橋立川沿いの林道を行く
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カラマツと笹に覆われた稜線
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浦山口駅から、まだ日の差し込まない谷間の道を上がって行く。
寒さはそれほど感じない。道端にフキノトウとムラサキケマンを見る。見慣れた冬枯れの風景の中にも、所々に浅春の雰囲気が感じて取れるようになってきた。
今日のコースは里道や林道歩きが長く、この季節ではかえって山野草に出会いやすい。武甲山を初めとするこの山地一帯は石灰岩が多く、季節がら今日は節分草に出会えるかもしれない。
田中澄江著「花の百名山」では武甲山は節分草で紹介されている。足元をじっくり確かめながら歩くとしよう。
橋立鍾乳洞を左に見上げ、なおも車道を進む。ここまで鍾乳洞や札所を案内する標識は多くあるものの、山を示す指導標を全く見かけない。ガードレールの橋で橋立川を渡ると、ようやく武甲山登山道の標識に出会う。
林道終点となるところで山岳競技コースの標識が立っている。この登山道は、埼玉県で今年行われる「まごころ国体」の山岳マラソンコースになっているようだ。
緩い登りの後、薄暗い植林帯に入って行く。ジグザグの急登がどこまでも続く。これは長くつらい。上の方に稜線らしきものが見え、もう少しだと思って頑張ると、さらにその上がある、これの何度かの繰り返し。
マラソンでこんな所を走って上がるなんて信じられない。
ようやく稜線に上がると、反対側は笹と雑木林の気持ちよい斜面となっていた。腰を下ろし、木の間からの眺めをしばらく楽しむ。
武甲山展望台から
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小持山への登路から武甲山
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アセビの多い高ワラビ尾根
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ここから少しの間、防火帯の緩やかな登りとなる。そのうち右側が大きく開け、大持・小持山や遠く奥多摩の山並みが一望出来る。
カラマツ林の中、発破の案内板が建つ場所に来る。指導標には「長者屋敷ノ頭」とあるが、武甲山の尾根の肩といった感じでピークではない(「頭」は常に山頂を指すとは限らない)。
山腹を巻きシラジクボに直接至る道が分岐している。その道を歩く予定でいた。水場を過ぎ展望の効く斜面をトラバースするが、所々で道が崩れていて危険だ。踏み跡も消えているところが多い。
我慢して300mほど進んだが諦め、分岐まで引き返すことにした。この道が使えないなら、武甲山経由で小持山に行くしかない。今日の第一目的は小持山から高ワラビ尾根を下ることにあり、武甲山には当初登る予定はなかった。
天気もいいことだし、武甲山からの展望を楽しむことにしよう。
さっきあれほどの急登をこなしたにもかかわらず、ここから武甲山の肩まではさらなる長い長い登りである。周囲が雑木で開けているのが救いだ。奥秩父の黒々とした山塊の上に、南アルプスの白いラインがくっきりと浮かび上がっている。
上に見える稜線がゴールか、いや違ったまだ上がある、これをまた何度も繰り返して、やっとのことで肩の十字路へ登り着く。
2001年に生川から登った時も、頂上直下の急登に苦しんだ。武甲山はどこから登っても「登らせてくれる」山である。 武甲山頂上の展望台に着くと、秩父市の町並みの向こうに秩父や西上州、雪冠した上信の山並みが見事だ。両神山の後ろにはうっすらと北アルプスも望める。
武甲山は1300m程度の山といっても、平地からスッと立ち上がっている独立峰なので、頂上から秩父盆地を見下ろしたときの高度感はすごいものがある。目の下に見える砕石工事現場やフェンスがなかった時代に登っていたら、いっぺんでこの山のリピーターになっていただろう。
シラジクボへの長い下りに入る。シラジクボは十字路になっていて、さっき歩くのを諦めた長者屋敷ノ頭からの道も来ているが、通行禁止の板が立っていた。長者屋敷側には通行禁止の表示は無かったように思う。
ここには生川からの道も上がってきてはいるのだが、どちらにしても、今から登る小持山はどこからアプローチしても時間のかかる山である。
大きく登り返して岩尾根を通過、振り返れば武甲山の大きな三角錐。足元には薄い雪が見え始める。標高1200mを越えているにもかかわらず、今まで雪はまったくと言っていいほど無かった。
今日最後のきつい登りをこなして小持山頂上に着く。北面が開け、武甲山や奥武蔵北部の山々の眺めが広がる。
休憩してさあ、今日のメインである高ワラビ尾根に入る。高ワラビ尾根からタワの尾根を経て武士平に下りる道は、この人気の山域の中では比較的静かなコースといえる。
初めの下りこそ急だが、その後は歩きやすい雑木林の道が続く。次第にアセビの木が多くなり、ついにはアセビのトンネルになる。露岩からの展望台が1箇所だけあり、そこからは奥多摩の山並みが広がるが、目線の位置にはアセビの緑があるので、冬枯れでも尾根からの眺めは今ひとつだ。しかし、今までとは一転して誰にも会わない静かな山歩きとなる。
植林帯となり、タワの尾根への分岐に到達。距離的には、高ワラビ尾根は意外にあっけなかった。
薄暗い植林の中を下るがここは急降下の斜面でかなり手ごわい。一応ジグザグに踏み跡が切ってあるのだが、落ち葉に埋もれて判別しづらい。ピンクテープを目印に滑り台のような斜面を、それこそ転げ落ちるように下る。
いつの間にか尾根を外してしまい、踏み跡に復帰するのに何度も苦労する。こちら側を登りに取らないでよかった。
「五色岩滝」への分岐を見送りあくまで直進。ようやく傾斜が緩まってきたと思ったら小さいピークから踏み跡が2分している。どちらに行くべきか大いに悩む。
地形図とコンパスで進むべき方向を決断し下る。何度か迷わしい分岐に出ては地形図をにらむ。下のほうに人家が見え始め、正面には顕著なピークが現れる(雄山であろう)。林道の横切るタワの尾根のコルはすぐだった。
自分の読図力に少し自信が持てたが、分岐で違うほうを選んでも結局はここに着くのかもしれない。
コルには石仏様が寂しげに佇んでいる。ここから西進する道はウワゴウ道と呼ばれ、山間の廃村を経て大谷(おおがい)集落に出る。
浦山郷には有坂や山掴など廃村が多く、それ目当てで訪問する人もいるそうだ。アプローチや下山後の行程でこうした廃村巡りを絡められるとまた、奥武蔵の山歩きの楽しみも広がることだろう。ただ今日はその方面には行かず、すぐ下の武士平に下りる。
登山は、温泉や列車の旅、史跡巡りなど様々な楽しみを組み合わせてプランニング出来る、実に柔軟性の高い娯楽である。
武士平の集落から舗装車道を下り、30分と少しで大神楽沢橋(おかぐらさわばし)バス停に着く。山中では、節分草には出会えなかった。
浦山口駅下の民家の庭では早や梅が満開。今年も春の到来は早いのだろうか。
そして福寿草(園芸種?)に混じって節分草も顔を出している。まだ時間もあるので、武州日野駅のカタクリ自生地に寄り道し、節分草を見て行くことにした。
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