~日本経済の象徴と対峙する稜線~
タイトル
たけかわだけ(1051m)から
ふたごやま(882m)
2008年12月13日(土) 曇り

7:10西武線飯能駅-[バス]-8:10名郷-8:30登山口-9:10天狗岩-9:55前武川岳10:00-10:10武川岳10:25-10:50蔦岩山-11:20焼山11:30-12:10二子山雄岳12:30-12:35雌岳-13:10浅間神社-13:55芦ヶ久保駅
歩行時間:5時間5分

←このページのPDF版を用意しました。閲覧にはAcrobat Reader(無料)が必要です

マップ
Home


奥秩父や北関東の方角から埼玉方面を眺めると、二子山の2つのピークが意外なほど目立って見えることがある。標高は800m台と高くはないが、熊倉山や武甲山とともに、秩父盆地から南に派生する山稜の北端部を形成している。
高度の割には何本もの尾根や谷を刻んでおり、山としての風格がある。特徴あるその2つの峰は、何度も見るうちにだんだんと愛着が湧いてくる。
二子山には武川岳から縦走路が伸びており、やや健脚向けの1日行程のコースとして人気がある。この12月、8年ぶりにここを歩いた。


焼山頂上から武甲山下の採石現場を見下ろす。人工池が大きい

天気予報では曇り時々晴れだったが、西武線乗車中に夜が明けると、空は厚い雲に覆われていた。飯能駅からバスで名郷へ。観光施設のひとつもない、空気の透き通るような静かな山村。久しぶりに来た。
登山者が相前後して10名ほど。入間川沿いの車道を進んでいくと、見上げる大持山方面にはガスがかかっていた。

7年前に泊まった西山荘の横に「天狗岩・武川岳登山口」の表示がある。それに従い急な舗装路を登っていく。前回から8年も経っているせいか、山に入るまでのアプローチの部分はほとんど記憶がない。
10段ほどの急な石階段を上って植林に入るが、すぐに再び林道に出る。登山口はすぐ先にあった。

杉の植林帯の中の急登が続く。山道に入ると少し8年前の記憶がよみがえってくる。天狗岩までは急登の連続だったはずだ。ところどころで登山道を仕切るようにフェンスが張られているのを見るが、これは奥多摩と同じ様な鹿除けのものだろうか。
露岩の積み重なる登りとなる。かなりの急坂で、周囲を樹林で目隠しされていなかったら恐怖感を覚える所かもしれない。
岩の間を縫って登り上がり、林の中を少し歩いた先が天狗岩だ。尾根の肩といってもいい所だが、山頂のようでもある。

名郷から歩き出す
岩尾根を登り天狗岩へ
ガス濃い武川岳

緩急織り交ぜた登りが続き、やがて片側が雑木林となる。しかしすでにガスが出始めており、樹林の向こうの眺めはない。こんな低いところからガスでは、今日はもしかしたら、1日中乳白色の中かもしれない。
もちろん日も射してこないので気温は下がる一方。肌寒さを覚える頃、ようやく植林帯を脱し前武川岳(1003m)に着く。山伏峠からの登山道の途中のような場所で、ここも山頂という感じがない。
しかしこれから先は尾根伝いの道となり、次第に落葉樹の割合も増えるはずだ。ベンチに腰を下ろし一休みする。

緩く下ったのち、ひと登りで武川岳頂上に到着。ゆったりして落ち着いた雰囲気は8年前と変わらない。山名板が新しくなっていた。
ガスが濃く展望のかけらもなし。その代わり人は多い。正丸駅から伊豆ヶ岳を越えてきた単独の人、妻坂峠から登って来た女性3人組、そして自分と同じ名郷からの登山者も数人やって来た。
皆しきりに寒がっているが、自分は今日は寒さを警戒してももひきの上下を着てきたので、けっこう平気でいられる。カップラーメンを食べて出発する。

ここからは落葉樹林が豊かで、伸びやかな楽しい道となる。しかしガスが濃く、展望が全く効かないのが惜しい。
武川岳は春先にカタクリも咲くし、新緑の季節にここを歩くのもいいだろう。植林の多い奥武蔵の山も、少し標高を上げれば自然林が多く見られる。

奥武蔵の山道は穏やかな印象が強いが、この縦走路は少し骨のある部類に入る。特に武川岳側から歩くと急降下の坂が幾度となく続く。今の季節のように、落ち葉道がガスなどで濡れているとスリップが恐い。
山の経験の浅い人は二子山側から南下するコースを選んだ方がいいかもしれない。登りづめになるが危険度は小さくなる。
蔦岩山(1004m)を越えるあたりで、右下に車が通行できそうな林道(未舗装)が上がってきた。さらにどんどん高度を下げていくと、武甲山麓の採石現場の音が聞こえてきた。ときどきドドーンと発破音もとどろく。

自然林の縦走路
双耳峰の二子山へ

次の目標である焼山は標高850m。そこまで高度を下げると、さすがにガスが薄くなり、秩父方面の眺めが利くようになった。焼山に着くと武甲山初め、秩父盆地が広く見下ろせた。
武甲山は頂上部こそ雲に覆われているが、下部の採石現場がよく見える。コバルトブルーの人工池?がひときわ鮮やかだ。

いつもは耳障りな採石作業の音だが、今日は少し聞こえ方が違う。昨今の急激な景気の悪化により、日本国中、工場の生産ラインがことごとく規模縮小や閉鎖に追い込まれている。秩父のセメント工場も例外ではないのでは、と来る前は思っていた。
しかしこのガーン、ガーンという音が例年と変わらず聞こえてきたので少しホッとした気分になった。石灰の山・武甲山は、戦後日本のセメントの需要に応えて削られ続け、標高も30mほど低くなってしまった。その姿かたちの変化は日本の高度経済成長の投影である。
登山者にとっては複雑な思いはあるが、今日のところはこの国の行く末を案じ、稼動中の現場を見守る一個人となった。

焼山からは引き続き、落葉樹の多い道を進む。秩父方面に落ち込む長い支尾根を分けやや右方向に進路を取る。
二子山へは最後の長くきつい登りとなる。登り着いた二子山雄岳は植林の中の頂上だが、西側が開かれて眺めがいい。隣りに大所帯のパーティが鍋料理を作っている。そろそろ忘年会の季節だなと思った。
いったん鞍部に下って雌岳に登り返す。こちらは樹林で展望が全くないが、落ち着いた雰囲気だ。

前回は右手、沢沿いの道を下山したが今日は浅間神社経由の尾根コースを行く。すぐに大きな石室を見るが、これはいったい何だろうか。そしてこの下りも、急坂で足場が悪い場所が何箇所かある。浅間神社を過ぎると尾根を離れて植林帯の山腹を下る。

下りきったところに沢の流れがあり、やがて西武鉄道のガードをくぐる。芦ヶ久保キャンプ場を経て車道を10分ほど歩き芦ヶ久保駅に着く。ここには鉄道の駅だけでなく、道の駅も出来ていた。
多くのハイキング客を呑み込んだ西武鉄道に揺られながら、池袋駅に戻る。


Home