。はっきり付いた踏み跡を戻るように登っていくと山名板がある。湯久保山(1044m)と描かれていた。 樹林の中だが、正面に御前山の大きな山体が望める。 ひとつの目的が果たせたので、すっきりした気分で御前山を目指す。 藤倉からの道が合流する。通行止めの表示があるが、地元の方の手により補修されたので通行可、とのプレートもある。藤倉まで60分とのこと、この道もいずれ歩いてみたい。 御前山まで2kmの標識。ここからが長いのだ。造林小屋を見た後、植林帯の急登が始まる。ここで体のネジを巻き直さねばならない。 山頂へダイレクトに続く尾根筋は木で通せんぼされており、登山道は東側の山腹を巻くように付けられている。植林を脱すると、大岳山から続く主脈縦走路に合流、階段道の急登が続く。少しぬかるんではいるが雪は残っていない。 避難小屋への道を分け、頭上がどんどん明るくなってくると御前山頂上である。ここにも雪はなかった。 正面には石尾根から雲取山、長沢背稜、西のほうに奥秩父山塊がパノラマで見渡せる。石尾根にもほとんど雪はついておらず、ただ雲取山だけが白くなっている。 奥秩父の国師岳はさらに白い。週末の大雨は2000mより上では大雪だったみたいだ。 登山者がどんどん登ってくる。春陽はさんさんと降り注ぎ、樹林の向こうの富士山もまだ見え続けている。今日は久しぶりに、暖かな山頂でのひとときを過ごせた。
下山は大ブナ尾根にする。山頂から少し下りた所で富士山の展望を得る。 惣岳(そうがく)山(1324m)まで、自然林の豊かな中を緩く下り、登り返す。春は道の両側にカタクリが咲き競うところだ。 ひと頃に比べ花の数は少なくなったと言われるが、1ヶ月先にはここも人の列の絶えない登山道になろう。 北斜面の大ブナ尾根にも雪は全くない。1500mくらいの山で、3月中旬にこれだけ完全に雪が消えるのも珍しい。 正午を過ぎてもけっこうな人が登って来る。今から山頂往復だと、下山は夕方だろう。もうそれが可能なほど日足も伸びてきている。サス沢山(950m)から見下ろす奥多摩湖や周囲の山々の眺めはいつもながら素晴らしい。 下るほどに傾斜は増し、場所によってはロープにつかまりながら慎重に歩を進める。 最後は湖面めがけて落っこちるような急降下の尾根道となる。しかしリョウブやアシビ、ヤマザクラなどの雑木林が続き、気分がいいところで、カタクリの時期にはこのあたりは瑞々しい芽吹きの林となりそうだ。 奥多摩湖畔に下り小河内ダムを渡る。水と緑のふれあい館周辺は、観光客で賑わっていた。 今日はここでバスに乗らず、昨年同様むかし道を少し歩くことにする。昨年は花のない時期だったが、今日は何かしら咲き始めているだろう。 水根から六ツ石山登山口と同じ道に入る。かなりの登り返しになってしまうが、民家の軒先をくぐったり、古い道祖神などが多く見られて、飽きのこない楽しい道だ。日当たりのいい場所でタチツボスミレが咲くのを見る。 中山トンネル付近で車道に下りるあたり、猿の群れに出くわす。10匹くらいいるだろうか。 人間を警戒するそぶりも見せず、自分の歩く前を堂々と横切って行くのだ。道路脇のコンクリート壁に上がり、だるそうにこちらを眺めている。奥多摩の鹿も人間を恐れなくなったが、猿も同じようだ。 標高を下げると、路肩の斜面にユリワサビ、キケマンなどもみかける。日当たりのよい場所に何軒かの民家がある。窓ガラスが破れ、廃屋のようになってしまったのもあるが、ほとんどは人が住んでいるようだ。日向ぼっこのおじいさん、畑仕事をしているおばあさんも見かける。 車の往来の絶えない青梅街道のすぐ裏側に、忘れ去られたような昔の田舎の風景がある。ちょっとしたタイムトリップをしている気分だ。 境橋までたっぷり2時間歩いてしまった。日が傾き、さすがに少し肌寒さを感じながら奥多摩行きのバスを待つ。 |