奥武蔵の大持山は一般道で2回登っているが、今日は西尾根を辿ることにした。浦山大日堂から直接尾根通しで山頂に至るコースだ。指導標は無く踏み跡は薄いとの話だが、これが大持山への最短路となる。
西武秩父駅から2分ほど歩き、大通りに出る。武甲山の写真を撮ろうと思うが逆光でいまひとつだ。
浦山大日堂行きのバスに乗る。この秩鉄バスは、山間の道に入るとスピーカーでオルゴールを鳴らし始め、付近の人々にバスの到来を知らせる。
浦山の寒村
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西尾根の取り付き口
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終点で下車し少し戻る。今冬一番の寒さがやってきた。フリース、手袋とアクリルの帽子を身に着ける。
山の斜面にへばりつくようにたたずむ浦山の集落は、ひっそりとしていて独特の雰囲気がある。浦山谷は日本三奇郷のひとつということだが、秩父の市街地と意外に近いこともあり、周囲の近代化とともに離村が進んでいる。浦山ダムが出来てからは細久保、冠岩など廃村ばかりが目立つようになっている。
「奥秩父線16号」の黄色い標柱が立つところが取り付き口になる。簡易舗装の小道を上がって行く。民家を縫うようにして先に見える林の中に入る。
最初からなかなかの急登。背後には雑木林の向こうに、早くも長沢背稜が望めてくる。壊れかけた小屋を見たあと、下のほうからオルゴールの音が聞こえてきた。乗ってきたバスが折り返し発車したようだ。
高度をどんどん上げ、下界の音も聞こえなくなる。ほどなく送電鉄塔の基部に着く。東側が開け、鳥首峠のたわみの先に蕨山から有間山稜あたりの稜線が見上げられる。
急坂が一息つき、2つ目の鉄塔を過ぎる。振り向くと三ツドッケの特徴ある突起が目立っている。
このあたりまでは鉄塔の巡視路として道がつけられているのでわかりやすいが、これ以後はやや踏み跡が薄くなる。しかし全く道がなくなることはない。
平坦な道から焼山(793m)への登りとなる。西側から巻く踏み跡もあるようだが、わかりにくいので尾根伝いに進み焼山のピークを踏む。取り立てて目立ったピークではない。
このあたりは、やせ尾根や低潅木のヤブが若干うるさい植林帯が続く。指導標はもちろん1本もないが、ときどきピンクテープが出てくる。西側から支尾根を合わせるあたりで、遠くに両神山の姿を見る。
長い単調な植林下の急坂となる。ほぼ直登で一番の頑張りどころだ。1300m近い大持山への最短路だからこれくらいの労苦はあるだろう。
ブナのある1142mピーク。正面に大持山
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下のほうから犬の鳴き声、そして銃の音が轟き、森の静寂が一瞬にして断ち切られる。もう狩猟のシーズンなのである。
以前どこかの山で、ハイカーが間違って撃たれたという話を聞いたことがある。今日は一般コースを歩いているわけではないから、ちょっと不安になる。熊除けの鈴を取り付ける。今日は熊対策というよりも、人間に対しての合図である。
ようやく植林が途切れる。おそらく標高1000mを越えたあたりだろう。あたりはきらめくような自然林一色の眺めとなる。樹間から青空も覗く。
しかし依然として急傾斜の道は続いている。いや道と呼べるような踏み跡はこのへんではもうない。しかし尾根筋は明瞭なので迷いようの無い登りだ。ただし何本かの支稜が合わさるので、下りにとると紛れがあるかもしれない。
自然林の尾根
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大持山頂上
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樹林はすっかり葉を落としてはいるものの、やはり自然林に包まれた登りはいい。さらに登るとブナも出てくる。
植林の多い奥武蔵にも、このような純林を楽しめる場所がいっぱいある。鳥首峠経由の道を含め、大持山の西面に伸びている何本かの尾根はなかなかの穴場かもしれない。
1142mピークはブナなど豊かな自然林の中だ。腰を下ろすスペースもあって休息にいい。
ここで初めて、正面に大持山を視界に捉える。まだ高度差150mほどあるが意外と近い高さで見えている。
大持山へはここから20分ほど。ようやく、のんびりした穏やかな尾根歩きなる。ブナやミズナラを見ながら正面の一番高いところ目指して高度を上げる。
登り着いた大持山頂上には誰もいなかった。最短路を登った証になったようである。
空はすっかり曇り空。頂上は東側の奥武蔵の眺めだけでなく西面も開け、長沢背稜が雄大だ。大平山・七跳山と芋木ノドッケの間に奥まって見えているのはどうやら雲取山のようだ。
展望の大きく開ける妻坂分岐まで下り、休憩する。日が雲に隠れてしまったので、半端でなく寒い。ここへ来てようやく冬を実感した。持っている上着を全部着てからお湯を沸かす。
そのうち何人か登ってきた。しかし紅葉時期に見られたような、賑わいの山の姿はもはやそこには無く、モノトーンの静寂のみがあたりを支配する。
残りの紅葉
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今年もいろんな場所、ほうぼうの山に登ったが、最後はやはりここ、自分の一番落ち着けるふるさとの山に戻って来るのである。
下山は鳥首峠を回って、浦山に戻ろうと思っていたのだが、狩猟の銃の音が気になったので名郷の側に下りることにした。
妻坂峠までは何度か歩いた道。左側の植林もかなり成長し、以前よりは眺めが乏しくなってきたように思う。妻坂峠には別の猟師と犬がいた。
名郷までは植林帯を下り林道を50分ほど歩く。途中でまだ赤々とした葉を残しているモミジの木を見る。この暖冬なら、名郷集落付近はまだ紅葉が残っているかと期待したが、さすがにそれは虫が良すぎたようだ。
さわらびの湯に寄り道してから、飯能駅までバスで戻る。温泉もバスももう、行楽シーズンの混雑さはなかった。
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